第8話 エアズロックの戦い

「リリム提督。第5魔法艦隊は東方の浮遊石地帯エアズロックに布陣完了との報告です。巡洋艦1、駆逐艦3とのこと。先行している偵察駆逐艦からの報告です」

「なるほどね。敵も考えたようですね」

 そう副官のマネージャー女史が答える。彼女は身の回りの世話とスケジュール調整をしてくれる人だ。リリムが芸能界に入った時からの担当で信頼している人間だ。さらにリリム・アスターシャが乗る旗艦フォルテシモの艦長はリリムが最も信頼している軍人であり、あとの乗組員は戦い経験が豊富な傭兵や国軍の軍人を採用している。

「タウンゼット大佐。エアズロック周辺のことは知ってます?」

 リリムに尋ねられた初老の軍人は、第4魔法艦隊の旗艦艦長として請われて、艦隊の参謀としてもこのアイドル公女のサポートをしている。彼自身が彼女のファンであることが志願理由であり、パンティオン・ジャッジで勝てば、空獣との死闘があることも見越しての参加だ。本気でこの崇拝する歌姫を英雄にしたいと考えていた。

「提督閣下、エアズロックは大小数万の浮遊石が密集している場所で、通常、飛空船は近づきません。風の具合で浮遊石がどのように動くか予想できず、浮遊石にぶつかる恐れがあります」

「そんなところに潜んでいるの?」

 リリムは呆れてそう言った。本来なら、堂々と広い空で派手な主砲の撃ち合いをしたいのに、火力不足の第5魔法艦隊は岩に隠れて穴熊のように出てこないのだ。まあ、それしか勝つ方法が見いだせないということは、戦いの素人であるリリムにも理解はできた。

「戦力はこちらの方が圧倒的。突入して殲滅するだけよ」

「ダメです。提督。浮遊石が邪魔で敵がどこにいるかレーダーでは分かりません。不用意に突入すれば、奇襲を受ける可能性があります」

 そう大佐はリリムに進言する。敵の狙いはこの旗艦フォルテシモだろう。起死回生の攻撃で旗艦を破壊すれば、勝利することも可能だ。この密集した浮遊石に隠れて近づき、主砲の直撃を受ければ危ない。

 敵は巡洋艦クラスではあるが、戦列艦並みの主砲を装備したという。それに、全長300mを超す戦列艦では、岩に衝突する可能性があり、縦横無尽に動くこともできなかった。回避運動が限られるのである。

「では、どうすればいいの? 高いお金を払っているのですから、プロの技を見せもらいたいです」

 タウンゼット少佐は、パネルに映った第4魔法艦隊と浮遊石地帯に身を隠している第5魔法艦隊のおよその位置をポインタで差し、作戦案を説明した。

「突入するのは、軽巡洋艦、護衛駆逐艦の6隻です。これを分艦隊とします。指揮官は軽巡洋艦アンダンテ艦長のバッジョ少佐に任せましょう。敵を発見後、分艦隊は機雷を散布し、敵艦進入路を限定し、敵艦隊を追い立てます」

「どこへ追い立てるの?」

「浮遊石地帯上空です。上空9千パイルで浮遊石帯は終わっていますので、

 我々、戦列艦を含む大火力の船で敵の頭を抑えるのです」

「なるほど、見事な作戦だね」

 リリムは感心すると、すぐその作戦案を実行するように命じた。敵である第5魔法艦隊の戦力はこちらの半分以下である。隠れている鎧をはがして目の前に出てこさせれば、全く問題なく撃破できるはずだ。

                  *

「敵、二手に別れて、一方は浮遊石地帯に侵入してきますううう。侵入中の艦艇、6隻。軽巡洋艦1隻、駆逐艦5隻ですうううう」

 そう索敵担当のプリムちゃんが告げる。

「旦那、旦那の予想通りだにゃ」

 トラ吉は艦長席に座っている平四郎の横に立っている。平四郎の横には第5魔法艦隊のフィンが座っており、その左側に副官のミート少尉が立っている。第4魔法艦隊の行動は平四郎の予想した通りの行動である。

「フィンちゃん、侵入してきた敵の戦力はこちらを若干上回っているけど、魔力ではこちらが上だ。やれるよね?」

「は、はい」

 魔法艦隊どうしの戦いは、艦の性能が大事ではあるが、実は操る提督なり、艦長の魔力でその差は逆転できることもある。例えるなら同じ威力のファイヤー系の攻撃魔法でも、魔力が多ければ連射も聞くし、長く撃てる。魔力が枯渇すれば、攻撃もできない。今回のように数は相手が倍でも、魔力がそれ以上であれば挽回はできないことはなかった。

 平四郎は先攻させ、岩の隅に隠れていた高速駆逐艦をフィンに操らせ、敵艦隊に悟られぬよう、魔法で位置を特定させぬようにして敵艦隊の後方に待機させていた。

 敵の後方に魔法機雷をばらまく。これはファイヤーボムの魔法で、触れたら大爆発を引き起こす厄介な機雷だ。同じく、他の2隻にも上空方面への出口と進行方向の出口も機雷で防ぎ、下方向のみルートを残した。隠密行動していた3隻を戻すと、浮遊石地帯の中心にある広いエリアの上空から、侵入してきた敵の分艦隊に一斉に砲撃を仕掛ける準備に移る。

