メカデータ(第一部)


作中で登場する巨人というものについて注釈する。以下のデータは必ずしも必要なものではなく、本編の情報を補完する目的で用いられる。


 巨人とは、人の姿を模した機動兵器の通称である。十数メートル程度の体躯を持ち、金属製の装甲を纏っている。

 作中現在、動力装置として核融合炉を用いている。核融合炉には主に二種類あり、以下に示すようにそれぞれ異なる特性を持つ。


二二炉

 重水素同士を反応させる。反応速度に長けており、かつ燃料効率が高いため空戦型に用いられる。

二三炉

 重水素と三重水素を反応させる。コストが小さく整備性が高いため陸戦型に用いられる。

 この他に、四三炉というものも存在した。エハンスの科学者が開発したとされ、他を凌駕する出力を発揮する。国の滅亡とともに技術が消失し、さらなる進歩のないまま歴史の闇に葬られている。



 駆動系は人間の筋肉細胞をナノマシンで再現した人工筋肉と骨格構造により、より高い可動範囲と運動性を実現している。それらは高高度において既存の戦闘機を凌駕し、地上において戦車を圧倒した。作中現在、空戦型巨人と陸戦型巨人が戦争の主力であるのは、他の機動兵器が淘汰されつくしたからに他ならない。

 


巨人は戦闘域において三つに大別される。

空戦型、陸戦型、空陸型。

以下に詳細を示す。


空戦型

 三次元戦闘を目的とする巨人。本来陸戦型巨人とは全く別の兵器として考案された者であり、マンエアクラフトと呼称するのが正式である。

 マンエアクラフトという機動兵器は我々の住む世界における航空戦闘機とほぼ同様の設計思想を持ち、主に制空権の確保や対地攻撃を目的としている。

 航空戦闘機と同等の巡航速度に加え比較にならないほどの運動性を持つ巨人が、特に先進国において航空戦力としての戦闘機を駆逐したと考えられている。速度に優れる代わりに装甲が薄く、一撃離脱の戦法を得意とする。極めて高い運動性を持ち、誘導弾などを命中する前に撃ち落とすことも可能。

 拠点制圧に特化した重装型や、対巨人戦専門の格闘型など幅広い種類がある。


陸戦型

 地上戦を目的とする巨人。こちらも正式名称があり、超重歩兵と言うがその呼称は作中現在ほぼ用いられていない。超重歩兵は我々の住む世界における戦闘車両とほぼ同様の設計思想を持ち、幅広い地上戦に対応できることが求められる。

 こちらも運動性で凌駕する巨人が戦車にとってかわった形となっている。装甲が厚く、火砲などを受け付けない。推進機により多少の飛行はできるが、空中での運動性は著しく低い。非常に高い制圧力を持つが、実体剣であれば装甲を容易に切り裂くことができ、体空戦型に著しく不利を被る。


空陸型

 巨人の、特に陸戦型の高性能化により、空戦型と陸戦型の境界が曖昧となった結果生み出されたハイブリッド。対巨人戦における空戦型優位を覆すために陸戦型を発展させたと考えられているが、一方で空戦型の装備重量を向上させるための試みだとされることもある。性能としては高高度性能や最高速などは空戦型より低く、地上の走破性は陸戦型には及ばない。対巨人格闘のみを念頭に置いた巨人であることは間違いない。

 まだ新しい概念であり厳密な定義付けがなされておらず、正式名称はない。陸戦型にフライトユニットを取り付けただけのものから、空戦型を改修したものなどもあり純粋な空陸型はまだ少ない。

 一方で、過去にも空陸型といえる巨人は存在した。本編の十三年前に滅亡したエハンス王国が運用していた機体は空陸型と同一の思想を持っていた。中でもエハンス騎士が搭乗したとされる巨人は作中の時系列での技術力をはるかに上回る性能であるとされているが、今はその技術は公の場所から姿を消している。



評価指数

 テンペル財団の考案した指標で、二桁の数字によって巨人の性能をパラメータ化している。スペックの可視化が目的であり、巨人に対する知識の少ない顧客に対しては詳細な資料より先に提示されることが多い。


