7-3.似ていない親子

「やっぱり僕、父に似てないですか?」

「え、いや」

「僕、両親に似てないんです。家族の中で僕だけ一重だし……。髪と目は母と同じなんですけど」

「まぁ似てない親子なんて沢山いるよ。それにアリトラ嬢だってお父さんには似てないだろう?」

「アリトラは母に似てますし、髪と目は完全に父と同じです」

「リコリー、昔から気にしてるんですよ」


 アリトラが両手で抱えるほどの木箱をカウンターの上に置きながら言った。


「父は孤児だから、顔も知らない親戚とかに似たんだろうって言ってますけどねー」

「そういうことじゃないかな。俺だって両親とはあまり似てなくて、祖父の弟とかに似ていたからね。それに君たち、結構似てるよ」


 双子は二卵性なうえに男女のために、一見すると他人のようだが、慣れている者から見ると笑った顔や指の形などは非常によく似ている。


「ほらね、リコリーは細かいこと気にしすぎ」

「アリトラは気にしなさすぎ。商品をいきなりカウンターに置いて、埃でも散ったらどうするんだよ」

「大丈夫、ちゃんと拭いたから」

「そういう問題じゃない……。えーっと、クレキ中尉。中身の確認をしていただけますか。中身は……」


 リコリーは注文票に目を通すと、少し眉を寄せる仕草をした。


「一応聞きますけど」

「合法だよ。ちょっと物騒な名前がついてるだけで、人道的な範囲の魔法具さ」

「まぁ軍で使うということだから細かくは聞きませんけど」

「リコリー君、軍と制御機関の間で野暮は言わない。これが処世術だよ」


 ミソギが箱を開いて中を確認し始めた時だった。突然、外から大きな爆音が鳴り響いたと思うと、店のドアや窓が壊れそうな勢いで震えた。棚の上に置かれていた小物が音を立てて床に落ち、激しい音を鳴らす。

 それはほんの数秒の出来事だったが、一番早く動いたのはミソギだった。

 カウンター越しに双子の肩を掴んで、姿勢を低くするように促すと、今度は背を向けて刀を構えた。極東の国、ヤツハでしか使われないと言われる片刃剣を、鞘から少し出した状態で警戒を強める。

 しかし数秒後、それ以上の動きがないことを確認すると、身にまとっていた殺気を解いた。


「……双子ちゃん、大丈夫?」


 ミソギはカウンターの下を覗き込む。同じような格好でしゃがみ込んでいた二人が同時に頷いたのを見て、思わず笑みを零した。

 だが安心したのも束の間だった。今度は外から中年の女性と思しき悲鳴が響き渡った。何か叫んでいるようだが、興奮気味に声が上ずっていることや、他の声も混じっているために何を言っているのかまでは聞き取れない。

 するとアリトラがカウンターの下を滑るように潜り抜けて、真っ先に外へと出て行った。


「あ……」

「リコリー君は此処にいて」


 ミソギはそう告げると、アリトラを追って外に出る。先ほどの音のためか、あるいは悲鳴のためか、通行人たちは一様に立ち止まってある一点を見ていた。三人がいた魔法具ショップから、金切り声を上げている女性が立っている仕立て屋までは五十メートルもなく、アリトラは既に女性のすぐ近くまで近づいていた。


「何かあったんですか?」

「人が死んでるんだとさ」


 通行人の一人が、アリトラの問いに答えた。


「人が?」

「多分、そこの店主じゃないか?この騒ぎなのに出てこないし」


 仕立て屋のほうを顎で示して、男は首を竦める。関わりたくないと言わんばかりの表情だった。

 遅れてやってきたミソギはアリトラからそのことを聞くと、店の方に一歩踏み出す。しかし思い返したように野次馬たちを振り返ると、咳ばらいをした。依然として中年女性は泣き叫んでいるが、それでもミソギの声は通りに響く。


「フィン国軍、十三剣士隊のものです。臨時措置につき、俺が中を検めます。皆さんはそこから動かないように」

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