華結び
雨野 結
第1話 枯れゆく花ども ①
何をやってもうまくいかない人生だった。受験戦争には惨敗して、二浪もしてやっとの思いで大学に入学した時には、既に自分の夢が何だったのかも、何でそんなことがやりたかったのかも思い出せないほどに落ちていた。
気付いたときには引きこもる毎日だ。
そんな俺を連れ出す友人も、心配する友人もどこにもいなかった。
勿論、恋人と呼べるような人もいなければ、頼れる家族もいない。
孤独の中で、俺は今日も横に転がって天井を見つめていた。
部屋には、必要最低限の物しか置いていない。
と言うよりは、必要最低限以外の物を買えるほどお金がなかった。
引きこもる中で時々日当のアルバイトに出掛けては、なんとか生活資金を稼いでいた。
そろそろ、大学の授業料も払わなければいけない。
俺ははぁ、とため息をついた。
最近思うこととしては、何故生きているのかばかりだった。
生きている価値なんてそんなものはなく、生きていた意味も、多分俺にはない。
死にたいとは思わない。
だが、生きていたいとも思わなくなった。
生きていたいと思わないから、いつしか、死んでもいいな、そんな風に思うようになっていた。
ひぐらしが外で五月蝿いほど鳴いている。
死ぬのなら、今かもしれない。
何となくそう思った俺は、鉛のように重たい身体を起こして、狭い部屋から飛び出した。
向かったのは、とある無人駅だった。
俺が住んでいるところから、そう遠くはないこの駅は、賑やかで華やかな街に似合わないものだった。
この場所だけは、人がいない。
幽霊やお化けが出るとか、そんな噂だってあるくらいだった。
この日も、やはり人の気配は無かった。
錆び付いたベンチに腰掛けて、俺は空を見上げた。
雲一つない、綺麗な夕空だ。
俺にはとてつもなく眩しかった。
死に方は、昔から決めていた。
轢死だ。
何も残さず、ばらばらに、それが本当に人だったのかも分からないほど無残になる。
まさに俺にぴったりだった。
この駅には、ほとんどの電車が停止しない。
轢死するにはもってこいの場所だった。
次の電車が通過するまであと10分。
俺の人生も、あと10分。
その筈だったことは、ちょっとの予期せぬ出来事で変わってしまった。
「死ぬんですか?」
責めるのでも、問い詰めるのでもない、なんとも凛とした声が、後ろから聴こえた。
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