「レーヴァテイン主砲を準備、下方の9時から3時の方向へ移動しつつある敵艦隊を撃つ。主砲魔力エネルギー充填。魔力を変化……。タイプ「風系」エアカッターを発動」

 攻撃担当のナセルが状況を確認する。

「防御長、魔法シールドはどうか?」

 副官のミート少尉が、パリムちゃんに確認する。

「シールドレベル3、4、5……上がりつつあるでおじゃる」

「フゼストゃん、主砲副砲の3連射後、高速駆逐艦は敵艦隊に突入。ゼロ距離魚雷攻撃で、撃ち落とすします。指揮をお願いします」

「了解です」

 フィンは目の前の魔法による3次元モニターで、平四郎の作戦案をシュミレーションしている。うまくいけば、平四郎の作戦通りになるだろうと確信していた。

「敵艦隊、まもなく予定空間に侵入」

 感知の魔法で敵艦隊の距離を計算したミート少尉は、前方を指差した。浮遊石の間から、敵艦隊が1列になって進んでくるのが見えた。こちらのアンチ魔法シールドがまだ効いていて、敵はまったく気づいていない。視覚的にも岩の影に隠れていて見つけることができていないのだ。

「主砲、副砲とも準備OK.です。エアカッターレベル10いつでも撃てます」

「よし、レーヴェテイン、出撃。岩から出ると同時に攻撃をする。合図は提督が」

 そう平四郎はフィンに言った。コクりとうなずくフィン。二人だけにしか分からない合図だ。この戦闘が彼らの長い長いウェディングロードにつながるのだ。

 高速巡洋艦レーヴァテインと護衛の駆逐艦が一斉に岩から飛び出した。第4魔法艦隊分艦隊の左側面である。

「主砲、副砲……てーっつ!」

 フィンが提督の指揮棒を前方に指した。ナセルがボタンを押す。主砲から青い光球が発射され、それが渦を巻くように高速で軽巡洋艦アンダンテに直撃する。

「艦長! 敵です! 直撃が来ます!」

「ど、どこからだ?」

 第4魔法艦隊の分艦隊の指揮を任せられたバッジョ少佐は、敵の姿が発見できないことにイラついていたが、そのイラつきもすぐに解消された。レーヴァテインから放たれたエアカッターが前方の駆逐艦の魔法防御壁を破り、艦橋に直撃したのだ。

 エアカッターは船体を鋭く切り裂き、破壊するため、着弾したところの機能が破壊される。4発命中したところは、艦橋司令部と主砲、そして、艦を浮遊させる中枢部分であった。やがて、切り裂かれたところから、火災がおき、徐々に下降していく。

「こそこそと隠れて攻撃してきやがって!」

 バッジョ少佐はそう悪態をつく。敵は攻撃を受けないように分厚い浮遊石の後ろに隠れて攻撃してくる。駆逐艦は安い魔法魚雷をこちらの行動範囲いっぱいエリアを想定して放つので回避ができない。さらに敵の主力艦である高速巡洋艦は戦列艦クラスの45ゼスト魔弾砲を1門持っている。これが驚異であった。魔法弾レベル10まで撃てるからだ。

 しかも、炎属性の『ファイアエクスプロージョン』が来たかと思うと氷属性の「コールドバレット」が来るという攻撃で効果的なシールドが張れないのだ。

(あれがフィン公女のマルチ能力か……。厄介だ)

 公女が乗っているから魔力も豊富で強力な攻撃を連発することができることも不利である。だが、公女とて魔力が無限大にあるわけではない。これだけ連発すればいずれ底をつくはずだ。

「敵の攻撃は強力だが、所詮は巡洋艦。シールドは弱いはずだ。敵旗艦に集中攻撃を浴びせろ!」

 バッジョ少佐は残った艦艇にそう命令する。だが、撃った砲撃は虚しくもレーヴァテインのシールドの前にはじかれる。同時に第5魔法艦隊の反撃。2隻の駆逐艦が第5魔法艦隊の駆逐艦から放たれた空中魚雷を受けて大破する。アンダンテも最初の砲撃で2発が被弾した。幸い、致命傷ではなく、反撃の主砲を放つが浮遊石に隠れて命中しない。さらに駆逐艦1隻が至近距離から空中魚雷の直撃を受けて、コントロール不能で下へ落ちていく。


「馬鹿な……強すぎる」

「バッジョの奴、苦戦しすぎだ」

 タウンゼット大佐は苦虫を噛み潰した表情で戦況を見守った。当初の予定では交戦状態に入ったところで、数で圧倒し敵を上空に追い立てるはずであった。だが、先手を取られて思わぬ被害を受けている。浮遊石が多数あり、航行に気を使うためにお互いに大胆な艦隊運動ができないとタカをくくっていたが、第5魔法艦隊の方がたくみに艦を操り、岩を盾に攻撃を繰り返している。そのために被害が増している。

 これは平四郎がレーヴァテインに装備したセンサーとカレラ中尉の巧みな操縦によるものと、3隻の駆逐艦を操るフィンの手柄である。

「大佐、このままでは分艦隊が全滅するよ。敵の位置は分からないの?」

「浮遊石が多数で魔力レーダーではとらえられません」

「目視して長距離攻撃を上空から行ったらどうなの?」

「敵の位置が分からないのです」

 タウンゼットはリリムの意見を無視した。所詮はお飾りの提督である。リリムには艦隊の象徴としていてくれれば十分だとタウンゼットは思っていた。それだけに、自分がこの状況を打破してやることが、大好きなアイドルへの贈り物だと思っている。だが、岩に隠れて攻撃を繰り返す第5魔法艦隊の動きに翻弄されて、分艦隊は壊滅しつつあるし、上空に待機する本艦隊はなす術がない。上空から浮遊石地帯に突入するにも、第5魔法艦隊が設置した機雷群が邪魔ですぐには動けないのだ。

「大佐。敵の位置が分かればいいの?」

 リリムがそうにっこり笑って尋ねるので、タウンゼットは(はい)と答えた。すると、リリムは浮遊石地帯に音感センサーを放つように命じた。そして、席を移動するとイヤホンを付けてセンサーが感じ取る音を聞く体制に入った。

「提督、一体なにを……」

「しーっ。静かに。上空の本艦隊は一切音を立てないように……」

 リリムがそう命ずる。下の空間で分艦隊と第5魔法艦隊が交戦する音しかしない。時折、爆発して落ちていく分艦隊の船が音と目で確認できる。

「見つけた! まずは、駆逐艦から。W19 E31。全艦隊、一斉砲撃よ」

「提督、そこには浮遊石しかありません。かなり大きめの……」

「その後ろに隠れているのよ。主砲で岩ごと破壊するのよ!」

「わ、分かりました。全艦隊、目標に向けて照準」

 上空の第4魔法艦隊は下方に向けて照準を合わす。旗艦を含めて3隻の戦列艦と2隻の巡洋艦、2隻の駆逐艦がある。

「撃て!」

 主砲による魔法弾とミサイルが一点に向かう。それは周りの浮遊石を吹き飛ばしつつ、目標の岩を破壊し、その後ろに隠れていた駆逐艦を一瞬で撃破する。

 凄まじい音と振動でレーヴァテイン全体が揺れる。

「2番艦、撃沈されましたでおじゃる。上空の本艦隊からの砲撃でおじゃる」

「馬鹿な……なんでこちらの場所がわかるの?」

 ミート少尉が衝撃に体を何とか支えて叫ぶ。レーダーでは絶対分からないはずだ。デタラメに撃ってたまたま当たっただけとは考えられない。一点集中の集中砲火であったからだ。

「ありゃ、こっちの位置を見つける手段があるにゃ」

 トラ吉がそう平四郎に言った。平四郎もそう直感した。どういう仕掛けか分からないが、敵がこちらの位置を正確に掴み、上から一方的に攻撃してくることができるのだ。平四郎は艦長として判断を迫られる。

「ナセル、敵の分艦隊は?」

「まだ、軽巡洋艦と駆逐艦が2隻頑張ってるぜ」

 次の手を打つにしても目の前の敵艦を仕留めなければダメだ。平四郎は左にいるフィンに顔を向けた。

「フィンちゃん、魔力は大丈夫?」

「まだ大丈夫です。でも、駆逐艦の移動はどうしたらいいのでしょう」

「とりあえず、岩の後ろに隠れたまま動かさないで。もしかしたら、動く音で判断しているかもしれないから。分艦隊はレーヴァテインでしとめよう」

 平四郎の作戦案にミート少尉は感心してうなずく。上空の攻撃は駆逐艦なら一撃で破壊されるおそれがあるが、レーヴェテインなら1、2回は耐えられるだろう。大きな浮遊石を盾にしているのだ。それに正面の主力艦は軽巡洋艦でこのレーヴァテインよりも火力の面では劣る。正面から戦っても充分勝てるであろう。

「艦長、それが正解。上空の敵はこちらの攻撃で位置を掴んでいると思う。レーヴァテインなら長距離攻撃は数度は耐えられる。パリムちゃん、シールドは十分?」

「十分でおじゃる、ミート少尉」

「艦長、フィン提督、守備体制は十分です」

「了解、ミート少尉。それじゃあ、よし、ナセル、軽巡にフレイムバレットレベル10で仕留めよう」

 そう平四郎は命令した。自分が改造してパワーアップした45ゼスト魔弾砲が敵の船に標準を合わせる。

「了解! これでシールドは終わりだ!」

 ナセルが攻撃ボタンを押す。新しく装備した45ゼスト魔弾砲が火を吹く。レーヴァテインは戦列艦より火力が劣る巡洋艦だが1門だけ戦列艦並みの主砲を装備しているのだ。放たれたフレイムバレットは軽巡洋艦アンダンテのシールドを破り、艦本体に直撃する。炎が燃え広がり、あっという間に2つに折れて爆発した。

 乗組員はかろうじて脱出ポッドで逃れたようだ。

 だが、こちらにも衝撃が伝わる。レーヴァテインが大きく揺れる。すぐ近くに待機していた護衛駆逐艦が浮遊石ごと爆発炎上したのだ。上空からの攻撃だ。

(やっぱり、敵はこちらの位置が分かるようだ)

