約束の夫婦星、流星群の日

@kuronohito

約束の夫婦星、流星群の日

 周囲に明かりはなく、暗闇の中、空からは小さな光が私達を照らす。

 冷たい地面に二人、寝転がって、空を見上げる。

 強く光る星がふたつ、寄り添っている。

 彼はそれを指して、私に話をしたんだ。

「あの星、まるで夫婦みたいだな。俺、星に興味なんて無かったけど、あの星は好きだ。

俺達は、また会える。あの星みたいになれる。

寂しい時はあの星を見上げると良いさ。

約束だ、あの星空に誓うよ。

そして、また会えたら、たくさん話をしよう。」

 私は、彼の右手を握りながら、星を見る。

 夫婦のように輝く星は、強く、強く光っていて、私達の約束は必ず叶うのだと思った。

「うん、約束ね……。絶対、だからね」



……真夜中の人気の無い道を歩きながら、空を見上げる。

「今日も、見えない……」

 はぁ。と息を吐いた息は白く、吹く風は冷たい。

 見上げる星空には、いつか見た星は映らない。

 どうしても、みたい星があった。

 星が見えなくなると共に、私の願いも叶わないものになってしまったから。

 もしももう一度あの星が輝いて私に光を届けてくれるのなら、もしかしたら……。

 そんな、夢物語のようなことを追い続けてもう何年経ったのだろうか。

 あの星の名前ももう、思い出せない……。


 空が澄んだ日は必ず空を見上げにいく。

 もうすぐ、流星群がやってくるらしい。

 今年は数十年に一度の絶好の条件ということだ。

 空は澄んで、月明かりはない。

 星明かりとはまた違った、一瞬の輝き。

「今年は、見てみようかな……」

 あの時見た星以外、私は興味がなかった。

 けれどこの年、この流星群を、私は見ようと思った。

 なぜかは分からなかった、ただの気まぐれかもしれない。

 だけど、それは何かが起こるんじゃないか、そう予感させた。


……流星群の極大日、私はいつか彼と一緒に約束をしたあの場所で、空を見上げていた。

「何が絶好の日よ、曇ってるじゃない……」

 空には雲がかかっていて、星空は広がらない。

 風が強くて、とても寒い。

 何度も、帰ろうかな、なんて思った。

 だけど私は帰らなかった。

 寒くても、曇り空を眺めるだけの退屈な時間が続いても、それでも私は待った。

 そうしていると、少しずつ、少しずつ空に浮かぶ雲は薄くなっていく。

 強い風に流された雲は密度を薄め、空に少しずつ光が浮かんでくる。

 そして、目も開けられないほど強い風が一瞬吹くと、目を開けた瞬間、空には大量の流星が流れていた。

「すごい……」

 いつもの星空とはまるで違う光景。

 光る星に、数え切れないほど流れていく流星達。

 まるで星達が踊っているようだった。

 一つ、二つ、三つ。

 数えても、数えても、次の瞬間には星が流れていって、そして消えていく。

 追いかけて、追いかけて、そして、見つけた。

「あった……。嘘みたい……。あんなにずっと探して、見つからなかったのに……」

 あの時彼が指差した、夫婦星。

 名前も知らない、二つの星。

 ずっと、私の見上げる星空の中に居たのかもしれない星達。

 あぁ、ずっと失くしたと思っていた。

 だけど、そこに居たんだね。


 空には夫婦星を彩るように沢山の流星。

 眺めていると、遠くから土を踏む音。

 この約束の場所で、約束の星を見つけて、私達は、きっとまた会える。

 そう、約束したから。

 だから、この特別な日に、特別な出会いをしよう……。

 証明するのは、空に広がる満天の星空。輝く流星達。そして、二つの夫婦星。

 だから……。

「……久しぶり。今日は、とっても素敵な日だね」

――私は笑顔で、貴方に会える。

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