第6話 白と出会った日

つまらない日常に光ができた、一時間というとても短い時間ではあるが、彼女は、その一時間をとても楽しんでいた、見張りも訓練相手もいない事が、ただただ嬉しかった。

広い空を見上げて過ごすだけで辛いことも忘れられた、だがそれも時間が経てば飽きてしまう、彼女の願いは誰かと遊びたい、と強く願うようになっていった。

そんなある日、彼女は訓練所の横で同い年くらいの少年を見つけた。

ちょうど今は休みの一時間だ、見張りがいない、つまり、私を阻むものはいない、彼女は嬉嬉として少年に近づいた。

「ねぇ」

「え、どうしたの?」

少年は少し驚いたものの、彼女の問いかけに応える。

「私とお話ししてよ」

「うん、いいよ僕の名前は白、よろしくね...えっと」

「桜、私の名前は桜、よろしくね白くん」

「うん、よろしく桜ちゃん」

彼女はあまり人と話していないせいか、いい言葉が思いつかなかった。

だが、それにすぐ返事をくれたのが嬉しかった、心の中で珍しくはしゃいでいた。


その日の一時間は、好きな物や苦手な物の話をした、一時間なんてあっという間に終わってしまった。

まだお話しがしたい、でも、父様が絶対にダメだ、と言うのは目に見えている。

それに探しに来た人が白に攻撃を加える可能性がある、今日はもうダメだ。

「ねぇ白くん、また明日この時間にお話ししようよ」

「うん、またお話ししようね桜ちゃん!」

そう言うと桜と白は別れた。

明日も彼と会って話せる、桜は明日が楽しみだった、眠る手前で何を話そうか、何をしようか、そんな事を考えている内に桜はいつの間にか眠りについていた。


陽の光が少し開いたカーテンから差し掛かる、朝だ。

朝飯を食べていると、何か嫌な気配を感じた。

殺気とは違う何かの気配。

その気配の方向を見ると、若い訓練官の格好をした男が朝食を食べ終わるのを待っていたようだ。

「今日から桜お嬢様の訓練官になりました、アドラ・バラムと申します、お嬢様のお父上から全ての訓練を指南せよと命令されました、よろしくお願いします」

単なる自己紹介と訓練の内容を言いに来ただけだったようだ。

毎日同じで面倒な事ばかり教えられる。

訓練官が変わっても根本的なものが変わっていない。

考えている事を悟られるなだの、拷問、洗脳の訓練だのもう聞きたくない。

でも、その次がある。

初めての友達、白とのお話の約束。

時間までワクワクが抑えきれない、あと少しで退屈な訓練が終わる。

少しするとピピッっと自分でセットしたタイマーの音が響く。

「あ、時間になったので自由時間をいただきます」

「お待ち下さい桜お嬢様、一つお聞きしたいのですが...私が何の授業をしていたかお覚えですか?」

「いつもと同じで、本心から出る表情を悟られないようにする訓練ですが...それが何か?」

質問の意図がわからない、早く行かないと時間が勿体無い。

では、と訓練官に背を向け部屋から立ち去ろうとした、その時だった、首筋に痛みを感じたと同時に、力が抜け膝から崩れ落ちた。

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努力家に惚れた天才 水道水 @huri-mu

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