13話 朝日を浴びて、君と一緒に─莉子
「ん……んぅ」
莉子はゆっくりと眼を開ける。小川に反射した朝日が目線に飛び込んできた。とても眩しくて、それで莉子は完全に目を覚ました。
(蛍は……もういないか。当たり前だよね。………それよりも起きなきゃって、いたたたた)
身体を起こしたら、それと同時に痛みが走る。とくに腰と首の痛みが激しい。きっと草原に寝ていたのが原因だろう。
(あぁ……こんなんじゃ座って寝れば良かったよ。あ、けど座ったとしても腰は痛くなるか)
実は座って寝るつもりであった。例えるなら、電車で寝ているサラリーマンのようにだ。
しかし、彼が寝っ転がったのを見ると、莉子もしてみたくなった。しばらく考えた末に、″こんなことは滅多にできない″という考えに辿り着いた。それで寝っ転がった。
しかし、こうなるとは思ってもいなかった。少しだけ後悔があったりもする。けれど、旅でしかできないことだと思えば後悔は無くなる。
(けど寝っ転がったおかげであれが見えたし、まぁいいかな…)
実は彼が寝てからしばらくして、莉子も寝ようとした瞬間、流れ星が見えた。それも一つや二つではなく、数えきれないほどだった。おそらく流星群だと思う。
一瞬にして真っ黒な空は光輝いた。それは眩しく感じれるほどだった。そんな光景はプラネタリウムのように見えたが、莉子が見ていたのは現実の空だった。この事実を信じることができないようだった。
そんな夜空を見ることができたと考えれば、これくらいいいものだ。
目線を下にする。
彼はまだ寝ていた。昨日のように、大人びいた様子は想像できなかった。彼の寝顔は歳相応に見えた。
幼くて、子供で、同い年のようだった。
まるでよく公園で遊んでいる、小さな子供のようだった。
(なんか寝顔可愛いな)
そう思いながら、彼が起きたら出発できるように準備をする。小川で髪の毛を整えて、腰にはウエストポーチを付ける。
中身のナイフは昨日と変わっていない。いったい、この旅で使うのであろうか。莉子には分からなかった。
もしも彼に聞いたとしても、分からないと答えるだろう。
本当ならすでに使っていた。赤く染まっていた。それなのに使っていない。赤く染まっていない。
この旅のゴールで、死ぬために使うのか、死ぬために使わないのか。
莉子の心は揺れていた。昨日はあれほど死にたいと思っていたはずだ。それなのに、今では怖いと思っていた。
「ふぁあぁ…」
すると、後ろから大きなあくびが聞こえた。彼は目を覚ましたようだった。莉子が見てみると、まだ起き上がらずに、ゴロゴロとしていた。
「おはよう」
莉子がそう言うと、
「うん、おはよう」
と透は言った。
朝の挨拶を済まして、身体を起こそうとした彼。しかし、その動作は途中でピタリと止まった。しばらく動かないでいると、やがて声が聞こえた。
「いててててて」
彼は痛がっていた。まるで、数分前の莉子を見ているようだった。そんな光景で莉子は思わず笑ってしまった。
「なに笑ってるの。ひどいよ」
「ごめんごめん、さっきの私と一緒のリアクションだったから、ついね」
「なにそれ。けど、こんなことになるなら座って寝れば良かったよ」
彼のその一言で、莉子はまた笑ってしまう。まさか、ここまで同じリアクションをするとは思っていなかった。
「あ、また笑った。ほんと君ひどいよ」
「いや、だってしょうがないよ。ほんと私と一緒なんだもん……」
そう言いながらも、莉子は一つのことに気づいた。それは莉子自身が笑っていたことだ。
彼を見て、こんなに笑うとは思ってもいなかった。莉子は自分の対応が柔らかくなった気がした。昨日では考えなれないことだった。彼に心を許していた。
(昨日の私が見たら、どんな反応するのかな?気持ち悪いとか思ったりして…)
「急に黙ったりしてどうしたの?」
彼が顔を覗き込んでいた。思ったよりも近くで、少し驚く。
「なんでもないよ。それよりも早く出発しよう。私の予想じゃもう少しだからね」
「予想って……ほんと?適当に言ってたりして」
「適当じゃないから。ほら、おいてくよ」
莉子は踵を返す。そして歩き出す。背中からは彼の足音が聞える。それには少し急いでいる様子が伝わってきたのであった。
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