4-4.簡素な食事
女手二人が、山小屋の簡易キッチンのほうに消えると、男だけが取り残された。あまり沈黙が好きではないスイは、少年に話しかける。
「お前、何歳だ?」
「僕は十八です」
「十八?」
先ほどとは逆に、今度はスイが少年を凝視する。
「……へぇ。俺の一つ下なだけか」
「貴方の身なりで十九歳ってのも、驚きですけど」
「軍の人間はこんなもんだろ」
「いや、身内に軍人はいますけど、そこまでじゃ……」
「爺さんは?」
老人は暇つぶしなのか杖の先を弄っていたが、問いかけられて顔を上げた。
「六十を少し超えたあたりで数えるのをやめた」
「ふーん。膝悪いのに、よくここまで登ってきたな」
「あぁ、晴れていたら大したことはない道だからな。それにこの杖は山登り用だ。足腰はピンシャンしているよ」
「そりゃ失礼」
他愛もない話をしているうちに、キッチンの方から良いにおいがしてきた。やがて女と少女がトレイを持って戻ってくる。
「お待たせ。コンソメスープとパンよ」
「沢山作ったから、足りなかったらおかわりして」
テーブルに並べられた器を、それぞれが勝手に手に取っていく。
「あ、あの人も食べるかな?」
少女が思い出したように、自分の背後のドアを振り返る。
「そうねぇ、スープなら口に入るんじゃないかしら」
「ちょっと聞いてきまーす」
軽い調子で少女は言うと、スカートの裾を翻すようにして左から二つ目のドアに向かう。
何度かノックをしてからドアを少し開き、中に声をかける。
「スープ作ったんですけど、食べますか? ……あ、じゃあ持ってきますね」
要る、と言われたのか、少女はそんな返事を返してキッチンへと引き返す。そして一人分のスープとパンをトレイに載せて、部屋の中へと運んだ。
「じゃあ此処に置いておきますね」
ドア越しなのでよく聞こえないが、男の声が何か言っていた。少女がそれに笑い混じりの声で返すのが四人の耳に届く。
部屋から出て来た少女に、女が声をかけて、中にいる男の容態を尋ねた。
「少し具合悪そうだったけど、さっきより調子はいいって言ってました」
「そう。ならよかったわ。こんな山奥で急性肺炎とかになっても困るもの。貴女もスープ、食べちゃいなさい」
「はーい」
少女は自分の分の食事を手に取り、少年の横に座った。
パンを千切って、スープに浸して口に運ぶと、嬉しそうに笑いながら少年に話しかける。
「美味しいね」
「そうだね。疲れている時はこういうものが一番だよ」
「人参頂戴」
「うん」
仲良く話をしている様を、子猫がじゃれているのを眺めるような気分でスイは見ていたが、ふとその目を剣呑に細めた。
「……今、外から物音がしたぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます