スティーヴン・ウィット『誰が音楽をタダにした? 巨大産業をぶっ潰した男たち』(早川書房)

 ほんの少しだけ昔の話。


 今のお子様たちには信じられないかもしれないけど、なんと音楽は商品として売られており、人々がそれを聴くためには3000円もお金を払わなければいけませんでした──。


・・・・・・なーんて昔話が語られるようになる時代もすぐそこ!


 でも待って。

 マンガや映画、それに小説なんかはお金を払って楽しむコンテンツとしてのビジネスがまだギリギリ(本当にギリギリね)成り立っているのに、どうして音楽だけは崩壊しちゃったの???


 そんな読者と(そして何よりも作者が抱いた)素朴な疑問に、鮮やかな手法で答えるのが本作。



 答えを握る鍵は三人の男。


 一人は、音楽のデータ容量を画期的な方法で圧縮し、棚いっぱいのCDライブラリを片手に収めることに成功したドイツの技術者、"mp3の生みの親" ことカールハインツ・ブランデンブルク。


 一人は、音楽業界の頂点に君臨し、ビルボードトップチャートに連なるタイトルのほとんどを手中に収めることに成功した伝説的な経営者ダグ・モリス。


 そしてもう一人が、アメリカの片田舎で狭いトレーラーハウスに住んでCDプレス工場に勤務するフリーター、ベニー・ライデル・グローバー。


 この一見ばらばらな男たちの物語を交互に追いながら進んでいくと、やがて彼らの物語は段々と近づいていき、交錯し、やがて1点に収束していきます。


 そう、それこそが「音楽がタダになった瞬間」。この本の主題が登場するときです!


 ドキュメンタリーのお手本のような構成ながら、まるでフィクションドラマのようにスピーディに物語が展開していく内容に読み始めた手は止まらず、結局1日もかからずに読み終えてしまいました。

 それほどまでに読みやすく、興味深く、そして学ぶことの多いこの一冊。


 音楽やコンテンツビジネスに興味がなくても、一冊の「スリリングで読みやすい現代ドラマ」だと思って読むことができるかと思います!


 とてもオススメですよ! (特にコンテンツビジネス従事者!)



 個人的に心に残ったのは「違法アップロードされた音楽は世界中の様々な人々が少しずつアップした結果、莫大な量のライブラリとなってネットに上がっているのか? 答えはNO! そのほとんどの流出元は、ごく限られた人々の手によるものだった」という下り。


 でも世の中って結局、大体そういうものですよね。

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