【自衛隊青春小説】大空へ駆けのぼれ
島村
プロローグ
撃墜!?
真夏の雲が、瞬く間に視界の外へ飛び去ってゆく。
眼下に広がるのは太平洋。キャノピー越しの頭上には抜けるような深い青空。あちこちに湧き立つ雲が強烈な日差しを浴びて輝いている――その
目標発見!
「対抗機、2時方向。攻撃に入る。ジッパーはサポートに回れ!」
『了解』
背後を取るか、取られるか。
操縦桿をめいっぱい引き、できる限りの小さな半径で機体を旋回させ続ける。相手に内側を取られて機首を向けられたら、即座にロックオンされて撃墜だ。
体重の8倍を超える
絶対に仕留めてやる……!
空気を切り裂く
体にのしかかる凄まじいGのせいで、視界が色を
短く息を継ぐ一瞬の合間に、
「ジッパー、入ってこい!」
『了解、入る』
ウイングマン・ジッパーのくぐもった声が無線越しに即座に応える。
俺が対抗機を追い、ウイングマンが上方から内側に切り込んで撃ち落とす――そのつもりだった。
突然、コクピット内に甲高い警報音が響いた。
ロックオンされた!?――振り仰いで対抗機の位置を確認する。だが、その機首はまだこちらを捕らえてはいない。
こちらが2機、相手は1機のはずだ。
誰が――一瞬混乱した、その時。
『ロックオン――』
ジッパーの声がヘッドセットから聞こえてきた。
焦って首を回し、ウイングマンを空の中に探す。俺と対抗機が弧を描く軌道の斜め上に、陽を受けて鈍く光る機影が小さく見えた。ジッパーだ。そしてその機首は見間違えようもなく明らかに俺に向かっていた。
まさか――。
『フォックス・ツー!』
ジッパーの低い声が、短距離ミサイル発射をきっぱりとコールする。
――まさか! ありえないだろ!!
俺に向かってミサイルを放ったウイングマンのジッパー機が、上方から俺と対抗機の軌道を一気に突き抜けた。速度に任せて降下しつつ、その場を悠々と離脱してゆく。
その姿を茫然と目で追うだけの俺の耳元で、ウイングマン役をしていた教官ジッパーの不機嫌な声が無情に響いた。
『イナゾーは撃墜判定。訓練終了』
あろうことか、俺は自分のウイングマンに見事に「撃墜」されたのだった……。
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