IRON CHEEK

 登場人物


シモン・ジェイス・ド・グラム……ジェラール陸軍准将、独立部隊であるグラム中隊を率いる。かつては騎士団の副団長であった。

ベルナール・デュラン……ジェラール陸軍少尉。騎士団では一番槍を担っていた。

シャルル・ヴァン・ブロワ……ジェラール陸軍特務大尉。剣を扱う騎士で、シモンが信頼を置く参謀格。

アレクサンダー・ライル……ジェラール陸軍中将であり、西方面軍幕僚長。対エハンス戦線を指揮したジェラールの侵略の旗印。

ミレーヌ・ウリエル・マルキール・エハンス……エハンス第一王女。溌剌とした性格だった。ジェラール侵攻で生死不明だったが、存命しているという情報が上がっている。



 天から地までを靄に覆われ、むせ返る人の群れ。元はと言えば、富国強兵の名の下に黒い煙を撒き散らしたのは彼らだ。そのようなものに冷笑を与えたところで、この息苦しさが消えるわけではない。もとより私には、緩めるような頬などないのだ。

 窓越しの景色にも飽きてきた私は、何をするでもなく部屋の大きなテーブルに腰掛けている。あてがわれた広い部屋もぬるく風が吹くばかりで、そこにジェラールが標榜している帝国主義の栄華などありはしない。ただ荒廃が、人々の足を後ろへ後ろへと引きずっていた。

 異郷の地でも軍属となった以上すべきことは何も変わらない。自らが培ってきた技術がジェラールでも認められるのは至極当然のことだ。だが新興国家で順調に出世をしている自分を客観視すれば、嘲笑の的であるのは明らかであろう。国を捨てたものに国を憂う道理などはない。私と同じように何もない広い部屋で、ひとり視界を虚ろに動かしていた。

 だが侵略戦争を仕掛ける国の軍人に、物思いに耽っていられる時間は少ない。ドアが開く音に私は直立の姿勢をとった。

「准将。司令部からのお呼び出しです」

「わかりました。すぐに向かいます」

 襟を整え部屋を出ようとした時、あることをし忘れていることに気がついた。それは私がここに来てから必ず行なっていることだ。

 かつて煌めかせた紋章を上着の胸の裏に付ける。表面は少し尖っており、ちょうど心臓の位置に刺さる。それは忘れ得ぬ記憶をひとつの痛みとし、自らを引き締めるためのものだ。

 かつてと比べて、高潔だったはずの精神は曲がり萎れてしまった。だがどこであっても、どんな場合であっても、すべきことは同じであった。

 北方方面軍の司令がこのような場所に出向いていることこそ、異常事態といえる。首都にこもっているのも飽きたということか。それとも、必勝を期してわざわざ出向いているのか。

「シモン・ド・グラム。只今参りました」

「おお、シモンか。実はお前に次の作戦の指揮を任せたいのだ。ここに資料があるから、内容を確認してくれ」

「承知しました」

 ……これは。思わず漏れ出した声を、私は口を押さえてかき消すことに努めた。

「目標はフレイン共和国。歴史上は君の祖国の、宿敵だった国だな。北部にある鉱山地帯を抑えれば、我が国の資源は潤沢になろう。巨人の生産性も今よりはるかに向上する。そのため、二ヶ月のうちには何としても手に入れたい」

「して、こちらの戦力規模は」

「エハンスの時に比べて著しく消耗している。敵の精鋭部隊がめっぽう強く、手こずらせてくれたからな。だがまあ、今ここにいる分だけではもちろんないぞ。ウエストバイアに向けていた第三機甲師団をやる。ライル中将はもう到着しているから、一度話しておくとよい。また、君が持つ子飼いの巨人中隊は自由に使ってくれて構わん」

「その内容でしたら、十分に可能と存じます。ただ……」

「ただ?」

「昔から言われます。フレインの軍は弱いが金はある。傭兵に気をつけよ、と。情報を集めさせたところ、ネメシスが動いているという話もあります」

「義憤の名を持つ軍事組織か。もしその通りであったなら、苦戦は必至となろうな」

「その場合、必ずしも勝利は確約できぬものと思っていただきたい。もとより大義のない戦。他の国全てを相手取りながら戦える敵とは思えません。無理を行えばバイールの二の舞となりましょう」

