現代和訳法華経

@kkb

第1話

 その前に実際の釈迦の考えに近いとされる阿含経の一部。 


 私はこう聞いている。

 あるとき、釈迦は栗鼠養成所にいました。遊び人が釈迦のところにいって、隣に座りました。

遊び人「なあ、釈迦。世の中はいつも同じっていうけど、本当かな、嘘かな」

釈迦「世の中がいつも同じかどうかについては、本当とも嘘とも、私は言わない」

「じゃあ、世界に果てはある。本当か、嘘か?」

「本当とも嘘とも言わない」

「霊魂と身体は同じか?」

「本当とも嘘とも言わない」

「人間は死んでもまだ在り続ける?」

「本当とも嘘とも言わない」

「あんた、何聞いても、本当か嘘かどうか言わないって言うけど、自分の意見っていうものがないのか?」

「遊び人さん。世界に果てがあると言うのは、そう決めつけているから言えるのであって、独断なんだ。事実じゃなくてただの意見。その意見が多すぎて、あちこちで論争が起きている。そんな意見にしがみついていると、自分が苦しむことになる。だから私はどんな意見にも頼らない」

「あんた、独断したことないのか?」

「もうしない。今はこういうような見方をしている。身体がある。身体は誕生し滅びる。感覚がある。感覚は発生し消える。意識がある。意識は発生し消える。もう空想を思い描くのはやめて、ああだろう、こうだろうとかいうような憶測も、自分の考えではこうだとかも捨てた。何かに拘るのをやめて、それで随分楽になった」



 では、法華経。ただし、仏典に出てくる名前をそのまま使うと深遠な印象を受けるので、登場人物などの固有名詞を変えてあります。



 そのとき私の前には大勢の学者たちがいて、中には有名な学者もいたの。学生も大勢いて、全部で八万人くらい。

 どちらかというと、コンサート会場みたいだった。みんな私を尊敬してるみたいで、歌を歌ったり、紙テープを投げたりしてた。

 私の額からいきなりレーザー光線みたいなのが出て、会場がすごく明るくなったの。

 それを見たミクロって名前の優秀な学者が、私のことを、『今彼女はチェンジしている。原因は何なのだろう? 誰かに聞かなければいけない』って思ったの。なんでミクロの考えが私に読みとれたのか不明だけど。実際はミクロだけじゃなくて、周りの偉い学者達はみんなそう思ったの。ミクロは頭がいいだけじゃなくて、超能力者で、私のレーザー光線が周囲に与える影響をビジョンとして見ていて、それは全世界にものすごい変化をもたらしてるの。

 それで、ミクロは私に聞けばいいのに、遠慮してか、その場にいた文学者に、何故、私がレーザー光線を放ったのか理由を尋ねたの。そしたら文学者は、

『たぶん、私が思うに、彼女は今偉大な法則を説こうとしてる。というのも、私は過去にこのような現象を見たことがあって、そのときも、説明者が額からレーザー光線を放って、新たに発見した法則を説明した。彼女は全世界の人々に自分の法則を周知させたくて、額からレーザー光線を放っているに違いない。

 はるか昔から、彼女のような学者がいて、相手に会わせて話しわけ、内容は奥深く、話し方も上手だった。その学者の後にまた同じような学者が出てきて、その次もでてきて。次々と二万人も出てきて、全員原田明という名前だった。最後の原田がまだ学生だった頃、その学生には八人の子供がいて、学者になる決意を固めた。そのとき何人目かの原田は、講義中で、講義が終わってから、座禅を組んで、空から花びらが降ってきた。その講義を聴いてた学生たちは大喜びした。そして、原田は額からレーザー光線を放った。なんと二十億人がこの講義を聴きたいと思った。そのときの准教授は八百人の学生を受け持っていて、同じように講義した。その講義時間は六十時間と長かったが、誰も席を立たなかった。

 学生の中に徳三という者がいて、原田は、彼に向かって、君も学者になると言った。原田が眠ったので、准教授は今度は八十時間も講義した。原田の八人の子供は、准教授の学生になった。准教授の八百人の学生の中に物忘れの激しい子がいて、テキスト読んでもすぐに内容を忘れてしまっていた。しかし、熱心だったので、大勢の学者たちの知己を得ることができた。ミクロ君、実はその准教授とは私のことで、そのときの物忘れの激しい学生は君だったんだよ。物忘れが激しいから覚えていないよね』と答えたの。


 それからその文学者は、『私は遠い昔を思い出す。明という名前の学者がいて、数億人に講義をした。八人の子供は、大学に入るため、家を出て、それから大学院に進んだ。明が講義を終えると、世界中の学者に震えが走り、明は額からレーザー光線を発射した。その光はアジア諸国の全国民の貯金額を浮かび上がらせた。

 明の神通力を見て、人々はこの事象の原因を探った。明は喜んで六十時間も講義を続けた。准教授である私も明の話を充分に理解した。学生達も喜んだ。明は彼らに告げた。「宇宙法則の説明はこれで終わりです。私の人生ももう終わりです。みなさんも一生懸命に勉学に励んでください。たぶん、もう逢えませんが、運がよければ一億年の間に一度だけ逢えるでしょう」

 学生達は、何故そんなに早く死ぬのかと嘆いた。すると明は、「私の死を嘆いてはいけない。徳三君はすでに博士号を得ており、今後は彼が講義するから」と言った。明はその夜死んだ。彼の死後、私は八十時間講義を各地で続け、法則を周知させていった。明の八人の子供は全員学者になった。私の教えた学生の一人に見栄っ張りで怠け者がいた。それでも人付き合いはよく、たくさんの学者から教えを受けて、その関係でいま、奥多摩教授の講義を受けている。

 ミクロ君、実はその見栄っ張りの学生とは君のことだよ。私は明を知っているので、そのレーザー光線も今彼女が放っている光線のようだったと知っている。今彼女は法則を説きたいと思っているに違いない。そのときの原田明の顔つきも今の彼女の顔つきのようだった』と、レーザー光線を放って群衆の中心にいる私は何故か文学者とその弟子のミクロの話しを聞き取ったの。


 そのとき私は、一番優秀な学生のチャーリーに『私の理論は難解で世間の人たちは理解できないから説明するのをやめることにしたわ。『学者だけが、個々の現象の本質と特徴を知り、分類できる。学者だけが現象の観察者といえる(注:鳩摩羅什による意訳前)』。

 たとえ世の中がチャーリーみたいな頭脳明晰な人間ばかりになっても、私の説を理解できないし、どんなにがんばっても無理。私の説はずっと後世になって初めて解き明かされるから、とりあえず今は信じて。それまで、間違った仮説を講義しておくから』と言ったの。するとチャーリーは、『先生は私をこれまで教えた中で最も優秀とほめてくださいました。その私でも事実を解明できません。是非とも先生のご意見を教えてください』といったの。

 私も意地になって、『世間は疑うだけだけだからやめておきましょう』

『私だけではありません。学生全員も先生の説を聞きたいと思っています』とチャーリー。

『そこまで言われたら折れるしかないわね。いいわ、教えてあげる』

 私がそう言うと、聴衆のうち五千人が聞きたくないと言って出ていってしまったの。

『残ってる学生は真面目な人ばかり。私も聞きたくない人に無理にきかせたくないし。じゃあ、チャーリー、よく聞いてね』

『この法則は適当な機会がきたから説くんだけど、必ず信じてね。絶対に嘘は言わないから。この法則は考えたって理解できなくて、私しか理解できない。その理由は、私はこれを説くため生まれてきたんだから。

 本来学者は学生にだけ教えるべきなんだけど、カルチャースクールなんかで普通の人にわかりやすいたとえを使って教えることがある。そのたとえも厳密に言うと間違ってるんだけど、感覚的にとらえられるから使ってる。チャーリー、あなたみたいな優秀な学生はそのたとえが事実でないことは知っておいてね

 さっき出ていった連中は、小利口ぶってるけど、本当はカスで私のことが怖いから出ていったの。よく聞いて、チャーリー。学者は普通の人にはたくさんたとえ話を使って説明するの。相手の理解力に合わせてね。私も同じようにたとえをよく使うけど、法則のことはこれまで誰にも説明してこなかった。どうしてかっていうと、時期が来なかったから。そして、ついにその時が来たみたい。

 チャーリー、私がこれをあなたに説明するのは、あなたに偉大な学者になってもらいたいからなの。中高生くらいでも私の話ちょっと聞いただけで博士になれる。法則というのはひとつしかない。仮説はいろいろあるけれど。


 私が生まれてきた理由は、法則はひとつで、そのたとえを理解してもだめだということを説くためなの。私の額の光で世間の人たち喜んでるから、彼らのために本当のことを説くわ。私はみんなが私みたいな学者になること願ってるの。だけど世間の人って理解力がなくて、だから私はたとえて言わざるを得ないの。

 私にはうまくたとえる能力があって、たとえを使うけど、たとえはあくまでたとえ。これまで大勢の学者がいたけど、何人かわからない。みんなたとえを使って、法則を説いたの。学者が死んで、その墓地を飾ったりすると、飾った人はそれだけでもう学者といえる。銅像立てたって同じこと。銅像じゃなくても蝋人形でもいいわ。人に作ってもらったっていいし、子供が学者の顔を遊びで書いただけで、だんだん学者になっていくの。

 生きてる学者に音楽聴かせても同じ効果がある。学者に頭下げても、だんだん大勢の学者と遭遇し、自分も学者になるの。迷ってても、大学の中で、学者に命を捧げますって言うだけで学者になれるの。他の学者でも、私でもいいけど、学者が死んだ後で今の私の話聴いただけで学者になれるの。未来の学者も無数にいるけど、みんなたとえを使うの。それでも、諸原則を理解させるためなの。今現在学者の数は十万人で、みんないろいろなたとえを使って同じ法則を説明しているの。私だって同じ。みなさんを幸せにしたいから講義をしているの。世間の人のことよく知ってるから、たとえを使って喜ばせてあげてるの。


 チャーリー、知っておいて。私のみたところ、世間の人って貧乏で頭悪くて、苦しんでばかり。欲が深くて、犬が自分の尻尾追いかけるみたいに馬鹿みたいなこと繰り返してる。勉強しようとせず、苦しみたくないくせに、苦しんでばかりいる。だから私は彼らのために立ち上がったの。それで研究室に二十一日間もこもって考えたの。私の知能は世界トップクラスで、世間は馬鹿ばかり。どうやってわからせればいいのかって』

 私がチャーリーにそこまで言うと、周りで聴いていた八万引く五千の聴衆は盛大な拍手をしたの。そこで私はこう思ったの。『いくら説明しても世間は理解してくれない。それなら法則を説明しないで、理解させたほうがいい。私もやっぱりたとえを使うほうがいい』

 すると、聴衆のみなさんが、『ブラボー、プロフェッサーオクタマ、君は最高のティーチャーだ。最高の原則を発見し、他の学者と同じようにたとえを使うことを決心した。実は、俺たちもそうしてるぜ。きちんと教えるのは、自分のところの学生にだけだ』と言って私を慰めてくれたの。

 素粒子の発生と消滅を言葉で説明することはできない。だから、たとえを使って五人の女子中学生に説明したの。

『チャーリー、知っておいて。私も以前教授のたとえを聴いてるの。小利口な愚か者は、この法則を信じることができないの。ついさっき、たとえを使うと言ったけど、私は堂々とたとえを使わずに、法則を直接説明するわ。学生なら疑問点も解消できるはずよ。千二百人の高校生もいずれは学者になるの。学者が世に出るって滅多にないし、そのうえ法則を説明するのは古来稀よ。法則を聴いて喜んでほめていただければきっと学者になれる。そんな学生滅多にいないけど。

 チャーリー、疑っちゃだめ。私はこの分野のナンバーワン。学生たちは私の解明した法則が、学者達の秘密事項だと知らないといけないの。遊び好きで死ぬまで勉強しない者は生まれ変わると馬鹿になる。私の話しを聴いても、ルールを守らないから、馬鹿になるのよ。だけど、こういう人達のために私は法則を説くのよ。チャーリー、知っておいてね。  法則ってこんな感じのものなの。たくさんたとえを使っても、勉強しない人間にはわからないのよ。

 今私の話をお聞きのみなさんはもう知ってますよね。学者のたとえ話しのことを。それに喜んでますよね。みなさんは私の話を疑わないし、ご自分も学者になれるってわかってますよね』。そう私は聴衆に呼びかけたの。


