八つの刃先、踏み台に上がる

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八つの刃先、踏み台に上がる




ここは日本乱雑奇形撲滅部隊の一室「S級狩人昇格試験」会場。中は、鉄と草の臭いが漂う。何かを裂く金属音、何かの鳴き声。外からは何が起こっているか想像したくもないが、残念ながら俺は知ってしまっている。


「名嘉ちゃーーーーーーーん!!!こっち終わったよーーーーーー!!!!」


エリアA。主に植物型が集められている。最後のモンスターのクライムを浄化し終えた右京 智(うきょう まこと)は、武器:バルディッシュを背負い、同エリアで一緒に戦っていた奴の名前を呼びながら振り返る。


「智……」


武器:クレイモアを閉まった名嘉 聡(なか みのる)はしかめっ面で智に近づく。そして武器を智から奪い、ブンッと振る。そして同時にジャラッと音が鳴った。


「お前、これは何だ?」


「うっ…………」


「な ん だ?」


真顔の圧力が智に襲いかかる。聡はバルディッシュについているジャラッとしたものを取り、床に放り投げた。


「あーーーー!!!私のうしうさちゃんたちがーーーーーーー!!!!」


「武器にキーホルダーつけるなって言ったよね?!邪魔でしょ?!」


「邪魔じゃないもん!!」


「名嘉は邪魔なの!!!!!」


そんな言い争いをしている二人を、床に放置されているうしうさちゃんたちが「(´・ω・`)」という顔で見ている。


「まず試験のルールで、備品は禁止ってあったでしょ?!」


聡がセーラー服についてあるピンバッジ型のボタンを押すと、空中にモニターが現れる。モニターを操作していくと、今回の試験のルールが表示された。


「ルールなんてあったの?!?!」


智は聡にしがみつき、モニターに食らいつく。聡はそうだろうなと言わんばかりに、ため息をついた。




S級狩人昇格試験


【クエスト】


1.試験会場に一体ずつ放出された動物型、植物型、人型のモンスターのクライムを浄化させること


2.機械から出題される問題(各エリア1問ずつ)に正解すること


3.全員死なずにクリアすること


【ルール】


・試験に必要ないものや邪魔になるものは一斎持ち込んではいけない


・施設(壁や機械など)を無闇に壊してはいけない


・司令者はモニタールームから出てはいけない


その他、試験監督の判断により決定する




聡はボタンを押し、モニターの画面を閉まった。智の顔は、不満でいっぱいです、と言っているかのような表情だ。


「うしうさちゃんは邪魔なものじゃないもん!」


「これがどれに当てはまってるかわかってんなら安心だなぁ」


ジャラジャラっとうしうさちゃんたちが揺れる。聡が足で蹴っているのだ。それを秒で拾った智は自分のポケットにうしうさちゃんたちを突っ込んだ。


「これでいいんでしょ、これで」


ルールを知っているなら守るのが彼女だ。大好きなうしうさちゃんが武器につけられないという不満があるっぽいが、仕方ない。ルールなのだ。


「はい、よくできました。次はコレだな…」


棒読みで智を褒めたあと、聡の視線の先には一つの機械があった。機械には「エリアA」という紙が貼られている。二人はそれに近づき、同時に機械のパネルをタッチする。するとパネルには「Q」と文字が記され、次の画面に切り替わった。


「最………悪」


二人はまたもや同時に呟く。パネルには問題が表示されているはずなのだ。


俺の予想では多分 ”アレ” なのだろう。




x²+(2y+3)x+(y+1)(y+2)を因数分解せよ




数学。予想通りだ。


「えーーー!!問題ってガチのやつ?!パンはパンでも〜的なやつじゃないの?!」


こいつは馬鹿なのか。いや、馬鹿だった。昇格試験でなぞなぞを出す部隊がどこにあるっていうんだ。本当に馬鹿か。


しかし大変なことだ。この流れでもわかるだろう。二人は数学が苦手なのだ。どう突破する………?


「しかも数学って………智わかる?」


「んーーーー?わかんない!!!」


「ですよね!!」


機械前で二人はうんうん唸っている。そのまま一分、二分、三分と時間は経っていくが、二人の手は動かないままだ。



バンッ!!!



「ひえっ!!って名嘉ちゃん!!機械は壊しちゃダメだって!」


急に音が鳴ったせいで智は飛び上がる。おろおろと聡を止めるものの、やめようとはしない。


「こんなの絶対、壊した方が早いわ!」


聡は機械をバンバン蹴っている。さっきルール見たばっかりだろ?!と直接言いたいところだが、俺のいる別室からは声が届かない。


「さっきルールに書いてたじゃん!!」


俺の心を読み取ったかのように智が言う。

そう、そうだよ智、学習したな。もう、うしうさちゃんはつけるなよ。

だがしかし、聡は注意なんて聞いておらず、まだ機械をバンバン蹴っていた。あぁ、今すぐあの場に行って、無理矢理にでもやめさせたい………。



『────────………。』



そう思った矢先、突然聡の動きが止まり、耳元のワイヤレスイヤホンに手を当てる。横にいる智も同じ動きをした。俺も急いで目の前のミキサーに手をかけ、「モニター室マイク」と書かれてあるスイッチをONに切り替えた。


『(x+y+1)(x+y+2)』


低めの女性の声がマイクを通して響く。何とも面倒くさそうな、いや、呆れてるのかもしれない彼女の声は、俺のいる別室にも小さく聞こえた。


智の声がだんだん大きくなる。

(いや、もとからでかいのだが。)


「さっすがアッキー!!数学、得意だもんねーーー!!」


『これは流石に解けないと駄目だろ』


智が呼んだモニター室にいる班長、兼司令塔・上条 晃(かみじょう あきら)は、俺の別室からも見えるほど、この上なくダルそうに頭をかいている。


『早くモニターに打ち込めって。(x+y+1)(x+y+2)な』


晃はもう一度、問題の答えを言う。


「かっこ えっくす ぷらす わい ぷらす いち……………」


声に出しながら聡がモニターに答えを打ち込む。打ち終えた時、画面には「〇」と表示され、ガチャンと大きな音が鳴った。どこかのエリアの扉が開いたのだろう。


「やったぁ!!」


と、智が声を上げる。


安心してはいけない。これからが本番というやつなのだ。








全扉解放まで、あと三問

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