「過ぎた発言は慎むべきだ、准将。貴君に自由な行動を許しているのはその武勇もあるが、エハンス騎士を重用しているという喧伝のためでもあるのだ。それを良しとしない将官がこれを聞いたらなんと喚き散らすか。東のマルクス中将などは、小耳に挟んだだけで卒倒するやもしれんからのう」

「申し訳ございません」

「まあよい。期待しているぞ、シモン。下がってよい」

 自室へと続く通路。窓から見る空はどこまでいっても灰色で、どこまでいっても不透明だった。嫌悪を覚えるわけではない。その拓けない雲が自分に似ていると、ただ漠然と思ったのだ。

 部屋に戻った私は地図を広げた。敵の位置を予想するためだ。敵はこちらが鉱山を狙うことは把握しているであろう。

 であれば、どのように攻める。戦力規模を把握するため、まずは先遣隊を送るか。それとも戦力の全てをもってすぐにでも制圧するか。こちらの正規兵の練度は低い。巨人の性能も上回っているとは言えなかった。それも評価試験機がキロム海峡で撃墜されたからなのだが。その搭乗員は、腕はあるが功を焦るきらいがあったと聞く。そのようなものを交戦試験に用いたことの方が問題であろう。

 試験機は駆動系と装甲に新たな技術を採用しており、陸軍が用いる陸の巨人にも試験結果を反映する予定であった。とはいえ個の力を重視しないジェラールでは、せいぜいプロパガンダに使われる程度か。

 それでも性能では、各国の空の巨人を凌駕していた。ウエストバイアも新型を出してきたようだが、単機の性能ではそれさえ上回っている。

 地形はすでに把握している。とは言うもののフレイン北部は砂漠になっており、高地も低地もない。つまり攻めの急所がないのだ。

 どうせなら、先遣隊のひとつも送ってやればよい。本当にネメシスが呼ばれているのなら、こちらの戦力など情報筋からお見通しであろう。であれば正面から叩き潰す以外の策は、自分には与えられていない。

「これで出世も終わりかな」

 ひとりごちた私の声は、砂嵐にかき消された。

 もしそこにいるのが他の傭兵あるいは正規兵のみの場合、先遣隊だけで制圧できるよう調整する。フレインの正規兵は弱い。巨人も劣化品を用いているため、第三師団はともかくうちの兵ならば全く相手にならないはずだ。兵はもう駐屯地にいるであろうから、送っても問題はない。

 ノックに応じる。その名は忘れもしない。かつて私を破り、背後にあった王国を滅ぼした男だ。第三師団長を兼ねているが、彼はジェラール西方面軍の幕僚長だった。

「ライル殿か。戦場以来ですな」

「まさか将官にまでなるとはな、シモン。我が兵を頼む」

 私はすぐに作戦の話を切り出したかったが、少しの間与太話に付き合わされた。

「まずは先遣隊を出したいのですが、これを私の子飼いで行ってもよろしいでしょうか」

「戦力の小出しは一見して愚策。どのような意図があるかはわからん。だがやるならば、私の兵を使ってほしい。ウエストバイアの狂った餓鬼どもと、日夜戦ってきただけのことはあるぞ」

「わかりました。では歩兵二個中隊に巨人を四機、お願いします」

「多いな。その半分でよい」

「しかし、敵は傭兵を使っていると言う話も聞きます」

 中将は歪んだ笑みを浮かべると、テーブルに手をついた。音こそしなかったが、その静かな動作には有無を言わさぬ力があった。

「我が兵は負けんよ。フレインなぞに」

「では、そのようにします」

「それだけだ、シモン。失礼した」

 中将はそう言うと去っていった。苦笑を隠すことに、私は成功しただろうか。悔しいが、国力の差だ。そのせいでこのような男に、私は破れねばならなかったのだ。苦笑は隠せても、歯噛みしている口元は隠せなかった。きっと正面の男は、王国に攻め入る直前にも言っただろう。

 我が兵は負けんよ。エハンスなぞに、と。

 私は聞きもしないその言葉が耳の奥で反響することにひとり閉口していた。

 工業地帯の夜はなかなか更けない。靄が遠くの光を反射するからだ。太陽が地上を去ってもほの明るい空は、漆黒の夜空などよりも余程大きな暗さを孕んでいた。

 地図を広げても、雑念と疲れが大きく手につかない。いつしか私は机に伏していた。

 私は砲火の中にあった。横から懐かしい声が聞こえる。

――シモン、お前は目が効くな。

「目、でございますか」

 その男の顔ははっきりと見えない。だが私はその男を知っていた。知っているどころではない。私が最も敬愛していた男だ。

――ああ。俺のような猪武者にはない、先が見える目をしている。国を守るために必要な目だ。

 男が浮かべる微笑は吹き抜ける風のように爽やかで、同時に空っぽだった。

――シモン。後ろを、エハンスを頼んだぞ。

「団長様!」

 がばりと体を起こすと、そこは無機質なコンクリートの部屋があった。

 騒ぎ声が将官用の寝室にまで響く。兵の規律は予想していたより緩んでいる。こんなものでも数を揃えればウエストバイアさえ叩けるのだから大したものだ。そう言ってみたところで、現状がどうにかなるわけでは決してない。

 部隊編成を行う。ネメシスなどが存在しない想定で攻撃を行うなど、お笑い種以外の何物でもない。であればこそ、ここらで見せておく必要があるのではないか。

 もしその後の作戦まで失敗しライルに弾劾されるとすれば、その時までには用意を済ませておかねばならない。そのようにならぬためにも、なんとか大敗のみを防いでいく。

 ネメシスがいたとすればこちらの戦力など始めからわかっていようから、その上では先遣隊の損失以外は考慮に入れずともよくなる。

 気がつけば、空は漆黒に染まっていた。ひとたび光を失えば、靄が星明かりも遮るため真っ暗に近い。

 私はつくられた灯火の中で、明日の出兵のことを考えていた。先遣隊は全滅。念のため子飼いにつけさせておいたところ、巨人はいなかったという。

 敵は高射砲部隊を用いてこちらの巨人二機を破壊せしめた。これはとんでもないことだ。大地の巨人の装甲は厚く、並の砲弾は届かない。これを破壊するためには動力部を正確に狙い、何度も同じ場所に命中させる必要がある。これには極めて性能の高い演算装置と、よく訓練された兵が不可欠だ。

 報告を聞いた時、私はあることを確信した。そこにいるのが精鋭として知られる傭兵部隊、ネメシスであると。

 そしておそらく、キャンプを襲った二発の砲弾は彼らのものだろう。弾から察するにこれは旧式の野砲だ。それも極めて小規模のもの。何世紀も前であれば最新鋭の技術だろうが、この時代に存在すべきものではない。もとより交戦地点はここから四十キロ近く離れているのだが。

 彼らは挑発をしている。それは我々が万全となるのを怖れているのだ。であればこそ入念な準備のもとに作戦は行わなければならない。私は今一度地図を見直そうとした。

 ドアを叩く音が聞こえる。入室を促すと、背の高い男が現れた。

「グラム様、全員を食堂に集めました。俺たちの話を聞いてください」

「私のことは隊長と呼べと言っただろう、ベルナール。内容はだいたい想像がつくが、わかった。向かおう」

 ベルナールは騎士団の一番槍だった男だ。その操縦技術は高く、崩壊した対ジェラール戦線で敵機二十機を撃墜する獅子奮迅の活躍を見せた。また槍にも堪能で、団長にただひとり土をつけたことで知られている。

 食堂には子飼いの兵士たちがいた。かつては皆、誇りあるエハンス鉄甲騎士団の一員だった男どもだ。だが敗戦と同時に、その巨人は研究用の一部を残し全て破壊された。騎士は全員が裁判にかけられ死を言い渡された。団長の必死の助命嘆願により彼一人の命で残る全ての騎士が生き残った。そして我々は編入され、ジェラール兵となったのだ。団長のことを思えば、待遇の悪さなど何のことはない。だが国を捨てた兵士と呼ばれるのは耐え難い屈辱だっただろう。