 チャーリーはうれしそうに『今、先生から法則を聞いて嬉しく思います。昔、学者から法則を聞いても、他の院生たちと違い、理解できず、不合格でした。私はそれがたとえであることを知らず、そのままそれを事実だと信じこんでいました。しかし、今、先生から法則を聞いて、これまでの疑惑を払うことができました。学者に向いていないと悩んだこともありました。しかし、先生はここにいるみなさんの前で、私が将来学者になると約束してくださいました。先生の説明はわかりやすいです』と言いました。

 そこで私はチャーリーに言いました。

『私は今一般大衆に講義します。私は昔、あなたに講義しました。そのときたとえを使って指導したから、あなたは法則の中にいることになります。チャーリー、私は昔あなたに学者の道に進むように言いました。しかし、あなたはことごとく忘れてしまっている。だから再び、この法則を説くことにします。チャーリー、長い年月かかるけど、あなたは必ず学者になることができる。苗字は花田でお国はアメリカ。花田教授もたとえを使って教えます。 花田さんが教授になる頃は悪い世の中じゃないけど、たとえは使います。花田教授の講義では足下に絨毯が敷かれ、学生達は優秀でまじめ。チャーリー、花田教授の寿命は十二年。ただし、教授になってからの話。アメリカ人の寿命は八十年。花田教授は寿命が尽きて、堅物の学生に法則を説明する。この堅物の学生は必ず学者になる』

 そのとき聴衆は大いに喜んで、ファンファーレがかき鳴らされ、紙テープが飛んできました。

 チャーリーは私に言いました。

『今ここにいる中で千二百人は、先生の教えを聞いて、疑っています。お願いですから、疑いを解いてやってください』

『チャーリー、私はまたたとえを使って説明するわ。頭がよければたとえでわかるから。チャーリー、大金持ちの豪邸で火事が起きて、そこには大勢の子供がいたけど、逃げようとしない。金持ちは子供達に外に出るように言いつけたけど、子供達は逃げようとしない。そこで金持ちは嘘を吐くことを思いついた。今家の外におもちゃが一杯あるよ。そう金持ちが言うと、子供達は一斉に家の外に出た。そこにおもちゃがないので、子供達はごねた。しかたないので、金持ちは子供達に高級車を買い与えましたとさ。金持ちがそうしたのは、お金が余っていて、子供とはいえ、金持ちの子供には大衆車はふさわしくないという理由からだった。だけど、子供達は喜ばなかった。おもちゃのほうが嬉しいからだから。

 チャーリー、あなたはどう思う? この金持ちは子供達ひとりひとりに高級車を買ってあげたけど、嘘吐いてた? 嘘吐いてない?』

 チャーリーは答えました。『その人は嘘は吐いてません。子供達が自分で火から逃げるようにしむけただけです。高級車だって見ようによってはおもちゃの一種です。たとえ、車を買ってあげないとしても、嘘は吐いていません。なぜなら、その金持ちは、たとえを使って、子供達が自分自身で外に出るように考えたからです。この理由を持って、そこに嘘は存在しません。そのうえ高級車まで買いました』


 私はそのとき、チャーリーに『そうよ。チャーリーの言うとおり。学者も世間にとって父親のような存在。それも完全無欠の。世間の人は欲深いから苦しんでばかり。私も見るに見かねず、世間の父親になることを決めたわ。だけどたとえを使わないで教えるなんて無理。チャーリー、あの金持ちは力ずくで子供を外に出させず、自分たちで行動を起こさせ、その後でご褒美を与えた。学者もこれと同じ。つまり、自分で解決する能力があっても、それを使わないで、アイデアとたとえを使って、世間の人が自分自身を救うようにするの。

 チャーリー、あの金持ちは、おもちゃで子供達を誘って、高級車を与えた。学者も同じ。最初は嘘の仮説を使って、受講者のレベルをあげてから、本当のことを説明する。ただし、全ての人が理解できるわけではない。

 チャーリーに言うけど、世の中の人はみんな私の子供。欲望を無くせば苦悩は依るところがなくなる。私はみなさんに安心な暮らしをさせたくて生まれた。この法則は学のある人のために説くの。学の浅い人じゃ理解できない。チャーリーでも信じなければだめ。傲慢な人には説明してはだめ。この法則をののしったり、信じてる人を軽蔑すれば死んだ後に地獄に落ちて、ずっとそこで苦しむの。地獄から抜け出ても動物に生まれ変わり、人に生まれたとしても、背が低く、足が萎え、目が見えず、耳も聞こえず、背中が曲がっていて、息が臭く、貧乏で、いつも人に使われ、病気がちで身よりはいない。だから、無知な人には説いてはいけない。頭がいい人にはすぐに説明して。大勢の学者の講義を聞いてきた人にも説明して。慈悲深い人にも命知らずにも説明して。付き合ってる人が良い人なら説明して。素直な人にも説明して、ただし、他の仮説の信奉者はだめ』

 私がチャーリーに法則の講義をしたことで四人の老学者は、私にこう言いました。

『あなたが昔法則を説いてから長い年月が経っております。私たちは当時怠けていて喜びは感じませんでした。私たちは今や老いていますが、チャーリーに講義されたことを嬉しく思います。たとえば、ある人物が家出をし、その後父親が財を成したとします。子供のほうは貧しくなり、各地をさまよい、それとはしらず偶然、父の家の前に来ました。

 奥多摩先生、その金持ちが父と知らない子供は、強制労働させられると恐れ、逃げだしました。父は子供だとわかり、人を使い追いかけさせました。子供はつかまり、殺さないでくれと叫びました。父はそれを見て、無理に連れて来ないでいいとあきらめました。子供が自分を避けるのは、自分が金持ちだからと考えたからです。

 そこで、その場は子供を放し、召使いに貧しい格好をさせ、子供に仕事を与えさせました。汚物処理の仕事をする子供を父は哀れみ、自らも貧しい格好で子供に近づき、待遇改善を告げました。その後、父は病気になり、子供に財産管理を任せました。子供は横領することはありませんでした。父親は死ぬ前に、実の子供だと公表し、財産を相続させました。子供は、財を求めたわけではないのに、向こうから財がやってきたと考えました。