「ナセル、全砲門開け、フゼストゃん、3番艦も岩から出て交戦。魔法魚雷を射出。一気に敵の駆逐艦を沈める」

「了解だよ~ん」

「わかりました。やってみます」

「フレイムバレットレベル10、撃て!」

 火力の違いは歴然である。巡洋艦の前では駆逐艦は歯が立たない。しかも、スピードを生かしてちょこまか動けば勝機もあるが、浮遊石と機雷に囲まれたせまい回廊での対峙だ。

 パワーゲームに持ち込めば、レーヴァテインの勝ちは動かないだろう。


 艦橋で戦況を観察していたラピス記者は、レーヴァテインの乗組員を最初は見くびって、人材不足が最大の弱点などと記事を書送ったことを恥じた。全乗組員が素晴らしい働きをしているのだ。

 まずは操舵手のカレラ中尉。唯一の現役軍人だから、マシな方とは思っていたがラピスは所詮、軍に入ったばかりの新米操舵手という評価をしていた。だが、それは完全に否定しなかればならないだろう。この若い女性士官は、浮遊石が無数に浮かぶ危険地帯『エアズロック』において、全長165パイルの巡洋艦を岩に船体をぶつけないで巧みに操っているのだ。

 さらに攻撃担当のナセル少尉。彼は士官学校の学生で訓練不足の見習い士官なのに、とんでもない射撃の腕であった。レベル10という高度な魔法砲撃を正確なねらいで敵艦隊に次々とヒットさせている。普段はただ女好きのチャラい男だと思っていたが、その実力は侮れない。

 通信担当のプリム&防御担当のパリムもてきぱきと仕事をこなしており、その正確な仕事が現在の戦況を好転させているのは明らかだ。

(それに……フィン公女の特殊能力マルチも意外と効果が高い)

 マルチとはいろんな属性攻撃を自由にできるの能力である。フィンは雷撃系、火炎系、氷結系の魔法を巧みに切り替え、魔法弾として攻撃するので、敵艦はシールド効果が充分得られず、次々と被弾している。そしてなにより、異世界の少年が改造した主砲の45ゼスト魔弾砲が効いている。これは第4魔法艦隊も事前には情報を得ていただろうが、予想以上の効果に戸惑っていることだろう。

(これは意外と善戦するかも……)

 正面の分艦隊が成すすべもなくレーヴァテインの前に沈められていくのをシートに座って見ていたラピスはそう思った時、凄まじい光と衝撃にラピスは椅子にしがみついた。レーヴァテインが盾にしていた真上の浮遊石が破壊されたのだ。

 激しく揺れるレーヴァテイン。それでもコントロールを失わなかったのは操舵手のカレラ中尉の腕によるところが大きい。

「どうしたの!」

 ミート少尉がプリムちゃんに確認する。

「上からですううう」

「空獣シールドの効果でかろうじてダメージをまぬがれましたが、次はやばいでおじゃる」

「旦那、どういうわけか、上の艦隊はこっちの居場所が確実にわかるみたいだにゃ」

 トラ吉がそう平四郎に告げる。これだけピンポイントで攻撃してくるのだ。トラ吉が言わなくても誰もがそう思った。

「これだけ浮遊石があったらレーダーなんて役に立たないはず。だとすると、デタラメに撃って当たったか、それとも、こちらの場所を何か違う手段で把握できるのか?」

 ミート少尉はそう言いながら思わず耳をすます。もしかしたら、音ではないかと思ったのだ。静かにしていると爆発音と風で岩がぶつかる音。そしてレーヴァテインのエアマグナムエンジンの音が耳に入ってくる。

「音か……」

 平四郎もミート少尉と同じことを考えた。視覚やレーダーが遮られれば、次に頼るのは「音」である。それにしても、もし、音で判断できるのだったら、相当な聴力の持ち主だろう。

「上から高エネルギー接近ですうううう」

 レーダーで監視をしていたプリムちゃんが叫ぶ。上空の第4魔法艦隊による砲撃だ。今度はレーヴァテインを直接狙ってきた。

(まずい……)

 平四郎がそう強く感じたとき、また、あの現象が起こった。傍らのフィンと赤い糸のような光でつながると強力な魔力が解放される。平四郎の黒い瞳が赤く変わる。

「旦那のコネクト発動だにゃ」

 トラ吉は平四郎のチート状態を見た。おそらく、魔力ゲージはいっぱいであろう。すさまじい、魔力エネルギーが平四郎とフィンを包むのが見える。

「さあ、激アツの時間だ。パリムちゃん、クリスタルシールド!」

 平四郎はそう命じた。クリスタルシールドは一般的な空中戦艦が使う魔力による防御方法である。シールドのレベルは魔力に左右されるが、今のレベルならかなりの魔力弾もはじきとばせるだろう。 パリムは平四郎の方を向いて笑顔で応える。

「はい、でおじゃる!」

 平四郎とフィンの魔力は999万となっていた。これは計測器で図るMAXの数字であったから、実際にはどれくらいの数値かは定かではない。999万の魔力でのクリスタルウォールなら強固な楯になる。上空からの集中砲火によってレーヴァテインが隠れていた巨岩は砕け散ったが、シールドのおかげで船体に傷一つつかない。