トルク……主に格闘戦での性能を示す。駆動部の性能、つまりは筋力のことであり、この値が大きいほど膂力が高く実体剣を用いた戦闘に有利となる。

スピード……巡航速度を示す。この値が大きいほど高速で移動できる。

運動性……反応速度や、加速度の操作性を示す。この値が大きいほど攻撃を回避しやすく、対巨人戦において有利となる。

装甲……敵の攻撃に対する防御力を示す。この値が高いほど被弾に対して強く、また実体剣の攻撃も受けることができる。


 一方で装備や火力を考慮に入れないため、合計値を取って一概に巨人の強さの指標ということはできない。その点で使用には注意を要する。

 例1 ネメシス一般機  空

評価指数 合計12.2

トルク 3.1 スピード 3.0

運動性 3.0 装甲 3.1

 例2 ネメシス一般機 陸

評価指数 合計12.3

トルク3.0 スピード3.1

運動性3.1 装甲3.1


尚、基準は3.0である。空、陸、空陸ともに、全てのスペックは財団が設計した零型という量産機との比較において成り立っている。


 上記のスペックは対巨人戦に限定した性能比較である。第一部中盤より、空陸型が戦場の中心となっており、基準の統一も検討されている。


 空の巨人と陸の巨人で、評価指数が異なる。以下に示す簡易比は、各評価指数の値を空と陸で換算し直す場合に用いられるもの。空の巨人のトルク2は陸の巨人のトルク3に相当する。なおこの場合合計値はあまり意味をなさない。

 

空:陸:(空陸)

トルク 4:6:5 スピード  6:3:4

運動性  6:4:5  装甲  3:6:5


以下の巨人リストは第一部に登場する全ての機体を示しており内容に関わるため、もし第一部を読了してくださるようなことがあればその時にまた閲覧していただくのが適当と存じます。




ネメシス

 ネメシスの巨人は財団製のものがほとんどであるが、巨人とともに入隊した隊員に関してはその限りではない。財団の方針として、アドラスティアと対峙するために高性能の巨人が下りてくる。拠点防衛の任務が多いため、空戦型と陸戦型双方が用いられており、空陸型への更新も迅速に行われた。

それに伴い、ネメシス空戦隊は事実上解散した。

 機体の胸部にはネメシスのエンブレム、黒い羽に雷がつけられている。


 アレス(セロウ機)空陸型 合計16.0

トルク 4.0 スピード 4.0

運動性 4.1 装甲 3.9

全高14.0m 総重量177.1t

装備

 可変式実体剣

 手持式機銃

 腰部電磁砲(榴弾砲と換装可)

 財団が、空陸型の到達点とした巨人。陸戦型の装甲、空戦型の運動性を兼ね備えている。武装は簡潔であり、巨人と戦うことのみを目的としている。その性能は極めて高く、それ故に特筆すべき点を持たない。



 七十型(セロウ機)

評価指数 合計11.9

トルク 3.1 スピード 2.9

運動性 2.9 装甲 3.0

全高13.5m 総重量145.8t

武装

可変式実体剣

手持式機銃

 七九七〇年に開発されたため七十型と呼ばれている。トルクが高く作られており、ある程度対巨人戦も意識して作られている。これは仮想敵がウエストバイアであるためである。セロウ機は特殊な剣を装備しており、敵に合わせて幅広剣と長剣を使い分ける。



 アテネ(シスル機) 合計16.2

トルク 4.3    スピード 3.9

運動性 3.9    装甲 4.1

全高13.8m  総重量190.4t

装備

 ロングソード

 パリーイングダガー

 腰部榴弾砲

 イージス(後述)を模して造られた巨人。強度が高く互換性の高い部品のみを用い、最終的にはエハンスの技術用いてイージスを超えるために生み出されたという背景を持つ。特筆すべき点として、関節部に特殊な加工がなされており、耐摩耗性、耐衝撃性が他の機体に比べ抜きん出ている。これにより、格闘性能が劇的に向上している。



 試作型ハウンド(シスル機)

評価指数 合計 14.6

トルク 4.1 スピード 3.3

運動性 3.7 装甲 3.5

全高12.6 総重量188.5t

武装

ロングソード

小型機銃

脚部連装榴弾砲

 ウエストバイアの対巨人戦を念頭に置いた試作機。高いトルクと運動性を持ち、全身のスラスターで加速度を自在に操る。オースロスに着想を得た設計思想は、しかし操縦に癖があり運用しづらい難点を抱えていた。動力部が脆弱な点も懸念材料の一つといえる。



ウィシー機(フライトユニット装備)  陸戦型(空戦型)

評価指数 合計 12.6(12.3)

トルク3.2(3.8) スピード3.4(2.6)

運動性3.2(2.6) 装甲2.8(3.3)

全高10.4m 総重量217.0t(231.0t)

装備 

 ツヴァイハンダー型実体剣

 手持式機銃

 ロングソード型実体剣

 彼がグレイウルフといわれる所以となった純白の巨人。わざわざ財団から互換性のある強化部品を仕入れてカスタマイズしている。フレイン開戦までは陸戦型として運用していたが、デビルズではフライトユニットを装備している。



 アドラスティア

 ネメシスと同様に、財団の資金を背景に強力な巨人を用いている。目標の破壊以外に任務が存在しないため、すべての機体が空戦型となっている。速度重視の空戦型の中でも特に防御を軽視した設計の巨人が多い。