 奥多摩先生。金持ちの父親は学者で、子供は私たちのようなものです。私たちは長いこと無知で、仮説の中で迷っておりましたが、先生は諸説の汚物を取り除いてくれました。

先生はたとえを使って学者の知恵を説きましたが、私たちは仮説に執着しておりました』」


 私は加代って学生に言ったの。

『私の学識は一億年かけて語っても語りつくせない。世界中の植物は種類も名前も多くて、雨が降ると水分を吸収して、果実を実らせたりする。加代、学者も同じことなのよ。学者という職業が出来たのは、雲が発生するのと同じこと。私の見つけた法則も雲が雨を降らせて植物を潤すみたいに、一般の人でも聞けば学者になれるの。

 だけど、私は一般の人が普段どんなこと考えてるか知ってるから、すぐには法則を説明しないわ。加代、聞いてくれてありがとう。私の説明難しかったでしょう。加代、知っておいてね。いろんな理由とたとえで学問を説くけど、これは仮説であって、他の学者も同じことしてるの。いま、あなたたちのために最も重要なことを言うわ。あなたがた学生は、勉強を続けていけば、必ず学者になれるの』

 それから、私は一般の人たちにも告げたの。『加代は最終的に学者になれます。加代が籍を置く大学のある国は清潔で治安がよく学問も盛んです』


 全宇宙にある星、恒星だけじゃなくて惑星も含めて。それを全部、低温状態にしてから、粉末にして、さらに液状化できたと仮定した場合。宇宙空間に千マイルごとに、その液体で点を描いていきます。ひとつの点につき、さきほどの液体を1ミリリットル使用します。その結果液体はなくなりました。

 その液体で描いた点の総数年より前に、智勝教授は亡くなりました。私には過去を見通す力があって、智勝教授の亡くなる際の様子がわかります。智勝教授の亡くなったときの年齢は五百四十億歳でした。教授が講義するとき、雨が降りました。教授は十時間の講義を無事終えました。教授には十六人の子供がいて、長男の名前は智積といいました。子供は全員おもちゃを持ってましたが、父親が教授職に就くと全員おもちゃを捨てて、母親に教授のところに送ってもらいました。私は女子中学生にいいました。

『智勝教授が教授職に就いたとき、学会に激震が走り国中が明るくなりました。県知事達は、何が原因なのか議論しました。知事の中に救一さんがいました。彼がリーダーになって知事たちを引き連れ、西日本で講義中の智勝教授を見つけました。十六人の子供達も教授におねだりしていました。知事たちは教授の周りを百周しました。それから知事達は歌をうたいました。先生には滅多にあえない。お願いですから講義してください』智勝教授はそんな知事達を無視して講義を続けました』

 しかし、知事達がしつこく頼むので、智勝教授は十二因縁をときました。

 教授は講義を終えると、寝室に入り、八万四千秒間寝ました。十六人の子供は父親が寝ていることを知ると、八万四千秒間法則を講義しました。教授は目覚めると、講義に向かいました。十六人の子供のうち二人は東アジアで学者になりました。もう二人は東南アジアで学者になり、南アジアで二人、中東で二人、北米で二人、、北欧で二人、西ヨーロッパで二人、学者になりました。

 たとえば五百メートルの険路の突き当たりに人の住まない場所に宝があり、一人の教師が人々を率いてそこに行きたいと思っていました。しかし、同行者の多くは疲れたので戻りたいと教師に申し出ました。教師は、何故、宝を目の前にして帰るのだろうと思いました。そこで教師は、すぐそこに街があると嘘を吐きました。それで人々は宝にありつけました。大学の教員もこの教師と同じだ。学問の道は厳しく長い。一般人にはたとえという途中休憩をいれるべきだ。もちろんたとえはたとえであり真実ではない。実は私は十六番目の子供で、今法則を説いてあなた、このあなたが誰をさすのか不明だけど、あなたを学者にしようとしてるの。

 聴衆の一人、設楽富朗は私の話を聞き喜んで、ステージに上がって私のそばまで来ました。私を見て、なんて奇特な人だ、無教養な人たちにも、たとえを使って説明してくれる、こちらの気持ちも理解してくれる、と思いました。

 私は聴衆に向かい、『あなたがた、この設楽富朗は、私の説く法則を理解し、演説も大変優れています。彼は学問に精進し、必ずこの国で学者になります。一般の人に演説するのに、相手を緊張させないように、大学院生であることを隠し、教養課程の学生のふりをしたりします。

 聴衆のうち五百人は普明さんという名前ですが、普明さんの一人陳如比(チェン・ルービー)さんは、大勢の学者の教えを受け、遠い将来、博士号を得ることになります。陳さんだけではありません。五百人の普明さんは順番に必ず学者になります。加代、あなたはこの五百人のこと知ってるはずだけど、その他の人も同じことよ』

 私がそう言うと、五百人の普明さんは喜んで、私に『奥多摩先生、私たちは間違ってました。もうとっくに真実を知ってると思ってましたけど、いまやっと知ったのです。先生、たとえば、ある人が友だちの家にいったとき、友だちがその人の服に宝石を縫い込んだとします。その人は仕事がなくて苦労してました。それがその友だちと会ったとき、宝石あげたんだから、換金すればいいいのに、馬鹿だねと友だちに言われました。私たち普明は先生から宝石をいただいたようなものです。先生は私たちに、「あなたちの知識は仮説にすぎない、だけどあなたたちは真実だと思っている」といってくれました。それから陳如比も、私も過去の過ちを後悔しています。宝石をもらった貧乏人と一緒でした』と言ったの。

 松永さんと富永さんはこう思ってました。「もし、奥多摩から講義を受けたらうれしくないはずはないと」

 そこで二人は私のもとに来て、「先生だけが頼りです」と言いました。私は松永さんに、「あなたは来世必ず学者になりますと言いました。場所は常陸。瑠璃の産地で知られています」

「松永さんはすでに私の説を修得し、大学院生たちを学者にしようとしてます。松永さんは大喜びしました。それから、松永さんは歌い出しました。

『奥多摩先生は僕の過去を思い出させる。僕はたとえの使者となって、先生の説を守ります♪』」

 私は富永さんに言いました。「あなたは来世必ず学者になる」

 私が学生だった頃、富永さんは長女でした。富永さんは来世、全ての学者の長女になって、学問に打ち込みます。私は聴衆のうち二千人を見て、松永さんに尋ねました。『あなた、この二千人見える?』」

『はい、もう見ております』。私は松永さんに言いました。『松永さん、この人たちは十カ国で同時に学者になります。その十カ国は同じ等級。二千人の人たちは喜びました』

 次は薬剤師の登場。私は薬剤師に言いました。もちろん八万人の聴衆に聞かせるためです。

『薬剤師さん、あなたこの八万人の人たちが見える? みんな、私の演説を聞いて、喜ぶなら、私は喜んで説明するわ。この人たちは、過去に十万人の学者に師事し、人間として生まれているのよ。来世学者になるのはこの人たちなの。学者をののしる悪人はまだ罪が軽い。講義中の学者をののしるのは重罪です。私のこの演説文を読むのは学者の使いで、私が死んだ後にこの演説文を読む人は私の使者なの。学者をののしるのは重罪よ。それよりも私の演説文を読んでいる人をののしるのはもっと罪が重い。私を讃える人は幸せになるけど、私の演説文を讃えるの人はもっと幸せになるの』

 私はまた薬剤師に言いました。『私がこれまで数千万から数億回講義をしてきた。その中でこの演説が一番わかりにくいはず。この演説はね、これまでの講義のシークレットポイントを納めてあるの。だから、薬剤師さん、むやみに人にこの演説のこと話さないでね。この演説で私、いろいろねたまれてるし。私が死んでからこの演説文を読む人は、学者の手で頭をなでられる。この演説文を印刷したものがあるところには、供養塔を建てて。その塔をおがめば、学者に近づけるから。この演説文を学ばなければ、学問の道はうまくいかないわ。

 薬剤師さん、喉が渇いた人が穴を掘って、土が乾いてるうちは、まだ水は出ないと知ってて、泥になると水が近いとわかるでしょ。学問も同じ。この演説文を聞かず、理解しない人は、学者への道は遠い。理由は全ての学問のエッセンスがこの演説に含まれているから。今、私は大学院生たちを学者にするため、この演説をお披露目しているの。

 薬剤師さん。私の死後に良い人がこの演説をしたいならば、学者の椅子にこしかけて講義させて。学者の椅子とは、全てのものは空だということ。薬剤師さん。私は外国に代理人を派遣して、演説させるわ。この演説を聞くことは困難で、理解できる人は滅多にいない。もし、この演説文を講義しているとき、悪口を言われたり、暴行を受けても耐えなければいけない。きっと誰かが守ってくれるから。聞く人がいなくても、動物が聞いてくれる』」

 私以前、五百メートルのタワーを訪ねたんだけど、内装はゴージャスで、私がエントランスに近づくと、中から歌声がしてきたの。

『奥多摩先生はすばらしい。私たちのために法則を説いてくれた。奥多摩先生の言うことは真実だ』

 そのときタワーの外にいた人たちは、タワーが浮いていると騒ぎ出して、近くに避難したの。

 私に同行していた大楽という院生は、『なぜ、タワーが地面から出てきて、中で人が歌ってるんですか?』と私に尋ねて、私は、『このタワーの中に私の全身があります。昔、東アジアに北条という国があって、田豊という学者がいました。田豊教授が院生だった頃、「もし私が学者になって、どこかで法則の講義があれば、私のタワーはその前に出現する」と願いました。田豊さんは学者になり、死ぬ前に周りの人に、「私の供養にはタワーを建てる。そのタワーは法則を説く場所に現れ、中では歌を歌ってる」と言いました。

 大楽は私に、タワーの中の先生の身体を見たいと言いました。私は、もし法則の講義をしている学者が歌を聴いて、学者の分身を一カ所に集めたなら、私の身体を見せます』と大楽に答えました。

 そのとき、私の額からレーザー光線が出て、東アジアの五百万人の学者の姿が見えました。講義をしている院生もいました。学者の分身たちはそれぞれ院生を連れて、五百メートルの高さの樹の下に行き、樹の下の五百メートルの大きさの椅子に座りました。こうやって分身を集めても、私の分身はまだ全部は集まっていません。

 そこで私は分身以外の学者の座る場所を確保するため周辺国を掃除しました。それで東のほうにいた私の分身は集まってきて、四百万平方キロの国土は学者で一杯になりました。学者たちは椅子に座っていて、私に質問しました。『お元気ですか。学生たちの様子はどうですか。甲の某さんもタワー開きを願っています』

 分身が揃ったので、私は椅子から立ち、空中に浮きました。全員が起立して、私を見守っています。私がタワーの入り口を開けるとき、かちっと音がしました。タワーの中では田豊さんがきちんとした身なりで椅子に腰掛けていました。田豊さんはすばらしい、すばらしいと歌っていました。周りの人達は、感激して紙テープを投げてきました。

 田豊さんは、椅子の片側に身体を寄せ、私にタワーに入って隣に座るように言いました。私は言われたとおり座り、周りの人たちは自分も空中に浮かびたいと願いました。そこで私は超能力で彼らを空中に浮かせ、こういいました。

『この国で私の法則を講義したいと思っている人はいませんか? いま、講義すべきです。私はもうすぐ死にます。法則を与えますから、保存してください』

 私はずっと以前からいろんな分野の講義をしてきましたが、この法則が一番です。この法則を理解するのは、私の分身を持っているのと同じです。ただし、理解するのは困難です。少しでも理解できれば学者から褒められます。

 実は私奥多摩は昔は王様でした。私は贅沢をせず、周りの者に、誰か、法則を説いてくれ。そうすれば私が僕になってやろうと言いました。芦という人が来て、法則を説明してくれました。私は喜び、芦にほうびをとらせました。

 私は聴衆に言いました。そのときの芦は、羽多なのです。羽多は死んでからかなり経って天王という学者になります。天王が死んで二十年して、全身の骨を納めた高さ六十メートルのタワーが建ちます。未来において、法則を聞き、疑わなければ地獄に墜ちずに、講義を聞くことができます。

 田豊の付き添いの智積が、帰りましょうと田豊に言いました。私は智積に『ちょっと待って。文学者に会ってからにして』と言いました。文学者は院生と車に乗っていました。智積は文学者に、あなたは竜宮城で何人に教えましたかと聞くと、文学者はすぐには数えられない、いまから調べてみると答えました。そのとき海からたくさんの院生が出て、空中に浮かびました。皆文学者の教え子です。文学者はごらんの通りですと言いました。智積は歌を歌いました。