                 *

「うそ! 直撃だったはず!」

 第4魔法艦隊旗艦フォルテシモ内でリリムはそう驚きの叫びを上げた。通常では考えられない結果である。

「そんな馬鹿な! ありえない。普通では考えられない」

 経験豊富なフォルテシモの艦長、タウンゼット大佐はそう口に出し、同じ言葉を小さく繰り返した。長い経験からしてもあんな強固なシールドは見たことがなかった。こちらの攻撃は戦列艦と巡洋艦による主砲の集中砲火だ。下方であるので全砲門による砲撃ではなかったのだが、それでも長い軍隊経験では考えられない防御力だ。だが、魔力は消耗するものである。現在のようなチートな状態が高い魔力によって支えられているのなら、そんなに長続きはしないだろう。

 タウンゼット大佐はそう結論づけた。

「リリム提督、考えられないことですが一時的な魔力の増大によるシールドの強化でしょう。そう何度もできる芸当ではありません。攻撃を続けてあぶりだしましょう」

「そうね」

 リリムはそう言って、また音響センサーに耳を済ます。リリムには特殊な能力があった。それは魔力による絶対音感である。どんな小さな音でも聞き分けることのできる力だ。戦列艦の音感センサーと連動ことにより、敵艦のエンジン音を正確に捉えることができた。エンジンを止めても艦内で乗組員が歩く足音、話し声ですら感知できるのだ。それどころか、空中に浮かぶ浮遊石の欠片が船体に当たる音すら聞き分けることができるのだ。


(パチパチ……)

「あそこにいる! 残りの駆逐艦、美味しくいただくよ!」

 リリムは第5魔法艦隊の最期の駆逐艦の隠れている場所を発見した。平四郎が安く仕入れて見事に再生した高速駆逐艦だ。

「さ、3番艦撃沈……うそ、物音立てずに隠れていたのに」

「平四郎くん、どうしよう」

 ミート少尉とフィンが平四郎に不安げな視線を向ける。敵の分艦隊を全滅させたとはいえ、こちらも護衛駆逐艦を全て破壊されてしまった。浮遊石を縦にするゲリラ戦術を狙ったのに敵はこちらの位置を正確に掴んで集中砲火で岩ごと破壊する作戦に出てくるとは思わなかった。

 だが、平四郎は焦っていなかった。先程からレーヴァテインは回避運動をしつつ、浮遊石地帯を移動していた。カレラ中尉の巧みな操船技術のおかげである。

 第4魔法艦隊もレーヴァテインの動きに合わせて上空で動いているのが分かった。平四郎の狙い通りである。

「プリムちゃん、敵の位置は?」

「本艦の真上ですうううう……」

「ふふふ……。フィンちゃん、今からこちらのターンだよ」

「どうするのです?」

「トラ吉、やれ!」

「へい、旦那。ポッチとにゃ!」

 トラ吉が携帯ボタンを押す。それはこのエリアの浮遊石に取り付けられたミサイル推進エンジンの起動スイッチである。平四郎に命ぜられたトラ吉とルキアが作業員と共に岩に仕掛けていたのだ。埋め込まれたロケットエンジンが火を吹き、巨大な浮遊石を上空へと押し上げた。それだけではない。ロケットエンジンがついていない岩も鎖を打ち込み、連結させていたから、その数はエンジンの数100だけではなかった。1000近くの浮遊石が上空に待機する第4魔法艦隊に襲いかかったのだ。

「リ、リリム提督、下方から浮遊石が!」

 そう副官が告げると同時に第4魔法艦隊提督リリム・アスターシャが乗る旗艦フォルテシモが激しく揺れた。

 岩が次々と艦体に当たるのだ。当たるだけならまだしも、巨大な岩に衝突した巡洋艦は真っ二つに裂け、岩と岩に挟まれた護衛駆逐艦は爆発して粉々になっていく。

「駆逐艦ウイル・スミス、爆発炎上。巡洋艦メゾピアノ撃沈、戦列艦ガダニーニ、大破」

「こ、こんなことって!」

 次々と味方艦が破壊されていく報告が入る。艦橋から目に飛び込んで来くるのは味方艦が爆発して燃え落ちていく光景だ

「すぐさま、この空間から離脱しなさい!」

「無理です!移動しながら、交わすのは不可能です。魔法防御を固めてやり過ごすしかありません」

 リリムの命令にタウンゼット大佐は専門家としても意見を述べる。普通なら思わぬ展開でパニックになってしまうのだが、さすがにタウンゼットは歴戦の軍人であった。だが、提督であるリリムの方が予想以上に慌てていた。

「巨大な岩相手では、その魔法防御マジックシールドは役にたたないよ。離脱よ。避けきれない岩は砲撃で破壊しなさい!」

 リリムはそう叫ぶ。目の前で僚艦である戦列艦カンタービレに巨大な岩がぶつかり、なすすべもなく爆発したのを見て、半狂乱になる。

「提督の言う通りです。あんな岩が相手ではシールドが持ちません!」

 副官のマネージャー女史がタウンゼット大佐に言った。タウンゼット大佐は迷った。リリムの言うことも分かる。火力の強大な戦列艦なら、ぶつかる岩を破壊して安全地帯まで脱出できるかもしれない。だが、それは傷ついた僚艦や火力の劣る巡洋艦や駆逐艦を見捨てるということになる。

