ようかい日和
四津谷案山子
第一部
第一部 プロローグ
第一部 プロローグ
地面に腰を下ろし、息を切らせながら俺は空を仰いだ。吸った空気は冷たく、空は突き抜けるように、ただただ青い。
「なぁおい、刀の。……今、何時だ?」
俺の隣で、しかし疲れを見せることない素振りでポケットから煙草を取り出し、その鬼は一服し始めた。
「ああ? ……時計見ろよ」
「さっきの戦いで千切れたみたいでな。どっか行っちまった」
「あー、待て……って、あぁくっそ!」
俺は自分を支えていた左手を地面から引き剥がし、時間を確認するや毒づいた。
「もう始まってんじゃあねえか」
「だろうな……ま、気長に待ってりゃ、またやることもあんだろ」
鬼は苦笑しながらそう言って、ふぅと紫煙を吐く。
「……なぁおい、刀の」
「今度は何だよ? 言っておくが、あんたの部下になるって話なら断るぞ。散々言っているけど」
「どうせ今回の一件で仕事もなくなっちまったんだろ?」
「うっせーよ」
俺は整いつつある息を吐き、鬼を見上げる。
「悪いが俺はもう、誰にも柄を握らせるつもりはない」
「もう……ね。お前の過去に何があったか知らねえし、興味もちょいとしかねえが、別に悪いようにはしないぞ?」
鬼は煙草の吸殻を地面に放る。
「戦争が終わって20年足らず。この国は、他国の人間を招いてオリンピックなぞ開くくらいの余裕が出てきた。だが、未だこういった連中もいる。襲い食らう以外に、人間から土地を守る手段を知らない馬鹿共がな」
吸殻は俺が斬り捨てた連中が流した血溜まりへと飛び、ジュッと音を立てた。
「人間はこの先、地方に残っていた山や森も切り拓いていく。こういった連中も増えていくだろう……だから線引きと融和、二つを同時にやんなきゃなんねぇ。その為にも……」
「そういうのだよ。俺が嫌なのは」
俺は鬼の演説を遮るように言葉を挟んだ。
「あんたのことは知ってるし、その理想も悪いものじゃないって思ってる。だけど俺はもう、他人の主義思想を傘に刀を振るいたくない。それだけなんだ」
そう言って俺は、背後の惨状を見た。身を守る為とはいえ、いや、それだけでこの様だ。俺とこの鬼で、この数日の間に一体どれだけの妖怪を殺したか。
なるほどねぇ。と鬼は頭を掻き、何か考えるように空を仰ぐ。まだ諦めないつもりか、俺はうんざりした気持ちで肩を落とした。
「お前、この町をどう思う?」
「……別に嫌いじゃあない。今回の共闘だって、俺自身の生活を守りたいが為……こいつらと同じだ」
「その町、ここいらを仕切っているのが俺だってことを差し引いてもか?」
「まあな」
ならよ。と鬼は意を得たりと、にやっと笑う。
「妖刀村正、俺のダチにならねえか?」
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