自然淘汰という死神 ③

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 と、その前にもう少しだけ。

 ここで再び進化の話に戻ろう。


『キリンの首はなぜ長いのか?』

『キリンは高いところの葉っぱを食べようとして、懸命に首を伸ばしたからだ』

 ということを、この話の冒頭で書いた。


 その証拠として、貧しい子供たちが次々と金の涙を流すようになったという話を、まぁせっせと書いてきたわけだ。


 あまりに貧乏でお金がないと生きていけない、と危機を感じた子供が自らキンを生み出すように進化した、というわけだ。


 ここまではいいだろう。


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 だが進化にはもう一つの大事な要素がある。


 それが『自然淘汰』である。


 自然という神様みたいなものが生き残る生物をふるいにかける試練のことだ。


 その試練に耐えられない生物は例外なく死に絶え、試練に耐えた生物だけが生き残ることを許される。生物とはこの自然淘汰を乗り越えるために、次々と進化を繰り返してきたのである。


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 それがこれから話すもう一つの話である。


 さてこの試練、今回は病気という形で人間に襲いかかった。

 それが今から十年前。2057年のことである。


 ちなみにわたしが牢獄を出てから十年後、正式に医師なった翌年のことであり、当時は三十二歳になっていた。


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 余談になるが、ここでもわたしは進化の新たな理論を発見することになる。


 ついでだから発表するが、自然淘汰というのは地球という巨大な生命が生き残るために行なう、大々的な害虫駆除だったのである。


 自然界を支える微妙なバランスがくずされて、なし崩し的にありとあらゆる生物が絶滅の危機にさらされるような場合に、その原因となる生物の命を丸ごと刈り取っていくのだ。


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 そして今回、自然淘汰は人間に目をつけた。

 それも地球を動かしているような金持ち連中だけに目を付けた。


 実際、この自然淘汰の嵐のあと、人類の六割が死に絶えたのだが、ただそれだけで地球温暖化をはじめとして、環境汚染、エネルギー問題、戦争やテロ、野生生物の絶滅問題、といった問題はあっさりと解決してしまった。


 なんと効率的な害虫駆除だろう!


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 ついでに言うと人類という種の絶滅も先送りになった。


 食糧問題は一気に解決したし、戦争という人類の自殺行為も実現不可能になった。

 いわゆる指導者と呼ばれる人たちが、みんな姿を消してしまったからだ。


 これで生き残った人間ばかりでなく、地球に暮らすあらゆる動植物がひとまず胸をなでおろしたことだろう。


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 当然、生き残った人間たちはみなということになる。


 なんといっても自然淘汰を乗り越えたのだから。


 彼らは地球と共存し、他の生物とも仲良くやれた。

 そういう危険性のない、いわゆる無力な人々だけが生き残ったのだ。


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 ここまで書いたらもうお気づきだろうか?


 なんと、生き残ったのは金の涙を流した子供と、その血縁者だけに限られていたのである。

 つまり必然的に貧乏な階層の人間だけが生き残ることになったのである。


 嘘のようだが本当の話!


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 ちなみにこの病気は『ノック』と呼ばれた。


 感染者はみな、ある日突然に、頭の横をコンコンとノックするような音を聞いたという。そのノックが聞こえたら、たいてい一週間ほどでパッタリと死んでしまったそうだ。


 ある医師がそれを『死神のノック』と呼び出したことで、この名前が普及した。


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 ちなみにこの病気の原因はいまだに謎のままである。


 判っているのはいわゆる金持ちから順番にかかり、そういう人間ばかりが死んだということだ。その中には大勢の医者が含まれており、彼らは原因を解決する間もなく、このノックにやられてしまった。


 わたしの知り合いの中にも、このノックの音を聞いた人たちがいた。


 例えばリョウジさんがそうだった。それからミクニ老人の知り合いの人たちも亡くなった。カゴ婆さんも亡くなったという話を聞いている。


 死とはいつでも残酷なものだ。


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 幸いなことに、わたしの家族はみんなノックを聞かずにすんだ。


 コトラは金の涙を流していた。

 その兄のわたしも大丈夫だった。


 レイとリュウイチも大丈夫。ケンちゃんとキョウコさんが心配だったが、二人ともノックを聞くことはなかった。


 それからマンションの子供たちも全員がノックの音から逃れることができた。


 自慢にならないかもしれないが、みんな立派な貧乏だったのだ!


 これも嘘のようだが本当の話!


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