7-10

 最終決戦だ。


 全員がヴァインを身にまとい、それぞれの敵と対峙した。さおりはアメジストと。ゆきのはシトリンと。めぐみはモーリオンと。そしてあたしはクリスタルと。


 あたしたちがこうして戦っていることを、ロウシールドの向こう側の、滅びゆく地球人たちは誰も知らない。


 それは、とても寂しいことだけれど。それでも、あたしたちは、戦う。


 あたしたちはローズフォース。はびこるつるばら。




 「アメジスト・アドミニスタ!」


 アメジストが叫ぶと同時に虚空に小型のコピーが十体現れ、さおりにいっせいに襲いかかった。しかし、ここはオフィスではない。障害物のない空中では、鈴木商事ビルで見せたような連携は利かない。まして高速のピンクローズ相手では、全員まとめてローズウィップに薙ぎ払われるだけだった。


 「あんたねぇ、ちょっとは自分でやったらどぉ?!」今度はさおりがアメジストの目の前まで一瞬で飛び込み、ローズウィップを振り下ろす。


 だが、「アクセス・デナイド」やはりアメジストはこの技を繰り出してきた。アメジストの顔面を打ちすえるかにみえたウィップは、見えないバリアに阻まれて軌道を変えられ、空振った。「なぜ自ら手を下さないかって? なぜあなたを相手にしなくてはいけない? こうして時間を割くだけでも愚かしいのに」


 アメジストは再び多数のちびエイミーを作り出すと、今度はウィップの届かない距離からショットでさおりを狙わせた。さおりもすかさずウィップを戻してローズリフレクターに切り替え、攻撃をすべて弾き返す。反射した弾は何体かのちびエイミーの頭を吹き飛ばし、さらにはアメジスト本体にも一発命中した。


 「コピーの攻撃なら当たる、と考えたわけね……でも、アクセスデナイドはそんな単純なものではないわ」さらに、指を細かく震わせる。「パーミッション・チェンジ……今、アクセスデナイドの効果をコピーたちにも与えたわ」


 また弾の雨を浴びせるちびエイミーたち。さおりはローズリフレクターを振り回したが、アメジストの言うとおり、今度は弾を反射してもちびエイミーたちに当たらない。当たりそうになっても、紙一重のところで弾かれてしまう。確かに、ちびエイミーにもアクセスデナイドが効力を及ぼしているのだ。


 「これであなたはもう何もすることができない……どう? 自分の無力を思い知った?」


 「ふぅん」ところがさおりは何も動じておらず、代わりにこんなことを言った。「あのさぁ、あんた、パソコン捨てるときって、どうすればいいか知ってる? 中入ってるデータ、消さなきゃダメじゃん? そーゆーとき」何を言い出すかと思えば、彼女の言葉はこう続いた───「そーゆーときってねぇ、別にパソコンで操作すんじゃないんだって。ハードディスク、トンカチと釘で穴空けて壊すんだって」


 「何の話をしてるの?」アメジストにはさおりが何を言わんとしているかわからなかったらしい。「戯れ言につきあってる暇はないの。私はクリスタル様のもとへ参ります。あなたはいつまでもそのコピーと遊んでおいで!」


 その言葉と同時に、その場にワープエフェクトが生じた。彼女は戦闘から離脱しようとしたのだ。


 「ニゲンナコラァ!」


 クライミングピンクローズはローズフォース最速。その謳い文句は伊達ではなかった。ちびエイミーに囲まれていたはずのさおりの姿が消えた。光速を超えたかと思わせるほどの速度で、彼女は突っ込んでいった。


 さおりは一瞬で包囲を突破し、アメジストの眼前に到ると、ワープしかかっているアメジストの首を素手でひっつかんだ。物理的に、だ。


 ───アクセスデナイドが効力を保っているにもかかわらず、その行為は、拒否されなかった。さおりはアメジストの首をがっちりとつかみ、ぎりぎりと締め上げた。この接触によりワープは阻止され、ワープエフェクトは消えて、アメジストは元の戦闘領域に引きずり出された。


 「そーゆーことでしょ? あんたみたいな理屈っぽいのはさ、殴り合いなんてしたことないでしょ!」


 アクセスデナイドは何をもって攻撃を拒否するのか? 何が拒否されるべき攻撃で、何が拒否されないのか? 法や権利で定められるものならば、何らかの基準で分けられているのだろう。たとえば───攻性粒子の有無・・・・・・・


 あたしたちに関わるすべてを拒否すればよかったものを、アメジストは、単なる接触を拒否すべき行為としてカテゴライズしなかったのだ。もとより痛みを感じない彼女には、攻性粒子すら使わず素手で殴るという行動は、戦闘行為の一種として認識できなかったのかもしれない。


 この推測が正しいのかどうか、宇宙法を知らないあたしにはわからない。ましてさおりにわかっているはずはない。だが現実に、さおりはアメジストの首を締め上げ、さらに、投げ捨てるようにしてその体を地面へ叩きつけた。彼女の直感は的中したのだ。

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