(さらに……この状況を作ったのが敵ならば、移動先には罠があるはず。だけど、敵艦隊は浮遊石群の中に身を潜めていて、分艦隊と戦闘をしたから、こちらに現れるとは思えない)

「やむを得ません。旗艦フォルテシモ及び残存艦隊は、P-1空域に急速移動。邪魔な岩は各自、最大の魔法攻撃で破壊して進路を確保します」

 タウンゼット大佐はそう全艦隊に命令する。

 だが、現実はこの経験豊富な軍人の予想を上回っていた。浮遊石の嵐を避け切った第4魔法艦隊に向かって、攻撃が行われる。まさに高速巡洋艦ならではの移動である。エアズロックの中にいたはずのレーヴァテインはそこから脱出して上空へ出て、第4魔法艦隊が集結するポイントに現れたのだ。

「魔法魚雷他数、それに魔法弾!」

「シールド全開!」

 タウンゼット大佐の命令が届くやいないや、凄まじい衝撃で彼もリリムも倒れこむ。ようやくこの空間に逃げ込んだ護衛の駆逐艦と巡洋艦が魚雷の直撃をくらって爆発炎上する。

「フォルテシモ、被弾!第1主砲、第3格納庫爆発炎上!」

「他の艦は?」

「この空間に逃げ込めたのは、駆逐艦レイ、軽巡洋艦マンダリンですが、直撃を受けて戦闘不能です」

「そんな……旗艦以外、ほぼ全滅なんて!」

「リリム提督、まだ、諦めるのは早いです」

「タウンゼット大佐?」

「してやられましたが、敵は巡洋艦1隻に過ぎません。こちらは被弾して小破したとはいえ、戦列艦です。火力はこちらが優っています」

 タウンゼット大佐のいうことも最もだった。不意を突かれて被弾したものの、第2撃目は魔法防御壁を展開したので、その攻撃を弾き飛ばした。現在は45ゼスト口径の二門の主砲が雷撃系の魔法弾を放ち、敵艦の接近を阻んでいる。

「敵はこちらの防御壁を破ろうと至近距離で攻撃してくるはずだ。落ち着いて狙えば、一撃で撃沈できるはず!」

「主砲の斉射準備できました!」

「ライオットレベル10、放て!」

 戦列艦フォルテシモに搭載されている主砲は45ゼスト魔弾砲4門である。さらに35ゼスト魔弾砲が副砲として3門装備されている。これに魔法ミサイルを10発放つ。この攻撃をかわせることは不可能だ。

 だが、タウンゼント大佐は信じられない結果になる。レーヴァテインは巧みな回避運動で数発はかわしたがさすがに避けきれず、被弾する。大爆発したかと思われたのに全てシールドで弾き飛ばしたのだ。

「うそだ! こんなことがあるわけがない」

 強力なシールドも然ることながら、敵艦レーヴァテインは先程、分艦隊と激しい交戦をしているのだ。いくらなんでも魔力が尽きるはずなのに、そんな気配もなく強力な攻撃をしてくるのだ。

(フィン公女の魔力は無限か? 馬鹿な。第5公女であるフィンがリリム様を上回るはずがない。となると……異世界のあの青年か!)

 タウンゼット大佐は思い出した。彼もあのパンティオン・ジャッジ前夜祭のパーティーで異世界から来た青年がヴィンセント伯爵を倒した出来事を一部始終見ていたのだ。


(ここまでは驚きの経過だわ。これはスクープだわ。だけど、まだ勝敗は分からない。敵旗艦フォルテシモは一級の戦列艦。火力はハンパないわ。こちらは巡洋艦に過ぎない。まともに戦っては勝てるわけがない)

 レーヴァテインに座乗しているメイフィア・タイムズ記者のラピスは、浮遊石の嵐で敵艦隊の戦力の90%を葬った第5魔法艦隊の戦略に驚きを覚えたが、まだ、勝ったわけではないことも理解していた。まだ、第5魔法艦隊は不利なのだ。

 現にレーヴァテインの放つ主砲の攻撃は、すべてフォルテシモのシールドに弾かれてしまっている。戦列艦に唯一効果がある45ゼスト魔弾砲もわずか1基であり、火力では劣る。フィンのマルチの能力があり、異なる魔法弾でフォルテシモのシールドを破ろうとしてもリリムが巧みにシールド属性を変更し、それに対応していた。そして、凄まじい威力の反撃をしてくる。

 フォルテシモの主砲から放たれる雷撃が直撃すれば、それで終わりなのである。

 だが、ラピスもありえない光景を目にする。直撃してダメだと思ったのにレーヴァテインのシールドは全てを弾き返したのだ。

(これがフィン提督の力? いや、異世界から来た勇者の力)

 ラピスは艦橋で指揮を取る平四郎の勇姿を見た。そして確信した。大半の予想を覆し、第5魔法艦隊が勝利することを。

 平四郎は待っていた。いくら平四郎やフィンの魔力が高くても触媒なるレーヴァテインの攻撃力が低くて、フォルテシモのシールドを破ることができない。破るのは距離を縮めて、威力を増すしかないのだが、敵の攻撃が激しすぎて近づくことは不可能であった。コネクトによる強力な魔力を使ってのシールドも完全ではない。