「話があると聞いたが」

「隊長殿。猪武者のベルナールでは伝わりにくいところもあるでしょう。俺が話します」

「シャルル、いいだろう。言ってみよ」

 つまるところ、彼らのしたいことはただひとつだった。ジェラールは戦争によって疲弊し、かつての国力には劣る。今こそ反旗を翻し、積年の恨みを晴らそうというのだ。それは敵の手に落ちてからずっと願い続けていたことであり、屈辱に耐えている理由でもあった。

「ならん。今の我々ではジェラールから領土を奪い返すなど無理だ。だいいち、王族がことごとく亡くなられたというのに一体どうやって国を立て直す」

「それなのですが、実はひとつ噂があるのです。王族の中で、亡命に成功なさった方がおられると。その噂を聞くに、これは私が出した推測ですが、それはミレーヌ王女様ではないかと思うのです。殿下は隊長にも懇意であられました。今後、各地での作戦に乗じて殿下を捜索することをお許しいただきたいのです」

 それは寝耳に水であった。私は彼らがジェラールへの復讐ばかり考えていると思っていたのだ。シャルルのこと、おそらく我々への締め付けが弱くなるまで言わなかったのだろう。彼は機を見ることを私より知っている。ゆえにこの役目は、自分のものではないと直感した。

「わかった。その件、お前に任せる。皆、それでいいな」

 声があがる。軍務で団を離れることが多くなってからは、シャルルが率先して団員をまとめてくれている。そのおかげでこの劣悪な環境の中、血気盛んな団員たちが暴動を起こさずにすんでいるのだ。

 自室に戻り、作業を再開する。彼らの決意により、私自身の肩に乗ったものの大きさを改めて思い知らされた。

 私としても応えねばならない。それは結果を残して部隊を存続させることだ。ジェラール軍全体で見てもここまで強兵の揃った部隊はないだろう。そうなれば兵士は自由に動くことすら困難になる可能性がある。次の作戦は全権を持っているため、負けの責任を押し付ける相手がいない。隊を守るという点では、非常に難しい戦だった。

「これではいかん」

 頬をひとつ叩く。私は何を考えているのか。勝てばいいではないか。ネメシス地上部隊にとって師団の兵など子供同然だろう。であれば彼らに相手をさせておけば良い。我が隊はそこを通過して敵の本陣を叩く。要である鉱山を制圧すれば、国境など問題ではなくなる。そうしてフレインは降伏せざるを得なくなるはずだ。そうすれば民に危険が及ぶことはない。だからこそ本土決戦は避けねばならなかった。

 敵の配置を予測し、進路を決める。敵の砲の射程を見積もり、その合間から攻撃を仕掛ける必要があった。電磁砲は通常の砲に比べ長大な射程と高い精度を持つが、威力は低い。だから動力部にさえ当たらないよう気をつければよい。また地上部隊の配置は、空中戦力の有無はどうか。

 編成まで考え終わった私はもう一度机に伏して、意識を虚空に溶かしていった。

 ホワイトアウトしていた視界が元に戻ると、そこは王宮の泉であった。今も残ってはいるが、ジェラールの資産家の所有となっている。そのため、当時王宮を取り巻いていた柔らかな雰囲気はもはやないに等しい。だからこそ私はこの景色に、焦がれるような懐かしさを覚えたのだ。

