バレンタイン2017―3話:欲しくて、欲しくて、わたしは奪う。


 バレンタイン当日。予想通り、わたしは先輩と一緒に過ごすことはできない。先輩が1番大切な人は彼女だと分かっていた。先輩はわたしの1番ではない。1番になることはできない。わたしは布団に包まりながらSNSを閲覧する。指で軽くスクロールしていく。

 

 『今日はチョコを貰った!』


 『おお!彼女からチョコ貰ったぜ!手作りだ!やったぜ!!!』


 『頑張ってチョコレート作ったよ!勇気出して先輩に出してきます!』


 世間はバレンタインデー真最中のようだ。

 わたしはため息を吐いてから布団に深く潜り込む。寒い。わたしを温めて欲しい。わたしを愛して欲しい。―――欲しい。欲しい。欲しい。

 わたしの欲望が止まらない。いますぐ会いたい。―――会いに行こう。

 布団を引き離し、ベッドから降りる。クローゼットを開けて、服を選ぶ。どんな服の組み合わせにしようかと鏡を覗いて、ふと気づいた。鏡の奥に映る窓に、真っ白な雪が降っていた。そこでなんとなく、白い服を選んだ。雪のように白い服。

 

 先輩、今すぐに会いに行きます。

 

 先輩が欲しくてたまらないから。

 

 いますぐ、先輩の奪いたい。


 どんなことになっても、わたしは先輩と一緒にいます。



「ハル君、チョコレートだよ」

「うん、ありがと」

「今年は手作りだよ!」

「おお」


 今年は手作りのチョコレートを渡した。去年は市販のチョコレートを渡したのだが、反応が薄かったような気がしたので、今年は気合を入れて手作りにしてみた。

 しかし、去年と反応が変わらない。むしろ、今年の反応の方が薄い気もする。


「ねえ、ユキ」

「なあに?」

「・・・」


 ハル君は俯いたまま、何も言わない。しばらく待ってみても、一向に口を開かずに俯いたままだ。


「どーしたの?」

「あのさ・・・」


 ハル君は何を躊躇っているのだろうか。思い切って、わたしはハル君に迫った。ハル君は身を引く。わたしは迫る。ハル君は身を引く。繰り返していくうちに壁まで到達した。これでもう、ハル君は逃げられない。


「いいたいことがあるなら、言ってよ」


 じっと目を見つめると、ハル君は目を逸らした。

 

 かわいい。


「―――んっ」


 わたしはハル君にキスをした。ハル君は抵抗せずに、わたしを受け入れる。


「ユキ・・・」


 ああ、ハル君の吐息がくすぐったい。

 わたしは上着を脱ぎ捨てる。そして、ハル君の手をわたしの胸に引き寄せる。わたしがキスをすると、ハル君は返答の代わりにわたしの胸を擦り始める。

 いつの間にか、ハル君がわたしに圧し掛かっていた。ハル君が積極的にキスを始める。わたしも応えて、舌を出す。

 ハル君の手はゆっくりと下へ降りていく。ゆっくりとハル君の手が近づくのを感じて、胸の鼓動が高鳴って、体が熱くなっていく。何回もこんなことをしているのに、未だに慣れない。それが逆に高揚感を生み出している。

 突然、ハル君の手が止まった。


「・・・どうしたの?」


 ハル君は何も言わずに、人差し指を口元に着ける。

 わたしはハル君の言う通りに、口を堅く閉じて、聞き耳を立てた。すると、部屋の扉の奥深くから、ストン、ストン、ストン・・・と足音が聞こえて来た。


 ―――誰かが来る!


 わたしは急いで、脱ぎ捨ててあった服を着る。


「・・・おかしい」


 突然、ハル君はそんなことを呟いた。


「おかしいって何が?」

「今日は誰も家にいないんだ」


 そういえばと、ハル君に言われてわたしも思った。そもそも、ハル君といちゃつくために、ハル君の両親がいないことを聞いてハル君の家に来たのだ。そうなると、この足音は・・・。


「やだ、怖いよ」


 わたしはハル君の後ろに隠れる。


「とりあえず、静かにしておこう」


 ハル君の意見に同意して、首を縦に振る。

 足音は近づいてくる。しばらくすると、足音は止まった。

 わたしは怖くなって、ハル君の手を握った。ハル君はそれを強く握り返してくれた。


 コン、コン。


 乾いた音が、静寂を破った。

 

 コン、コン。


 わたしはハル君の手を一層強く握りしめた。

 

『ねえ』


 扉の奥からくぐもった声が聞こえて来た。音が高い、女の人の声だ。

 緊張が一気に高まる。



『―――先輩、来ちゃった』









 

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