『』

岡村 としあき

『転生』

『転生』

 気が付いたら、終わっていた。オレの人生。


 スマホでエロ動画を見ながら歩いていたのが、悪かったらしい。前方不注意ってやつだ。


 いよいよ本番かというところで、オレの足は赤信号を渡っていたらしい。喘ぎ声がクラクションでかき消され、我に帰ったときにはすでに遅く――。


 村上深夜、享年18歳。というわけ。


 トラックにはねられたオレの体は、お茶の間に放送できない悲惨な状態だった。肉体から切り離された霊魂となってしばらくその場にとどまっていたのだが、一瞬で目の前が真っ白になって移動していた。


『ここはどこだ?』


 肉体を失っているので、声は出ない。


『もしかして、天国ってやつか? じゃああれか! オレ、転生できるのか?』


「その通り」


 真っ白だった世界に、黒い影が生まれる。そいつは人の形を取ると、オレの目の前にやってきた。


「ここは死後の世界。前世と来世の狭間。さあ、何に生まれ変わりたい? 君が望む生物。望む性別。望む容姿。望む能力を与えて新たな生を与えてあげよう」


 黒い影はオレに向けて手を差し伸べる。


 神様……か?


『剣と魔法の世界がいい! すんげー強い勇者になって、いっぱい女の子ときゃっきゃっうふふするんだ』


 オレが興奮してそう伝えると、神様みたいなのは大げさに肩をすくめた。


「やれやれ、またか。最近君の様な死人が多くて困っていたところだ。現世では今、流行っているのかい?」


 オレ以外にも同じ様なことを考えてるやつがいたのか。


「まあ、無理と言うわけではないのだが……本当にいいのかね? 前世の君はあれだけ、現世の君の……科学の世界に転生させてくれと懇願してきたのに」


『え? 前世のオレが?』


「見せてあげよう」


 そういうと、神様みたいなのが指をパチンと鳴らし、映画みたいに画像が空中に描き出された。


『お、おお。剣と鎧……金髪ロングのにーちゃん』


「前世の君だよ」


 いかにも勇者っぽい青年が、ドラゴンとかを相手に一人で無双していた。


『いいじゃん! 何で前世のオレは夢もロマンのカケラもない科学の世界に転生したいだなんて言ったんだよ!』


「彼は邪悪な竜を退治し、祖国に戻ると美しい姫をめとり、新たな王になった」


『素晴らしい! テンプレだけど、ナイスサクセスストーリー!』


「数年後、三人の息子に恵まれ幸せな日々をすごしたが、魔法力の衰えと共に、息子たちに王座を狙われ、最後には信頼していた王妃に毒殺されて生涯を閉じた」


 うげ。


「前世の君は言ったよ。魔法など存在しない世界に生まれたかった、とね」


『じゃ、じゃあやっぱり魔法の世界はやめとこーかな……。んっと……性別も選べるんだよね? 容姿も?』


「その通り。君が望むなら、巨乳の美女にでも、つるぺた幼女にでも、男の娘にでも転生が可能だよ。あ、おすすめは男の娘かな」


 何ススメてきてんだよ、神様。


『じゃ、じゃあ。絶世の美女に転生……しようかな?』


 オレが興奮してそう伝えると、神様みたいなのは大げさに肩をすくめた。


「そうか……前前世の君は巨乳の美女だったのだが……あれだけ来世は男がいいと言っていたのに……」


『え、何だよ?』


 再び神様が指をパチンと鳴らすと、空中に画像が現れた。


 爆乳。美女。生足。体のクビレがたまらん。そんな感じの若い女が描かれていた。


『お、おお。すんげー胸。すんげーキレイ。女優みてー……本当にこれが、前前世のオレ?』


「そうだとも。前前世の君は、貧しい農村で生まれ育ったのだが、子宝に恵まれない貴族の夫婦が、君を一目見て気に入ってね。幼女の君を養女にしたんだよ。あ、これダジャレじゃないからね」


『うっせー、さっさと続けろよ』


 やべ、ちょっと笑いかけた。


「それから君は美しく成長し、バストもけしからんくらいに大きくなって、王様に見初められ……王妃となった」


『ちなみに何カップ?』


「Gカップ」


『ナイスオレ!!』


「しかし、幸せは長く続かず……君は宮中の女性から妬まれ、いやがらせを受け続け……最終的には、食事に毒を盛られ、死んでしまった」


『なんてこった……ていうか、また毒殺?』


「前前世の君は言ったよ。男に生まれればよかった、とね」


『じゃ、じゃあ。今度は、動物で! そうだなー。鳥とか、よさそう』


「前前前世の君は鳥でね、焼き鳥にされて、人間に食べられてしまったんだよ。だから、今度は人間に生まれ変わりたいと言ったんだ」


『マジかよ。じゃ、じゃあ……。植物……とかは?』


「前前前前世の君は木だったんだね。どこにも行けず動けず、自由に空を飛びまわる鳥を羨ましがり、鳥に生まれ変わりたいと言ったんだよ」


『なんだよ、それ……』


「さあ、何に生まれ変わりたい?」


 黒い影がニヤリと笑った。考えている時間はなさそうだ。


『わかった。じゃあ――』


 そして、オレは再び白い光りに包まれた。


「村上さん! おめでとうございます! 元気な男の子ですよ!」


 意識が朦朧とする。どうやら、転生したらしい。


 オレは今、女性……母親に抱かれているようだ。


「利子……よくやった!」


「あなた……名前なんだけど、深夜にしようと思うの。真夜中に生まれてきた私達のかわいい赤ちゃん。深夜」


「そうか! 深夜か! おーよしよし、深夜。パパだぞー」


 結局オレは、もう一度オレとして生まれ変わることにしたのだった。


 今度からエロ動画見るときは、気を付けよう。


 ~終~

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