4、Message In A Bottle/ザ・ポリス
「無人島に流れ着いちゃったよ。さみしいな。そうだ、ボトルに手紙を詰めて流そう。ぼくは孤独だよ。世界のみんな、気づいて・・・」
するとある朝、世界中から一千億のボトルが返ってきて、彼の浜辺に流れ着いてる。
ボトルを開けると、中の手紙には、「うるせー。孤独なのはおまえだけじゃねえ!」。
こんな歌詞なんだった。
ポリスの音楽性には、人生で最大の衝撃を受けた。
いちばん好き、と白状するしかない。
彼らの名曲「メッセージ・イン・ア・ボトル」は、「孤独のメッセージ」と邦訳されてるんだけど、こんなハードボイルドの世界観に形容動詞を持ってくるなんて、訳者の野暮さには呆れるなあ。
が、その頃のオレもいっぱしに孤独だったのかもしれない。
部屋でひとり、音楽ばかりを聴いて過ごした。
この頃は、レコードとカセットテープの時代なんだった。
レコードを聴くには巨大なオーディオシステム(レコードプレイヤーにアンプ、スピーカー)が必要なんで、ラジカセで気軽に聴けるカセットは重宝した。
この時代の連中は、レンタルレコードを借りてはダビングし、コピーしてコピーしてコピーし倒したカセットを山と積み上げて、磁気テープが擦り切れるくらい聴いてたはずだ。
カセットをインするのは、ラジカセから劇的な進化を遂げた「ミニコンポ」ね。
突如として出現したミニコンポは、かっこよすぎて、うざいほどだった。
このあたりから、日本のメーカーの機能過剰=無駄に小難しいメカメカのデザインがはじまったんじゃないかな。
オレが手に入れたミニコンポ(母ちゃんに買ってもらった)も、イコライザーやら、ドルビーシステムやら、ベース音増幅ボタンやら、わけのわからないスイッチやツマミがゴテゴテ満載のやつだった。
こうしたアレンジ機能は、最初は面白がっていじりまくるんだけど、次第に飽きがきて面倒くさくなり、やがて「やっぱそのままがいちばんいいわ」と気づいて(当たり前だが)、再生ボタンとイジェクトの二領域しか手垢で汚さなくなってくんだった。
あと、早送りボタンとね(なつかしや)。
過剰なものは、かっこいい反面、ジャマなんである。
そんな時代に出会ったんだった、ブリティッシュロックとは。
UKの基礎勉強としてのビートルズは、聴き込んでる頃にはすでに解散してて、オレの世代では一周遅れだった(ジョンが撃たれた頃だ)。
ポールのメロディアスなものより、ジョンのブルージーなシャウトの方が好きだったな。
ビートルズが顕著なんだけど、グループの終息に向かうにつれて、音楽がごちゃごちゃとトゥ・マッチ・プロデュースになり、音が洗練とゴージャスを手に入れると同時に、シンプルな熱さを失ってしまう。
ポリスも、三人の音だけでつくった低予算の最初の二枚のアルバムが、パンキッシュな世界観の完成って意味でピークだった。
その後に売れすぎて、音楽にも金を掛けられるぞー、なんて張り切ったのか、ものすごく装飾的になってく。
外観の爛熟は、本質の滅形と表裏一体。
立派に整ったものをつくり上げてはみても、それは逃げを打ってるのと同じ姿勢なんで、まあ無残なものだ。
ってわけで、音づくりと個性の絡み合いを最高に面白がってる「素」のままのこの「Message In A Bottle」は、その後に賢く立ち回ることになるスティングにとっても、逆に最高到達点だったにちがいない。
原初の熱がみなぎったひらめきと直感のエッセンスそのものをぶっつけたシンプルな音は、それ以上に磨く必要がないくらいに輝いて、褪せることを知らない。
シンプルな音に、イコライザーは必要ない。
まばゆいばかりの音を、勝手なプロデュースでくすませるのは、罪なことだ。
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