9-16.覚悟と意地

 軍と違って訓練を受けているわけではない制御機関の魔法使い達は、列を作って駅に向かってはいるものの、その足取りや並び順は無秩序なものだった。

 その状態で列の最後尾を歩くシノが、実は出動要請を受けていないことに気付いたのは、一人の刑務官だけだった。


「管理官。先輩を見張るはずでは?」


 移動してきたヴァンが尋ねると、シノは表情一つ変えずに答えた。


「そんなことは一言も言っていないわ」

「まぁそうですけど。でも、そのつもりだと思ったから、事情聴取を交代したんですよ」

「不満そうね」


 シノは小さく笑い、一度だけ制御機関の建物を振り返った。


「もういなかったわよ。目を離した隙に飛び出したみたい。商店街で煙草屋のことが噂になってから、すぐ」

「だから緘口令を敷くべきだと言ったんです」

「敷いても無駄よ」


 強い口調でシノは相手の言葉を否定する。


「貴方はカルナシオンの下にいたからわかるはずよ。その程度で情報を隠蔽出来ると思う?」

「それは……思いませんけど」

「情報をオープンにしたお陰で、カルナシオンはすぐに行動に移った。だから移動の痕跡が残っているはず。私はそれを追うわ」

「じゃあ俺も……」


 首を左右に振り、シノはその申し出を断った。


「彼を止められるのは私だけ。最大の好敵手のことを知りつくしている私だけが、追いつける」

「お言葉ですが、それは傲慢というものです。先輩は奥さんを殺した犯人に復讐するために制御機関を辞めた。俺や貴女のような人間と覚悟が違う」

「安心しなさい」


 溜息のような吐息を挟み、シノは決意を滲ませた声で続けた。


「こっちには覚悟はなくても意地ってものがあるのよ。私はカルナシオンに負けるわけにはいかないんだから」

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