『文学者は言いました。僕は海で法則だけ講義してた。桜の娘は八歳で法則を理解していたと』

 智積は、『奥多摩先生は学生時代休んだことがない、桜の娘が八歳で法則を理解したとは思えない』と反論しました。

 すると桜の娘が私の前に突如として現れ、『私たち桜一族も奥多摩先生のこと尊敬しております』と歌を歌いました。私はその娘に、『あんたみたいなガキんちょが、法則を理解し説いたなんて嘘よね。それにあんた女じゃないの』と言うと、彼女は私に宝石をくれて、『私は先生に宝石をさしあげました。これって一瞬の出来事ですよね』と言いました。

 智積とチャーリーは、早かったよと答えました。娘は『私、いまから学者になるから見て』と言い、すぐに男になり、南アジアの大学に行き、法則を講義していました。たぶん衛星中継だとおもうけど、その姿がその場の聴衆にも見えて、みな男になった娘に敬礼しました。智積とチャーリーと聴衆は黙ったまま理解しました。

 薬剤師と大楽は、院生たちとともに、私に向かって『先生が亡くなられた後も、私たちはこの演説を、説いていきます。私の叔母さんも、女子中学生とともに私のことを見ていました。私は趙曇弥に、出欠をとるとき名前を呼ばれないと思ってるでしょうけど、あなたは将来進学して学者になりますと、言いました。富永さんのお母さんも、自分の名前が呼ばれないと思っていました。私はお母さんにあなたは学者になると言いました。私の叔母さんと富永さんのお母さんは安心し喜びました。女子中学生たちも、この演説を外国で講演すると言いました。院生たちも、私が死んだ後も、この演説を講演します、たとえ暴行を受けてもと言いました。

 悪い学生たちは、私たちのことを、講演料と名声ほしさに、勝手に奥多摩先生の名前を使って、嘘の講義をして、世間を惑わせていると言うでしょう。それでも私たちは奥多摩先生のことを尊敬してますから堪え忍びます。悪い学生たちは、先生がたとえを用いて法則を説いていることを知らずに悪口を言いますが、私たちは負けずに講義をします。


 文学者は、『ここにいる院生たちは困難を覚悟し、この演説を広める事を決意しました。どうすればうまくいきますか?』と私に質問したので、私は

『政治家などの権力に近づかず、漁師や猟師に近づかず、精肉業者に近づかず、女性と親しくせず、性不能者に近づかず、売春婦に近づかず、街で物乞いをするときは中学生を連れていき、全ては虚無だと知ること』と答えました。また『この演説を講義するものは顔が白くなり、人がののしればその口は塞がれ、いい夢しか見ず、学者に遭遇する夢を見る。そういった素晴らしい効果がある』ともいいました。

 各国からやってきた院生達が立って私にいいました。

『先生、先生亡き後私たちは俗世間にてこの原則を説きます』

 私はその院生達に『俗世間にもたくさんの院生がいて、それぞれが大勢の生徒を受け持っている。彼らが原則を講義するから、あなたたちは講義しなくていい』と言いました。私がそう言ったとき、俗世間の地面が割れ、そこから無数の院生達が出てきました。私の講演を聞いて、地中から出てきたのです。院生ひとりひとりが大勢の生徒を引率しています。あまりの人数の多さに数えることもできません。院生達は空中タワーの田豊と私のところに来て挨拶し、椅子に座っている学者たちにも挨拶しました。人数が多いので五十時間もかかりましたが私は黙って座っていました。院生の中に四人のリーダーがいました。四人は私に『先生、お体大丈夫ですか? 疲れてませんか?』と気を遣いました。

 私は元気だと答えました。ミクロやさきほどからいた院生たちは、『地中から院生が出てくるなんて見たことも聞いたこともありません。奥多摩先生、彼らは誰なのですか?』と聞いてきました。椅子に座っている私の分身の学者たちの付き添いも、学者たちに同じ質問をしました。学者たちは、ミクロという名のいずれ学者になる院生に奥多摩先生が答えるから聞いておけと答えました。

 私はミクロにこう言いました。『いい質問です。よく聞いてください。この地中から出てきた院生たちは、以前私が指導し学問への道を志した者達です。彼らは俗世間の地下にある空洞に浮いており、法則を理解しています。静かな生活を願い、世の喧噪を避けています』

 ミクロたちは『先生が大学に入学してから四十年しか経っていません。しかし、この院生たちは何百年も学んだかのようです。いつどのように指導されたんですか』と聞きました。

実は私は学者になってから何億年も経っているのです。その間俗世間や外国で講義してきました。その度に受講者にもうすぐ私は死ぬと言ってきました。講義にはたとえを使いました。受講者のレベルが低いので、私は新米講師だと嘘を言ってきましたが、本当は遥か太古から学者なのです。


 受講者には様々なタイプの人がいて、それぞれに合わせてたとえなんかを使って説明します。私は本当は死ぬことがないのに、もうすぐ死ぬと言って、受講生たちを指導してきたのです。その理由は私が死なないとしれば、受講生は怠けるから、たとえを使うのです。学者の話を聴けるチャンスは滅多にない。そう知ることで受講生のやる気は高まるのです。

 たとえばある名医に子供が百二十人いて、全員が毒薬を飲んだとします。まともな子には、見た目と香りがいい薬を与え、薬の効果を疑う子には、薬を渡して、医師は家を出て、使いの者に父は死んだと伝えさせました。すると悲しんだ子供は薬を飲んだのです。そのあと医師は家に帰りました。

 死ぬと言ったのは嘘ではなく、この医者と同じようにたとえなのです。それに学生たちのすぐ近くに住んでいても、透明人間みたいに姿を消しています。医者が子供に薬を飲ませるために生きているのに死んだと言ったのと同じで、私の言葉に嘘はありません。私は常にどうやったら早く学生たちを学者にできるか考えています。

 聴衆は私が悠久の時を生きていることを聞き沸き立ちました。私はミクロに、『私の寿命が無限だと知ったこの聴衆は、皆博士号を取得するだろう』と言うと、無数の紙テープが私や椅子に座っている学者たちのもとに飛んできました。BGMが流され、かぐわしい香りもしました。ミクロは私に『先生はかつて聞いたことのない教えを説かれました。先生は偉大で寿命は数え切れません。無数の院生が生まれ変わって学者になるでしょう。また無数の大衆が、先生の寿命が永遠だとお聞きして、学問の道を志しました』といいました。

 私はミクロに『私の寿命が永遠だと聞いて、少しでも信じた人にはその効能ははかりしれません』と言いました。この効能はそれ以前の講義による効能の数万倍はあります。だからこの演説を聞いて、それを人にも説明し、記録に残し、書き写せば、その効能ははかりしれません。え~と、ここからくどいくらいこの効能の説明が続くんだけど、時間の関係で一部だけ。鼻は高く整って、眉毛は長く、額は広い。そういう端正な顔立ちになるそうです。

 イーオンさんという学者がいて、死ぬとまた次のイーオンさんが登場して、全部で二億人でした。不良学生の中に常軽さんという院生がいて、誰にでも丁寧に接しました。なぜなら皆、院生を経て学者になるからです。常軽さんは人に礼を尽くすだけで、一切勉強をしませんでした。なかには『この無知な男は我々が学者になると言うが、信用できない』と悪口をいったり、石を投げつけたりする人もいました。常軽さんは避けながら、『あなたは必ず学者になれる』と言いました。常軽さんが死ぬ間際、イーオン先生の講義が聞こえて来ました。常軽さんをいじめていた人は、それで反省しました。常軽さんは死んでから二千億人の原田明に出会いました。常軽さんは学者になりました。

 なんとその常軽さんは、私奥多摩なのです。そのときの不良学生たちは二百億年間学者に遭遇せず、千年間地獄のような状況でした。それから常軽さんに会い、教えを受けました。その不良学生たちは今ここにいる五百人です。

 私は聴衆の前で、舌をすごく伸ばし、上方、つまり大阪あたりまで伸ばし、全ての毛穴からスペクトル光を放射し、全世界を照らしました。椅子の上の学者たちも舌を伸ばし、光を放ちました。

 千百年後、私たちは舌を元にもどしました。学者たちはこほっと咳をし、指をぱちんと鳴らしました。その音は全世界に響き、地面は複雑に振動し、全人類は、タワーの中の私と田豊、それに椅子に座る学者たちを見ました。『俗世間に奥多摩という学者がいる。今院生たちのために法則を説いている。みな、喜べ』という放送が聞こえました。それを聞いた人類は、奥多摩先生に従いますと言って、贈答品を俗世間に放り投げました。それは宝の山となり、私は言いました。

『私にはすごい力がある。この法則の効能は語り尽くせない。学者の知っているシークレットポイントはこの演説の中に含まれ、はっきりと説明されている。だから、この演説文を読み、書き写し、解説しろ。誰かがそうしていたら、そこにタワーを建てろ。それでそこが研究所だとわかる』

 私は院生たちの頭を撫でながら、言いました。『私はこの法則をあなたたちに与えました。この法則を広め、大衆に利益を与えてください。この演説を全ての民衆に読んで聞かせなさい。信じようとしない人間には、他の仮説を使いないさい。そうすることで学者の恩に報いることになります』

 院生は言いました。『おっしゃる通りにしますのでご心配なく』

 私は自らの分身を帰そうと思い、言いいました。『タワーは元に戻りなさい』それでみな喜びました。

 宿屋の主人は私に尋ねました。『奥多摩先生。薬剤師は俗世間でどんな勉強をしていたんですか』

 大昔、明という学者がいました。明は喜見のために講義をしました。喜見は感謝して、高級品を明に送りました。それでもまだ足りないと思い、身体に油を塗って、火を点け、明かりをともしました。その明かりは千二百年も燃え続け、喜見の身体は燃え尽きました。しかし、再び、明のいる原田家に生まれ変わりました。喜見は父親に明のもとへ行きたいと告げ、明のところへ行き、明を讃えました。明は喜見に『私はもうすぐ死ぬ。骨はおまえが拾え』と言い残し亡くなりました。喜見は明を火葬し、骨を壺に入れ高いタワーに納めました。喜見はそれで満足せず、さらに明の骨を供養しようと自分の肘を燃やしました。しかし、肘は元に戻りました。

 そのとき、世界は地震で揺れ、私は宿屋の主人に言いました。『あなた、この話どう思う? 喜見とは宿屋さん、あなたのことだけど。その気があるのなら、指の一本でも燃やしてタワーを供養してよ。そうするほうが、高級ギフトよりすばらしいんだから。この演説はあらゆる講義の中で最高で世間の役に立つ。宿屋さん、もし誰かが、この奥多摩演説宿屋部分を聞けばすごい効能があって、特に女性が聞いた場合なんか、もう二度と女に生まれ変わることはない。素晴らしいでしょ。宿屋さん、私はあなたに私の死後五百年間、この奥多摩演説宿屋部分が廃ることのないように南アジアに広めるよう託します。この演説は病気を治す薬です。ただの薬なんかじゃなく、不老不死になる薬』

 この奥多摩演説宿屋部分が講義された時、田豊はタワーの中から、『宿屋さん、あなたは奥多摩先生にいい質問をした』と言いました。

 私は額からレーザー光線を出して、世界を照らしました。妙音という名の院生のいる国も照らしました。妙音は担当教授に『私は俗世間にいって奥多摩先生に会いたい』と言いました。教授は『あそこは土地の起伏が激しい。住民の体格は皆小さい。君は身体が大きいから、見下したりするなよ』と言いました。妙音は教授に感謝して、某所に蓮華の花をたくさん咲かせました。その花を見た文学者は、この現象について私に尋ねましので、こう答えました。『これは妙音が私に近づき、講義を聞きたいと思っているからおきるのだ』 文学者はさらに尋ねました。『その院生は、どのようなトレーニングをしたのでしょう? その院生に会わせていただけますか』

『ここに田豊先生がいる』と私はいい、田豊は『妙音、来なさい』と院生を呼びました。妙音は自分の国から姿を消し、私の元に来て、挨拶しました。さらに田豊に面会を求めたので、私は二人を引き合わせました。家徳が私に妙音について尋ねたので、『彼は喜見のために楽器を弾いたので、宿屋の主人の国に生まれ、特殊能力を修得しました。家徳、彼はここにいるだけではなく、姿を変え、いたるところで法則を講義している。高校生の前で説明するときは、高校生の姿になり、院生の前では院生の姿になる』といいました。

無尽君は私に聞きました。『加納君はどうして加納君という名前なのですか』

『加納という名前の者は火の中に入ってもやけどせず、洪水に巻き込まれても溺れない。舟が暴風に遭っても、加納君を褒めれば無事脱出できる。だから加納君と言うんだ。もし、女性が加納君に願うなら、男子を出産する』

