第13話
「宇野とその取り巻きじゃない…なんだってこんなところにいるのよ」
水樹があまり歓迎しているとは言えない表情を彼らに向ける。一方の男たちはそれに気づいているのかいないのか、変わらずにやにやとした表情を浮かべている。ディーネからしてみれば彼らのにやにやとした表情しか見ていないため、もはや実はこの顔がデフォルトなのではないのかと疑い始めているところだ。
先頭の宇野と呼ばれた男が肩を竦め、ねっとりとしたような猫なで声を上げる。
「まあまあ、そうかっかしないでくれよ水樹。俺とお前の仲じゃないか?」
「いつそんな仲になったって言うのよ、気色悪いわね」
自らの体を抱きしめながら一歩後ずさる水樹。ここまであからさまな反応をされても、宇野はにやにやとした表情を崩さない。
「クク、そう恥ずかしがる必要はないさ。全く、これが流行りのツンデレってやつかな? もっと素直になっても罰はあたらないよ」
「いや、話を聞いてよ…」
全く話を聞かない宇野に対しげんなりとする水樹。古今東西しつこく女性に言い寄る男性は気持ち悪く見えるものだが、この男の場合それにナルシストと思い込みまで加わっているものだから始末に負えない。少しだけ絡まれている水樹に同情するディーネであるが、特に行動に移そうとしない辺り割とどうでもいいと思っている証拠だろう。
「ほら、そんなダセェ男はほっといて俺と遊ぼうぜ? そいつといるより何倍も楽しいって保障するぜ?」
徐々にメッキが剥がれてきたのか、先ほどまでの形式的には礼儀正しい言葉遣いが、ディーネと会った時のような乱暴な口調に変わってきている。いい加減面倒になってきたのか、水樹も語気をやや強くしながら言い放つ。
「私が誰といるかなんて私の勝手じゃない! なんで時間の使い方まで縛られなきゃいけないのよ?」
「決まってるじゃないか! お前が俺の彼女だからだよ!」
「はぁ!? 初耳なんだけどそれ!?」
徐々にヒートアップしていく二人の会話。それを横で聞いていたメリエルがいいことを思いついたとばかりに自らの手を打つ。ディーネは一抹の不安を覚えながらも、彼女を止めることはしなかった。
「彼氏彼女さんの関係を邪魔するのも忍びない。ミズキ殿、カオル殿は私に任せてそちらの御仁と共にしたらどうだ? 私たちは退散させて貰うことにしようか、カオル殿」
「わかってるじゃねぇか、騎士さ…」
「はぁ!? 何寝ぼけたこと言ってんのよ!! このやり取りをみて本当にそう言えるならあんたの目と耳は節穴としか言いようがないわね!! だから婚期も逃して薫に執着するのよ!!」
「なっ!?」
宇野が何か言いかけていたようだが、それに覆いかぶさる形で水樹がシャウト。痛いところを突かれたとばかりに後ずさるメリエルであったが、彼女もやられっぱなしではいられない。
「ふ、カオル殿を監視するようなストーカーが何を言うか。そちらこそ幼いころからの付き合いだかなんだか知らないが、いつまでも古い絆にしがみつくような重い女ではないか。これこそ笑止千万というもの」
「重い女で結構!! あなたのような尻どころか頭まで軽いような人とは違うので!!」
「なにおう!?」
「やるの!?」
ガルルとお互いに犬歯をむき出しにしてにらみ合う女性陣。が、『薫』が目の前にいると思い出したのかハッとした表情を浮かべると、すぐさま粛々とした態度に戻った。
ディーネからしてみれば「手遅れ」の一言である。
「わ、私としたことが取り乱しちゃったみたいね。あーやだやだ、婚期逃した女と戦うとついヒートアップしちゃうわー」
「オホン、やはり騎士として高潔なままでいないとな。どこぞの重い小娘を相手にしている場合ではなかったか」
「…」
「…」
無言でにらみ合う二人。なぜ一度修正された局面を再燃させようとするのか。ディーネは仕方なく二人の仲裁に入ろうとする。
「まあ二人とも、落ちつ「うるせぇ!! 雑魚以下のゴミは黙ってろ!!」」
唐突に湧いてきた宇野に発言を邪魔されるディーネ。彼からしてみればお前が黙ってろといいたいところだが、その気持ちをぐっとこらえて仲裁を続けようとする。
だが、その発言に黙っていないのは女性陣であった。
「…貴様、今薫殿をゴミと言ったな?」
「へぇ、そういうこと言っちゃうんだ?」
女性陣二人から向けられる眼光に一瞬怯むも、にやにやとした笑みを再度浮かべる宇野。
「だってそうだろ? 大した能力も持たず、戦闘ではお荷物。挙句にこの間は逃げ出して国にまで迷惑をかけた! これがゴミじゃなかったらなんなんだよ?」
「貴様、もう一度言ってみろ!! その時は…」
剣の柄に手をかけるメリエルだが、宇野はその笑みを崩さない。
「その時はなんだよ? 勇者である俺を切るのか? 正当な理由もなく?」
「…く…」
手は剣の柄に止まった状態のまま動かない。おそらく彼の言うとおり、彼を切り捨てる正当な理由が無いからであろう。あくまで薫が侮辱されたというのは自分の感情的な理由に過ぎないからだ。
「なら、私が相手するわよ? 勇者同士の私闘なら問題ないわよね?」
「おいおい、この人数相手に無茶すんなよ。俺たち全員一軍だぜ? いくらなんでも水樹ひとりじゃなぁ?」
宇野がサッと手を挙げると、背後の全員が自らの能力を見せつけるように構える。さすがにこの人数相手では彼女も苦戦するのであろう。表情に出ない程度に歯噛みする水樹。
「俺だってその綺麗な肌に傷はつけたくないが…やるってんなら仕方ないか? でも、無理やりってのもありかもな! 嫌いじゃないぜそういうの」
「…最っ低」
吐き捨てるように呟く水樹。重い空気がディーネ達を包み込む。
内心でこの状況にため息をつくディーネ。もう面倒事になるのは仕方ない、なるようになれと心の中で割り切って、彼は一歩前に出た。
「うん。まあ話を纏めると、僕がゴミかどうかってことだよね?」
「薫…?」
「なんだよ。ゴミに用はねぇんだが?」
「それだよそれ。そのゴミっていう根拠がないから水樹もメリエルさんも怒ったんだろ?」
その場にいた全員がいぶかしげな表情をディーネに向ける。何を言いたいのかわからないといった表情だ。ディーネはそれじゃあ、と言葉を続ける。
「僕がゴミかどうか、宇野君自身が証明すればいいんじゃないかな?」
困惑した表情を浮かべる彼に、ディーネは人差し指を突き出す。
「―宇野君。君に決闘を申し込むよ」
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