8-15.美味しいものに罪はない

 リコリーは大好物のウインナーの炒め物と、カボチャのシチューが並んだ食卓に目を丸くした。


「凄い」

「御馳走だね」

「御馳走ってほど豪華じゃないけど、お腹空いたでしょ?」


 ホースルは双子を椅子に座らせてから、スプーンやフォークを手渡した。


「母ちゃんいるのにカボチャっていうのがまず豪華」

「だよね。僕達がいくらねだってもダメなのに」

「シノさんに聞いたら「そんなの私に聞かないでもわかるでしょう」って怒られちゃってさ。なので今日はお前たちの好物だけで作りました」

「よかったね、リコリー」


 何も食べていなかったリコリーは、返事もそこそこに早速食事を開始する。アリトラもそれを見てスプーンを手に取った。

 オレンジ色に輝くシチューはカボチャを煮込んで作ったスープを使用しており、その絹のような滑らかさは食べる前から美味とわかる。カボチャの味が強いため、それに負けぬよう大きく切った野菜は芯まで柔らかく舌の上でとろけて、双子の空腹中枢を更に刺激した。


「でもいくら人相悪いからって、犯罪者に似てるとまで言われるとはねー」

「酷い話だよ。しかも父ちゃんのことを父ちゃんじゃないなんて言うんだもん」


 自身の出生について何も疑っていない双子は、敬愛する父親の温かい食事を頬張りながら今日の「不幸な誤解」について話し合う。

 湯気の立つシチューにパンを絡ませたリコリーは、ふと思い出したように顔を上げた。


「そう。ローゼスっていう食べ物があったんだ」

「アタシも見た。ねぇ、今度食べに行こうよ。今日はリコリーのせいで大変だったんだから」

「僕のせいじゃない。でも他にも美味しそうなお店あったし、次のお休みで行こうか」

「うん」

「二人とも、あんな目にあったのに西区に行きたいの」


 呆れたようにホースルが言うと、双子は声を揃えて反論した。


「美味しいものに罪はない!」


END

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