 これもレーヴァテインのスペックに阻まれて、完全防御とはいかないかもしれないのだ。一発でもまともに食らえば、戦闘不能になることは間違いない。

「なら、この作戦しかない!」

「旦那、あれを使うのかにゃ?」

 トラ吉が平四郎の命令を促す。平四郎はレーヴァテインをかすっていく雷撃の光弾を見ながら決断をする。

「ああ」

 平四郎は最期の賭けに出る。リメルダからもらい、自分がレーヴァテインに施した改造の成果をここで使うのだ。

「フィンちゃん、魔力の放出はいい?」

「はい。いつでもいいです」

「ナセル、あの魔法を発動する時には、攻撃に使う魔力エネルギーを全て防御に回す」

「了解」

「パリムちゃん、タイミングは一瞬だよ。ドンピシャで頼む」

「はいでおじゃる」

 レーヴァテインはフォルテシモの主砲をかわしつつ、主砲の能力が効果を現す距離まで近づいた。この距離ではレーヴァテインが展開する魔法シールドは消し飛び、カレラさんの巧みな操艦でかろうじてかわしていた。

 この距離はレーヴァテインにとっても危険だ。こちらの主砲が効果を出すことは、敵にとっても効果があるのだ。魔法防御が消し飛び、船体の右と第2副砲が吹き飛び、ダメージが蓄積していく。

「平四郎!これ以上、ダメージ食らうとやばいぜ!」

 ナセルが悲鳴を上げる。

 だが、平四郎は動じない。勝機をつかむために集中していた。後にこのエアズロック空戦をドキュメンタリータッチで描き、魔法王国メイフィアの優れたジャーナリストに送られるウルズ賞を見事にGETすることになるラピス・ラズリ記者は、この時の平四郎の姿を

「まるで獲物を待つグリフォンのような鋭い目をしていた」と書いた。

「ナセル、泣き言を言うな! 敵の魔法防御を破って、ダメージを与える。でないと、リリムちゃんはアレを使ってこない! ファイヤーボムを連射だ。攻撃魔法の力を集中して、敵艦に1発ぶち当てろ!」

「簡単にいうけど、1発でいいんだな? なら、やってやるぜ!」

 魔法の炎の玉がすさまじい勢いで連射され、戦列艦フォルテシモの魔法シールドにぶち当たる。大半を防いだものの、やはり距離が短いため威力は通常の5倍増しであり、そのシールドをくぐり抜けて、船体に1発が命中する。大型の戦列艦も激しく揺れて、それは戦いに慣れていないアイドルのリリム提督を震撼させるのに十分であった。

「タウンゼット大佐! このまま、押しても勝てるとは思うけど、敵も死に物狂いで攻撃してくるよ。まぐれ当たりでこちらが負ける場合も考えられるよ!」

「どうしますか、提督。何か、策があるのですか?」

 タウンゼット大佐はリリムが次に命令することを予想していてそう尋ねた。それは自分も考えてはいたが、使うことはある理由で躊躇していたのだ。

「アレを使います! この距離で使えば、絶対よけられない!」

(やはり、アレ……か)

 あれとは、レジェンド級の空獣と戦うために戦列艦クラスに装備された武器である。通称「デストリガー」と言うが、呼称は魔法艦隊ごとに違う。この第4魔法艦隊では、「ファイナルアリア」と呼んでいる。全魔力を一時的に集中させ、直径20mの長距離魔法弾を放つ。この距離なら、レーヴァテインは回避することは不可能であり、一瞬で戦いは終結する。

 だが、それは第5魔法艦隊の乗組員を全員葬ることになる。このパンティオン・ジャッジは戦闘ではあるが殺し合いではない。現に戦闘不能になれば白旗を掲げることで戦闘は終わる。デストリガーを撃つにしても、敵に警告すべきではないか。それにタウンゼット大佐には嫌な予感があった。それは長年、軍人としての経験から来るものであった。

「待ってください! リリム提督。撃つ前に敵に警告しましょう。それに何だか嫌な予感がします。デストリガーを撃たなくても持久戦に持ち込めばこのままでも勝てます」

「フィンの魔力が全然尽きないじゃない! 敵には何かあるよ。このままじゃ、リリムの魔力が底を尽きます!」

 確かに持久戦に持ち込んで勝てる保証はない。第5魔法艦隊は無限の魔力があるかのように撃ちまくっているのだから。

 現にレーヴァテインの主砲が魔法防御を突破し、またもや艦首右に被弾し、艦橋で艦を動かす士官たちは、激しく揺れて体のバランスを崩す状態を見て、このままではこの艦が破壊される可能性もあるとは思っていた。だから、嫌な予感だけでこのアイドル提督の判断を覆すまでのエネルギーをタウンゼット大佐は持っていなかった。

「このままでは、相討ちになってしまうよ。敵の狙いは案外、そこかもしれない。このリリム・アスターシャと相討てば、明日から有名人よ!そうはさせない。大佐、ファイナルアリアの準備を命令しなさい」