胸部にはアドラスティアのエンブレム、白い羽に炎が描かれている。


ブランペイン機(ネーメ) 空戦型

評価指数 合計 15.3

トルク 4.0 スピード 4.4

運動性 4.7 装甲 2.2

全高13.6m 総重量120.7t

装備

バスタードソード型実体剣

手持型機銃

 財団が空戦型の極致とした、極めて高い運動性を持つ巨人。代償として防御は完全に無視されており、機銃弾でも集中砲火を受ければ簡単に動力部に届くほど脆弱である。

 テンペルもこのとても売り物になりえない巨人の開発に難色を示したが、アドラスティアの破壊という側面において最も優れていることに気づき承認した。


 オルコック機 空戦型

評価指数 合計14.8

トルク 3.3 スピード 4.0

運動性 4.4 装甲 3.4

全高13.7m 総重量168.8t

装備

実体剣

プルバップ式小型機銃二丁(銃剣に換装可)

小型電磁砲一門

 格闘戦を行わないオルコックのため、トルクを捨て運動性に特化させた巨人。その攻撃性もさることながら重爆撃型などに応用の効く設計であり、破壊と見本市というアドラスティアの存在意義とも合致している。

 

 ツィナー機(グリグ機) 空戦型

評価指数 合計14.8

トルク3.9 スピード3.7

運動性3.7 装甲3.5

全高13.6m 総重量181.2t

装備

クレイモア型実体剣

手持型機銃

 ふたりの希望により、全く同一の機体が用意された。実際は彼らの特性を発揮するには不十分であり、ツィナーはより攻撃的な、グリグはより守備的な巨人でこそ本来の実力を発揮できる。見本市としても破壊としても十分なこの機体はアドラスティアとして完璧であったが、ふたりにとっての最善ではなかったのだ。


 ジェラール人民軍

 エハンスさえ食いつぶした侵略国家の軍には、とにかく量産性が要求される。陸戦型が重要視され、空戦型は地上を制圧したのちに用いられる。そのためオーバースペックの試作機は作られず、絶えず生産性を意識した機体が開発される。


 海軍


量産機(本編未登場)

評価指数 合計10.9

トルク2.6 スピード 2.8

運動性2.7 装甲 2.8

全高12.0m 総重量122.7t

装備

実体槍

小型機銃

 ジグール湖に実戦配備されている巨人。東岸のカラノスは高い軍事力を持つため、仮想的として意識せざるを得なくなったため開発された。空戦型のノウハウはないに等しく、性能は高くない。


 評価試験機

評価指数 合計14.8

トルク 3.5 スピード 2.5

運動性 2.8 装甲 6.0

全高13.1m 総重量216.0t

装備

実体槍

大型機銃

 空戦型巨人の性能向上のために装甲に特殊合金を用いたもの。その装甲がこの巨人の最たる特徴であり、陸戦型をも凌駕する堅牢さを誇る。その代償として、重量が空戦型としてはあまりに重く運動性において十分な性能を発揮できない。

エースパイロットを用いたが、キロム海峡で撃墜されデータを得ることができなかった。もとより生産性に難がありすぎたため、量産化の予定は開発前からなかったと言っていい。





 陸軍 


ライル機 空陸型

評価指数 合計14.0

トルク3.3 スピード3.5

運動性3.5 装甲3.8

全高12.5m 総重量187.2t

装備

ロングソード型実体剣

対巨人榴弾砲

手持式大型機銃

 ジェラール陸軍の新型機。トルクと運動性が高く、アドラスティアなど正規軍以外の戦力を意識した設計となっている。



 グラム中隊機(フレイン開戦)空陸型

評価指数 合計12.5

トルク3.3 スピード 2.7

運動性2.9 装甲3.6

全高10.3m 総重量219.0t

実体斧槍(シモン機)

バルディッシュ型実体槍(ベルナール機)

ロングソード型実体剣+パリーイングダガー(シャルル機)

手持型機銃

 量産機にフライトユニットを装備しただけの機体。フライトユニットはエハンス技術者に秘密裏に設計を依頼したもので、極めて簡素なつくりとなっている。自然ほとんど陸戦型であり、運動性は低い。


 グラム中隊機(デビルズ開戦) 空陸型

評価指数 合計14.2

トルク3.7 スピード3.5

運動性3.5 装甲3.5

全高12.6m 総重量192.9t

 ライル機とほぼ同様のもの。騎士たちは自分で整備を行うため、その分性能に差異が見られる。


 イージス(推定値) 空陸型

評価指数 合計16.7

トルク4.8 スピード3.5

運動性3.4 装甲5.0

全高12.0m 総重量210.0t

装備は上に同じだが、格闘武器は特殊金属の一体成型となっている。

エハンスの盾、エハンス鉄甲騎士団の巨人。動力装置の高性能に任せ、陸戦型の強みを一切失わずに三次元戦闘をこなす。その性能はまさに、完成された巨人と言っていい。その技術はエハンスの技術者だけが所持しており、ロストテクノロジーとさえ呼ばれている。


 ドラコ(推定値、第一部未登場) 空陸型

評価指数 合計16.7

トルク4.6 スピード3.9

運動性3.5 装甲4.7

全高12.2m 総重量206.7t

エハンスの剣、エハンス竜騎士団の巨人。こちらも特殊な動力装置を用いており、空戦型の機動力を取り入れる形で設計されている。攻撃性能に特化しておりエハンス戦役では三百機を超える巨人を撃墜したが、最終的に巻き返され出撃した全てが破壊された。



 ウエストバイア公国軍

 南のジェラールに対抗するために、高性能機の開発が急がれている。ジェラールとは異なり、海峡で敵国であるキロムと接しているため空戦型に重きを置いている。


 ブル 空戦型

評価指数 合計11.5

トルク 2.7 スピード 2.9

運動性 3.0 装甲 2.9

全高13.4m 総重量144.3t

武装

実体剣

回転型シールド

手持型機銃

背部大型機銃

ウエストバイア軍の主力量産機で、通称ウォーターブル。海峡方面軍に配備されている。回転シールドにより機銃には強いが、トルクが弱く格闘戦は不得手。癖のない操作性の割にパイロットの技量を引き出す力が強く、熟練パイロットでも愛用する者は多い。


 ブル 陸戦型

評価指数 合計11.6

トルク2.9 スピード3.0

運動性3.2 装甲2.5

全高11.0m 総重量199.5t

通称サンドブル。主に南方戦線で用いられるが、陸戦型にしては装甲が薄く乱戦には向いていない。操作性は高く、黒い箱でも主力として用いられている。


 ブル(デビルズ開戦) 空陸型

評価指数 合計11.7

トルク2.6 スピード3.2

運動性3.3 装甲2.6

全高12.7m 総重量174.0t

統合計画により対巨人戦はすべて空陸型で行うことにした。通称スーパーブル。ブルが持つ操作性の高さは健在であり、新人から熟練パイロットまで幅広く受け入れられた。


 量産型ハウンド 空陸型

評価指数 合計13.7

トルク 3.3 スピード 3.4

運動性 4.1 装甲 2.9

全高12.6m 総重量198.0t

 シスルの手に渡ったハウンドを空陸型に仕様変更し、さらに生産性を高めたもの。試作機よりはさすがに各部品の精度が悪いが、十分な対巨人性能を持つ。

 

 オースロス 空戦型

評価指数17.4

トルク4.9 スピード3.9

運動性3.9 装甲4.7

全高20.4m 総重量274.2t

装備

背部榴弾砲(ロケット弾)

腰部八連装榴弾砲

腕部大型機銃

実体剣

 第七実験部隊が用いる巨人。元はオーナーズが用いた重爆撃機であり、高高度性能をさらに高めてある。推進力と重武装を両立させつために全身にスラスターと弾倉を取り付け、燃料タンクも一部外付けとなっている。その甲斐あって生み出すことのできる加速度は人間の耐えられる域を超えており、薬物投与によりパイロットの苦痛を軽減している。

 実験部隊の隊長であるモルガン機は赤く塗られている。


 キロム国防軍

 海峡でウエストバイアと敵対しているが、現状他に主だった敵がおらず開発は遅れている。一方でテンペル財団の拠点であるため一部の技術は流れている。北極大陸の領有権争いに発展する可能性を考慮して極秘裏に耐寒性能の高い巨人を開発している。


七十型

全高13.5メートル

評価指数 合計11.9

トルク 3.1 スピード 2.9

運動性 2.9 装甲 3.0

武装

実体剣

小型機銃

キロム国防海軍の主力量産機。セロウ機と同様。寒冷地仕様の試作機もこの七十型をベースに開発されたが、十分な性能を発揮できず不採用となった。



その他兵器


 電磁高射砲

 対巨人用の火器。高射装置を用いて極めて高い精度で特殊合金砲弾を発射することができる。威力は低いが動力部に複数回命中すれば破壊できるほか、駆動部に撃ち込むことで機能不全に陥らせることも可能。

 用いるには巨人に劣らぬほど高い錬度を要する。


 機動空母グース

 ネメシスが用いる軽空母。自動航行の最新技術が用いられており、卓越したクルーであれば八人で動かすことができる。巨人を最大で十三機収納でき、カタパルトで発進も可能。対艦ミサイルや機銃など武装はあるが、巨人に対しては気休め程度の効力しかない。ロイスを拠点としている間は、ここが居住スペースとなる。基本的には搭乗員、整備班合わせて三十人ほどになり、それに歩兵や砲兵が加わる。

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