7-16
めぐみはモーリオンの眼前でクライミングすると、薔薇飾りからローズアームズを取り出し、ハンマーに変形して躍りかかった。モーリオンはとっさにいくつかのアームを自らのいる尖塔と彼女の間に割り込ませて盾とし、突進を弾き飛ばしたが、めぐみは再びハンマーを振りかざして立ち向かっていった。
ローズグランキャノネイドを失っためぐみには、もはやローズアームズしかまともな攻撃手段がない。ショット系の攻撃よりアームズの攻撃の方がはるかに威力が高いのは事実だが、それは弾一発と比べたときの話。この針山相手に得物ひとつで立ち向かうのは、いささか無謀にも見えた。
だがめぐみはあきらめず、今度は尖塔には目もくれずに要塞の屋上に下りると、針山状の砲台を次々ローズハンマーでやけっぱちのように殴っていった。砲のいくつかはあっけなくひしゃげ、粒子と化して四散し、使用不能になる。
それを止めようとしたか、モーリオンは要塞側面のロボットアームをてんでに振りかざしてめぐみをぐるり取り囲み、上下左右前後の全方向から光弾をばらばら発射すると同時に、その体を捕まえにかかった。めぐみは、クライミングによる反応速度向上を生かして縦横無尽に身を躍らせ、すべての弾とアームをかいくぐる。さらにはローズアームズを剣の形状に変え、襲いかかるアームを次々に斬って捨てた。アームも例によってクラス7オブジェクトの武装オプションで、斬られる端から粒子に変わって四散した。
その孤軍奮闘ぶりは際立っていたが、いかんせん砲もアームもミサイルも数が多過ぎる。しかも、斬っても叩いても次々補充されてくるのだ。コンテナの蓋が開けばいつでもそこにはミサイルがぎっしりで、アームは斬った端から作り直される。砲台が換装されてしまうのは見たとおりだ。この屋敷全体にクラス7粒子プログラミングを施しているならば、めぐみひとりで屋敷一棟をすべて叩き壊すには、気が遠くなるほどの時間が必要と思われた。
「まったく小生意気なガキだ……首輪をつけてつないでおくべきだな!」モーリオンはアームで追い回してめぐみを誘導した。彼女が尖塔の真正面、彼から見える位置に来たところで、モーリオンは多数のアームをめぐみの側面と背後に回らせ、アームの砲口からいっせいに光弾を浴びせかけた。これに対処しようとして、一瞬尖塔に背を向けてしまうめぐみ。
その機をモーリオンは逃さなかった。尖塔の下部、つまりモーリオンの頭からみて胴体にあたる位置には、両翼のミサイルやアームを収めたコンテナと異なり、武装は備えられていないように見えた。だが、この要塞に武器のない場所などなかったのだ。
めぐみの背後の壁が開き、ぬっと腕が現れた。この腕は四本指ではなく、機械ではあるものの、人間の手を模して作られていた。めぐみがはっと振り向いたときには、腕はもう彼女の目の前にいて、避ける間もなく彼女を掴み取った。「くぅっ……!」
「俺の要塞の中は、いわば自動の兵器工場なのだ。俺の思うがままに武器を作り出せ、俺の思うままに取り出せる」拳の中から頭だけが出ている状態で、めぐみはモーリオンの顔の前にムリヤリ引き出された。「フン、手こずらせおって……もう逃げられんぞ、観念せぃ」
「別にこんなの、どってこと……」めぐみは肩に力をこめ、指をこじ開けようとしたが、「抜け出せるものか。このまま握り潰してやってもいいんだ───痛いか? あぁ?」モーリオンはそう言って、巨大な手に力をこめ、強く握り込んだ。圧力がかかり、苦しげな顔で耐えるめぐみ。もっとも、若干息苦しさを感じたものの、ヌガーに関節を締め上げられたときに比べれば強い痛みではなかったらしい。だから、会話に不自由はなかった。
「ふん。まぁいい。脳以外は潰してもなんにもならんからな。ブルーローズの手先を捕虜にしておけば何か使い道があるかもしれん、貴様の処遇は、クリスタル様にお伺いを立ててから決める」
「さっきもそんなこと言ってたけど」めぐみは、拳の中からモーリオンに尋ねた。「クリスタルは、戻ってくるってあなたに言ったのね? ───こっちじゃ、もう二度と地球に戻ってこないから、だから今日中に決着をつけなくちゃいけないって、そういう話だったけど?」
「なんだと? 馬鹿なことを言うな、ブルーローズに何を吹き込まれた? クリスタル様がなぜ地球から離れる必要がある?
知っているぞ。今地球は未曾有の危機にさらされているのだ。宇宙人どもが十重二十重に取り囲んで地球の資源を狙っている。奴らの法律に従えば、地球は資源惑星でしかないのだ。宇宙人どもは資源採掘と称して地球を侵略したがっている。ブルーローズはその法律を意固地に運用しようとする石頭だ。
だがクリスタル様が地球を守ってくださっているのだ。クリスタル様は、侵略が起こらないよう異星人との仲介を行い、いつの日か地球と宇宙の間で貿易が成立するよう努めていらっしゃるのだ。
そのためには、地球人も努力せねばならん。可能な限り地球人自身で資源の流れをコントロールできる必要がある。その人材として、クリスタル様はこの俺を選んでくだすった。不断の努力が続くよう、この不死身の体をも与えてくだすった!
その俺を置いて、目的も果たさぬまま、なぜクリスタル様が地球を去るというのだ?」
……モーリオンに対してクリスタルがどのように接し、どのように絡め取ったかは知らない。が、あたしに向けられた言葉にも、そんなブービートラップめいた欠落があったに違いなかった。その罠にかかると、自由選択を標榜してその実、選択肢はひとつしかないのに、クリスタルに選ばされた答えを最高の真実だと思いこんでしまうのだ。
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