9-22.解決の狙い目
リコリーは昨日より一層と閑散とした商店街を見て、内心溜息をついた。活気のない商店街ほど気分を落ち込ませるものはない。幼馴染が経営している店は、一応開店準備はしているようだが、木箱の置き方も野菜の並べ方もどこか投げやりだった。
「何て面してんだ、お前」
唐突に声を掛けられて、リコリーは驚いて振り返る。そこにはカルナシオンが、少し大きい紙袋を抱え、口に煙草を咥えた格好で立っていた。来た方角から考えると、自宅からやってきた様子だった。
「おはようございます」
「朝からしみったれた顔してるなよ。昨日はアリトラと一緒に教会に行ったんだろ? 何かわかったか?」
「色々と。でも、まだ確証は得られてないです」
「逃げた容疑者の足取りでも掴めりゃな。まぁ、そう上手くはいかないか」
カルナシオンが店の方へと歩き出したため、リコリーはそのあとに続く。
「気にしてるんですか?」
「まぁな。これでも昔は刑務部だったし」
「マスターは、犯人は外国の工作員だと考えてるって、アリトラが」
煙草の煙が捩じれて、二人の後方へと流れていく。リコリーは何となくそれを追うように視線を上げて、しかしカルナシオンが険しい表情を浮かべているのを見ると思わずたじろいだ。
「マスター?」
「多分、今日だ」
唐突なその言葉に、リコリーは少し反応が遅れた。だがカルナシオンはそれに構わず、淡々と言葉を続ける。
「十三剣士隊の謹慎、移民狩りの激化、武器商人の接触。「異邦の門」が暴れ、そしてフィン国を戦争に駆り立てるなら今日が一番タイミングが良い。今なら本格的に戦争が始まる前に、十三剣士の謹慎を不自然なく解除出来る」
「あの……」
口を挟もうとしたリコリーに、カルナシオンは手振りで制止する。そして、まるで世間話でもするような笑みに表情を変え、そのまま話し続けた。
「俺の考えが当たってるなら、最低最悪な日になるぞ。しかもその先、もっと最低になっていく一方だ。でも俺が何か言っても、制御機関は動かない。いや、動かせない。政府と軍と制御機関、全部が歪に絡み合って、身動き取れない状態になってるからな」
店の入口に近づくと、カルナシオンは紙袋の中に右手を入れて何かを抜き取った。
「狙うなら、それが弾けた瞬間だ。互いへの監視が解け、そして目の前のことに集中してしまう。事件を解決するには、そういうタイミングを逃さないのも大切だ」
右手に握られた大きなオレンジを、カルナシオンはリコリーに手渡した。
「好きだろ?」
「嫌いではない、程度なんですけど」
「小さいころ、両手ベトベトにして食ってただろうが」
「いつの話ですか。もう僕、十八ですよ? 子供じゃないです」
「十分ガキだな。これでゼリー作るから後で食いに来いよ」
カルナシオンは愉快そうに笑いながら、店の中へと入って行ってしまった。中からアリトラの声が聞こえてくる。そこだけ見ればいつもと同じ光景だった。しかしガラス張りの窓に反射した街並みは、いつもより静かに、そして不気味な空気を帯びてどこまでも続いていた。
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