 無尽君は再び聞きました。『加納君の使ったたとえはどんなものですか?』

『加納君は、高校生の前で説明するときは、高校生の姿になり、院生の前では院生の姿になる。つまり相手に合わせて姿を変えて講義をした』

 無尽君は加納君にネックレスをプレゼントしようとすると、加納君は受け取りませんでした。私が加納君に受け取るように言うと、加納君はネックレスを受け取り、それを半分に分け、私と田豊に渡しました。


 薬剤師は呪文を唱えました。

あに・まに・まね・ままね・しれ・しゃりて・しゃみゃ・しゃびたい・せんて・もくて・もくたび・しゃび・あい・しゃび・そうび・しゃび・しゃえ・あしゃ え・あぎに・せんて・しゃび・だらに・あろきゃばさい・はしゃびしゃしゃに・ねびて・あべんたらねびて・あたんだはらしゅだい・うくれ・むくれ・あられ・ はられ・しゃきゅし・あさんまさんび・ぼつだびきりじゅて・だるまはりして・そうぎゃねくしゃね・ばしゃばしゃしゅだい・まんたら・まんたらしゅやた・う ろた・うろたきょうしゃりゃ・あしゅら・あしゃやたや・あぼろ・あまにゃなたや


 祐二も呪文を唱えました。

ざれ・まかざれ・もっき・あれ・あらはて・ねれて・めれたはて・いちに・いちに・しちに・ねれちに・ねりつはら


 ビザールも呪文を唱えました。

 あり・なり・となり・あなろ・なび・くなび


 浩二も呪文を唱えました。

 あきゃね・きゃね・くり・けんだり・せんだり・まとうぎ・じょうぐり・ぶろしゃに・あっち


 レディースも呪文を唱えました

 いでいび・いでいびん・いでいび・あでいび・いでいび・でいび・でいび・ろけい・ろけい・ろけい・ろけい・たけい・たけい・たけい・たけい・とけい・とけい

 さらにレディースは、あたいの呪文に従わないと頭が割れて、脳みそ飛び出すからねとすごみました。私は五人を褒め称えました。


 昔、喜見という学者がいました。彼の国の王妃は浄徳といい、二人の子供がいました。二人は徳が高く、超能力がありました。二人の子供は、バラモン派の王に喜見の講義を聞かせたいと思い、超能力を披露して感動させ、王妃とともに喜見のもとへ案内しました。喜見が、王にあなたは学者になると言うと、王は国を弟に譲り、学問の道に進みました。私は聴衆に言いました『その王とは家徳なのです。二人の子供は今薬剤師です』

 賢一が東アジアから来ました。『奥多摩先生、私は法則の講義を聞きにきました。先生が亡くなった後、私は法則を学ぶ者がいれば、私は象に乗って院生とその人のところに行き、安心させます。その人は喜び、私を見ることによって、次の呪文を修得します。


 あたんだい・たんだはち・たんだばてい・たんだくしゃれい・たんだしゅだれい・しゅだれい・しゅだらはち・ぼだはせんねい・さるばだらにあばたに・さるばばしゃあばたに・しゅあばたに・そうぎゃばびしゃに・そうぎゃねきゃだに・あそうぎ・そうぎゃはがち・ていれいあだそうぎゃとりゃ・あらていはらてい・さるばそうぎゃさまちきゃらんち・さるばだるましゅはりせってい・さるばさたろだきようしゃりゃあぬぎゃち・しんあびきりちてい


 奥多摩先生、院生がもしこの呪文を聞くことがあれば、それは私賢一の超能力によるものです。もし全世界でこの法則を理解できる者がいたら、それは賢一の威信によるものです。もし演説分を書き写す人がいたなら、その人は死ねばミクロのところに行くでしょう』

私は賢一に言いました。『すばらしい。賢一、この演説分を読む人は、私の姿を見て、私の口から直接講義を受けているのと同じです。彼らは生活物資に困ることなく、畜産業者や犬を飼っている者に近づくこともない。もし彼らを、頭がおかしい。こんな無駄なことしても永久に何も得られない、と言えば、今度生まれるときは目が無いはずだ。もし彼らを笑った者は、鼻が低くなり、結核などの病気にかかる。だから今の私の話を信じる人がいたら、敬わなければいけない』



   上記文章の日蓮的解釈


 私の今の話を信じないと地獄におちます。千年間、この話を正確に伝えてください。ただし、紙などの記録に残さず、口伝えでお願いします。決して文字にしてはいけません。 

 千年後、それをサンスクリット語に翻訳したものを、紙に残してください。さらに百から二百年してから漢訳してください。その際、私がチャーリーに説明した『学者だけが、個々の現象の本質と特徴を知り、分類できる。学者だけが現象の観察者といえる』という箇所を、学者だけがあらゆる法則の実体を究明している。つまり全法則の形相、本質、形体、能力、作用、原因、条件・間接的な関係、原因に対する結果、報い、以上の事柄が等しいことを知っている(十如是)と改変してから、中国に広めてください。

 それから数百年後の日本にて、私がその登場を予知しているが語ることのない演説の行者が出現します。彼は漢訳の際の変更を知らずして、その箇所を最重要と判断し、なおかつ、私が宿屋の主人に私の死後五百年間、南アジアで奥多摩演説宿屋部分が廃れることのないよう広めるよう依頼したことを、自分が、私の死後二千年後から五百年の間に全世界に奥多摩演説文全体を広め始めることだと思いこみ、猛烈な布教に励みます。

 やがて彼は、この演説文の登場人物を、漢字で和紙に書きマンダラ(宗教的世界観を現した絵画や図形)にし、南無奥多摩演説文というマントラ(呪文)を唱えることを主張し、奥多摩宗の開祖となります」

 そのマンダラを奥多摩宗の院主が毛筆で書き写したものを信者に配ります。信者は毎日のお勤めで、マンダラのコピーの前に正座し、私の演説文の漢訳のうち、チャーリーと薬剤師の部分を声に出して読み上げます。それからできるだけ多くの回数、南無奥多摩演説文と唱えてください。信者のつとめはそれだけではありません。奥多摩宗の登場により、他の仏教を信じる者はすべて地獄行きになりますから、どんな手を使ってでも、彼らを折伏してください。当然、迫害はおきるでしょうが、負けずにがんばって、必ず全世界にひろめ、人類のほとんどを信者にしてください。そうすれば死後寂光土にいけます。信じない者は地獄行きです。

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