旅をしよう。君と、夏の終わりの果てまで

長月紅葉

episode1─旅と夏の始まり

夏の始まり

 彼女は夏が嫌いだった。


 彼も夏が嫌いだった。






 太陽の光のように降り注ぐ、蝉の声が鬱陶しいからではない。

 突然、雨が激しく地面に打ち付けられるからでもない。

 時折、吹く風が生ぬるくて気持ち悪いからでもない。




 彼女にとって、そんな事はどうでも良かったのだ。そんな自然現象に興味がなかった。


 彼にとっては、そんな事どうでも良かったのだ。自分のことで精一杯で、それどころじゃなかった。



 例え、蝉の声が永遠に聴こえても。

 例え、雨が永遠に振り続けたとしても。

 例え、生ぬるい風が永遠に吹き続けても。

 例え、色が永遠に無くなったとしても。






 彼女が、夏を嫌いな理由。


 彼が、夏が嫌いな理由。


 彼が、夏を好きになれない理由。


 彼女が、夏が好きになれない理由。




 それは──










 この傷が隠せなくなるからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る