リアル『クエスト』
「え? 何、操作って」
シェイリーは質問に答えず、小森からゲーム機を奪い取った。
「お兄ちゃんのお願いを一定数聞いたら、クエストクリアーだったの! クエストの報酬は、お兄ちゃんをシェイリーが操作できる権利だよ! やったー!」
「そ、そう。よかったね。それよりも、早くあいつらを……うを!?」
急に自分の意思とは関係なく体が動き始める。
歩行。
「うわ! どこ見て歩いとるんや、アホ!」
「す、すみません」
ジャンプ。
「なにやってんや、にーちゃん?」
「ああ、いえ。お構いなく」
ソーシャルアクション、ダンス。
「ちょっと、何あれ? 警察呼んだほうがええんちゃう?」
「きっもー。死ねばええのに」
「わはは! ええぞ、お兄ちゃん! ええケツしとるやないかー」
小森は、歩いている途中で若い女性にぶつかり、繁華街の真ん中でジャンプし、駅前でお尻をふりふりダンスをした。
「や、やめてよ。シェイリーたん!」
「あはは。お兄ちゃん、おもしろーい! じゃあ、今度は装備を整えようね」
「え? 装備?」
「武器屋にいこー」
シェイリーに操作され、大型のスーパーへ直行する小森。
そして、台所用品の売り場に来ると、包丁を手に取った。
「や、やめよう。シェイリーたん。あ、そうだ! 上に防具屋があるんじゃないかな? 先に防具だよ! 防具!」
「あ、そっか~。そうだよね~」
二階にある婦人服売り場まで来ると、シェイリーは小森をさらに操作する。
「まずは~装備を全部解除しよう!」
「え? 装備解除って……あああ!?」
手が動く。
周りには、買い物途中の主婦達。
露になった素肌に、冷たい空気がまとわりつき……小森は下着姿になった。
「やだ。なにあれ。ストリップ?」
「シェ、シェイリーたん! 装備はやっぱりこのままでいいよ。ね? ああ、先に回復アイテム! そうだ。コンビニに行こう、ね? シェイリーたんの好きな、アイスクリームもあるよ」
「アイスクリームほしー! じゃあ、コンビニにいこいこー!」
「あ、待って! 服を、装備を元に戻して、お願いだから!!」
小森は受け入れられないまま、下着姿でスーパーを抜け出した。そして、車が行き交う国道を渡ろうとして、シェイリーに声をかける。
「シェイリーたん。信号、赤だから止まらないと? あ、だ、だめ! だめだよ!?」
「あいす。あいす。あいすくりーむ!」
しかし、シェイリーはアイスクリームで頭がいっぱいなのか小森の声は聞こえていない様子だ。
「わ」
「あぶねーぞ、バカヤロウ!」
「死にてーのか、アホ!」
なんとか車にひかれずに道路の真ん中まで来た小森。だが――。
クラクション。一際大きい巨体。空気が振動する。トラックが小森に迫った。
「しぇ、しぇいりーたん!」
「あいす。あいす。あいすくりーむ!」
飛んだ。ソーシャルアクション、ジャンプの時よりも、高く。
小森の体は一瞬でバラバラに砕け、地獄に落ちる。
「あれー? お兄ちゃん、死んじゃった? でも、大丈夫だよ。シェイリーのMP回復したから!」
シェイリーの足元が光る。ぼろぼろだった小森の臓器は修復され、砕けた骨は再結合され完全に元に戻った。
「あいす。あいす。あいすくりーむ!」
クラクション。一際大きい巨体。空気が振動する。トラックが小森に迫った。
シェイリーの足元が光る。ぼろぼろだった小森の臓器は修復され、砕けた骨は再結合され完全に元に戻った。
「もう嫌だ。俺、何回殺されるんだよ。もう、嫌だ!!」
「あいす。あいす。あいすくりーむ!」
小森の悪夢は、まだ始まったばかりだった。
~終~
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます