PSIchedelicEYE -サイケデリックアイ-

西宮樹

プロローグ

6月20日(水)





幼馴染の部屋の扉を開けると、僕の瞳には首つり死体が写った。





「……………………は?」


 部屋の天井には、あちらこちらにフックが打ち付けられていた。そこから伸びる紐が、幼馴染の陽香の首に巻き付いて、その白くて綺麗な肌にきつく食い込んでいた。

 いや、首だけじゃない。紐は陽香の手足にそれぞれ伸びていた。合計五本の紐が、陽香の体を空中に固定している。

 陽香の体は、天井や床と平行になるようにぶら下がっており、まるで空を飛んでいるみたいだなと思った。そんな風に、のんきに思った。


「うぐっ」


 急に、腹の奥から何かがこみあげてくる感覚がした。口から漏れ出さないように、思わず手で覆った。

 陽香は可愛い女の子だった。間違いなく可愛かった。

 そんな陽香が、今はだらしなく口から舌を突き出していた。瞳は焦点が定まってなかったし、眼孔からその眼球が今にもせりだしてきそうだった。


「う、おえええぇぇぇぇぇ、がほっ…………」


 その光景に。その惨状に。その凄惨に。

 耐えきれなくなって、僕はうずくまって吐いてしまう。

 吐いても吐いても吐き気は収まらず、むしろ吐けば吐くほど気持ち悪さが増していくようだった。


「げほっ、げほっ…………」


 心臓が悲鳴を上げているかのように、鼓動のペースはだんだんと早くなっていく。痛くて痛くてしょうがない。

 頭はさっきから割れるように痛い。数十個もの万力で、頭を締め付けられているようだった。


「ううぅ……………」


 ぴちょん、ぴちょんと、水音がする。

 視界を上へ、陽香の方を見ないいように、陽香の下の何もない虚空をみる。すると、陽香の方から、何かの液体が垂れているのが分かった。そういえば、人は死ぬと筋肉が弛緩して排泄物とかが自然と出てくるんだっけ。

 においがひどく鼻に突き刺さる。自分の吐瀉物とか、排泄物とかの匂いじゃない。本能的に拒否反応を起こしてしまいそうな臭い。多分、これが死臭というやつなんだろう。

 人が死んだ、臭いなんだろう。


「がはっ…………」


 また吐き気がこみあげて、僕は自分の吐瀉物の上にさらに吐瀉物を重ねる。


「う、うううぅぅぅぅぅぅぅ」


 気づくと、涙がこぼれ落ちていた。


「うううううううううううぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ」


 どうして、どうしてこうなったんだ。

 僕は、僕たちは、普通の生活を送っていたじゃないか。何も変わったことなんてなかったじゃないか。


「どうして」


 疑問の声が、口からこぼれ出る。誰に対しての問いかけなのかは、自分でもわからない。今目の前で死んでいる自分の幼馴染なのか。あるいは漠然とした、神様とかそういう類の何かなのか。


「どうして、陽香が殺されなくっちゃいけないんだよ…………」


 どうしてこうなったんだ?

 僕の記憶は、今日という一日の最初まで遡る。

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