 私は甲冑を着ていた。どうやら槍試合の合間のようだ。

 横には少女がひとり。忘れもしない、ミレーヌ王女だった。生まれつき目が悪いのか、殿下はいつも眼鏡をつけていた。

――グラム様、必ず勝ってくださいね。応援しています。

――わかりました。殿下のためならばこのシモン、悪鬼にもなりましょう。

 これは記憶だ。次の試合で、私はベルナールに負ける。彼はこのトーナメント初出場にして、その豪快な戦いぶりと強さで一躍民の心を掴んだ。対する私は過去三回決勝に出場しながら、その後全て団長に敗れている。観客は団長のように華やかな槍や、ベルナールのように荒々しい槍を好む。だが私の戦い方は地味で平凡と言わざるをえない。敵の攻撃を受け攻めることと、隙を見せぬよう立ち回ることのみを考えている。それが貴婦人たちにえらく不人気だったのだ。何がいけない。当時の私にはそう叫びたい気分もあっただろう。

 なのに目の前の五歳に満たぬ王女さまは、あふれんばかりの笑顔で、このようなことを言うのである。それは乳母にでも教えてもらった、精一杯の好意なのだろう。

――このミレーヌは、いつもグラム様だけを見ています。どうかご武運を。

 その後、記憶の通り私は負けた。ベルナールの槍を流しきれず、真っ向から受けてしまったのだ。私は倒れ臥した体をしばらく起こさなかった。王女はどのような顔をなさっているのだろう。失望しているのではないか。私は怖かった。

 自惚れでもなく、ベルナールの勝利は金星だ。拳を突き上げる熱狂的な観客もいるだろう。私は歓声の中重い体を起こし、ただひとつの方向を見た。殿下は顔を伏せて、小さく拍手をしていた。その手に光の雫が落ちるのを見た私は、ついにそれ以上のものを求めなかった。

 思えばこの頃から、私に迷いなどなかったのだろう。殿下のために王国を守る。それは王国亡き今忘れ去られていた感情であり、思い出さねばならない感情であった。

 であればこの夢も、もはや消し去らねばならない。私がお護りすべきなのは幼き日の殿下などではない。今もどこかで息を潜めておられる殿下なのだ。

 目が覚めれば、戦が始まる。その微笑を見るまで、シモン・ド・グラムのこわばった頬がふたたび動くことはない。それは決意であった。

 朝焼け色の靄の下、二百七十六機の巨人が機動音を響かせる。もとは三百機程度いたが、一部を部品調達のため分解した。整備状態の悪い機体など行軍の妨げにしかならない。多少の数の差よりも機動性こそ戦いの肝だ。

 だからこそ私は二百余もの師団の巨人などより、たった十二機のグラム中隊の方に重きを置いていた。おそらくこの二手で模擬戦などやろうものならば、雌雄は即座に決すであろう。無論我が中隊の勝利で、である。

 索敵をしていたシャルルから報告を受ける。敵拠点は南北に延び、フレイン鉱山を守るように砦が設置されている。フレイン軍とネメシスの共同作戦となっている。そしてシャルル曰く、国境軍の練度がどうも以前より高そうだとか。

「ふむ、すると師団だけでは心もとないと」

「いや、むしろ師団に連中の相手をさせておけば脅威ではありますまい。我々は鉱山のみを抑えれば良いのですから」

「それもそうだな。作戦に変更は無し。整備を急がせろ」

「わかりました」

 シャルルは本作戦を統括する私の副官として特務大尉の階級をもらっているため、兵たちに指示をすることができる。細々とした作業はむしろ彼の方がうまかった。

 一時間後、兵が一手に集められた。師団といっても純粋な戦闘要員はその規模ほどは多くない。特に歩兵の価値の相対的低下で、巨人の整備も操縦もできない兵士を持て余すようになった。彼らは巨人の合間を縫って市街に乗り込むが、形勢が敵に傾けば退かざるを得ない。戦いの中心は巨人だった。

 大地を震わせ行軍が始まる。先行部隊はホバー移動でまっすぐ国境に向け突き進む。中隊は後方からやや北に舵を取り鉱山にまっすぐ狙いを定める。巨人の群れが一つの生き物のように動き始めたのだ。

 その行く先をひとつの旋風が走る。その軌跡は、溝を作るように私の前を横切っていった。

 昨夜見たのは若き日の夢。私はそこに微笑と涙を隠した。頬はいつも強張らせ、まっすぐにものを見つめる。

 でなければ前に進めぬと、この時の私は毛ほども疑わず信じていた。

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