「分かりました。ファイナルアリア、発射準備」

 そう提督の命令がなされたので、タウンゼット大佐は引き下がるしかなかった。デストリガーを発動する際にはすべての魔力が費やされるため、一時的に攻撃力が0になる。そこを攻撃されるとまずいので、魔法障壁をあらかじめ張っておき、さらに遅滞魔法を発動して2重、3重に障壁を発動させる。3重もあれば、巡洋艦の主砲の直撃は1、2回は防げるはずだ。すぐさま、その準備に取り掛かる。

 第4魔法艦隊旗艦フォルテシモがデストリガーを放つために変形を始めた。艦の底が大きく開き、巨大な砲身が出てくる。

「魔力エネルギー、フルチャージ……。魔力を雷撃に変換。最大の雷撃をお見舞いできます」

「これで、最後よ! ここで沈みなさい! 第五魔法艦隊! お兄ちゃん! ファイナルアリア、撃て!」

 一瞬、凄まじい光が放たれ、遅れてピシュ……ドドドオオオオオオッツ!とつんざくような音が続く。直径20パイルもの雷撃弾が光の帯になって放たれる。

「敵艦、デストリガー発動しましたですううう! 逃げ切れませんんん!」

 プリムちゃんが悲鳴を上げる。

「そ、そんな……警告なしで!」

 ミート少尉が立ち上がる。目の前に強烈な光を放つ雷撃弾がスパイラル螺旋を描いて向かってくる。その強大さに誰もが立ち尽くすしかない。

 再び、平四郎とフィンの胸から伸びた赤い糸が絡み合う。それがより太くなり、光を放つ。平四郎の赤くなった瞳が金色になり、別人のように落ち着いた表情になる。

「さあ、激アツの時間だ!」

「はいです」

 フィンはうなずいて目の前の光球を両手で覆う。光が赤からオレンジ、黄色へと変わる。

「いくよ、フィンちゃん! カウンター魔法、リフレクト発動!」

 平四郎の命令と同時にパリムちゃんが、魔力を変換し、魔法に変えるレバーを思いっきり引いた。雷撃弾に艦が押し包まれようとした瞬間、七色のクリスタルがレーヴァテインを包み込んだ。そして、雷撃弾は当たった瞬間反発し、方向を変えたではないか。

 そう。魔法攻撃をそっくり跳ね返す魔法。

「リフレクト」の発動である。これはリメルダがプレゼントしてくれた「リフレクト・コーティング」の効果である。これを塗布する作業は難しく、しかも時間がかかるのだが平四郎はこれをやりとげたのだ。少しでもコーティングしていない箇所があれば、魔法は成立せず、攻撃をまとも受けてしまう。

 だが、平四郎はコーティン剤を薄めて洗浄用のカプセルドックにそれを満たしてレーヴァテインをそれに浸すという大胆な方法でコーティングをしたのだ。薄まった分の効力は「コネクト」による魔力で補うので問題はなかった。

 無論、このリフレクト・コーティングにより発動する「リフレクト」の魔法は使いどころの難しいもので、このパンティオン・ジャッジでも空獣退治の戦いでも過去に使われたことはなかった。まず、タイミングが難しい。警戒されては使えないので、その戦いで使えるのは一度きりである。だから、敵の最大の攻撃に使わないと効果が薄い。

 そして、発動中はすべての動きが停止する。はね返せるのは1艦の攻撃だけであるから、艦隊戦の乱戦で使えば、他艦からの攻撃に無防備になる。さらに魔力の供給が不十分なら、はね返すどころか、シールドにもならずに直撃される。

 だが、平四郎とフィンの魔力供給はチートであった。何しろ、魔力は999万の数字を示している。これは計測不能の最大値である。これによってリバースの魔法を使えるものにした。そしてドンピシャのタイミングと敵艦の最大の攻撃デストリガーに対する発動だ。これほど、効果的な場面があろうか……。


 ラピスは、取材記者としてこのレーヴァテインに座乗した自分の感のよさとアドバイスをしてくれたハウザー教授に感謝した。あのエロおやじにパンツをくれてやったことは無駄ではなかった。最大攻撃のファイナルアリアを自ら浴びたフォルテシモは爆発炎上して地上へと落ちていく。艦橋の脱出カプセルが、絶対魔法防御の発動で守られフォルテシモから離脱していくのが見えた。

 リリム提督の命こそは助かったが、第4魔法艦隊の被害は甚大で破壊された艦艇はおそらく90%以上であろう。

(パンティオン・ジャッジ始まって以来の大敗北だわ)

 ラピスはすぐさま、会社宛に魔法メールを送信する。



 第5魔法艦隊の奇跡の勝利


 本日、午前九時より開始された第5魔法艦隊VS第4魔法艦隊の決戦。エアズロック空戦(仮名)は、午後3時過ぎに第5魔法艦隊の劇的勝利で終わった。


 第4魔法艦隊の被害は、

 撃沈 戦列艦2 巡洋艦4 駆逐艦6 

 大破 戦列艦1 巡洋艦1 

 小破 駆逐艦2 


 なお、旗艦フォルテシモは撃沈、四散。

 リリム提督以下の幕僚は脱出したものの、被害は甚大である。


 速報 メイフィアタイムス ラピス・ラズリ


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