ぷに子のリベンジは俺様トレーナーの指導の下で
@araiguma
第1話 初めての彼と初めてのキスと初めてのエッチ
半年前――
「山田のほっぺたってぷにぷにで気持ちよさそう」
飲み会の席で、みんな酔っ払ってそれぞれに盛り上がり始めた頃、隣に座っていた同期の渚くんが、そう言って私の両頬を親指と人差し指でつまんだ。
もちろんのことながら、同世代の男の人に頬を触られたことなんて、一度もなかった私は驚きで硬直した。
「やっぱり、すげー気持ちいい。超癒される」
ニコニコと笑った渚君は、固まる私の耳元でこう囁いた。
「ここ、俺の専用にしていい?」
真っ直ぐに私を捕えるつぶらな瞳。
催眠術にでもかかったかのように、私はコクリと頷いた。
こうして私は、25歳にして初めての彼氏を手に入れたのだ。
◇◆◇
ファーストキスは、彼の部屋でだった。
お付き合いを始めてから1ヶ月後、彼の部屋で一緒にDVDを見ていたら、何の前触れもなく、口付けされた。
その時見ていたのは、ゾンビランドという、ホラーなのにやたら陽気な映画で、ロマンティックな雰囲気とは程遠かったのに、いきなり、彼が覆いかぶさって来た。
突然の出来事に頭がクラッシュして、ただ呆然と目の前にある渚君の顔を見ていると、彼は口付けをしながら私の胸に手を置いた。
ファーストキスを終えたばかりの純情乙女にとって、その衝撃は凄まじく、私はパニックに陥った。
思わず彼の鳩尾に蹴りを入れてしまい、ぐっと呻き声を上げてかがみこんだ彼は、
「そんなに俺に触れられるのや?」
と捨てられた子犬のような顔をした。
「ち、違うのごめん……びっくりして……」
「じゃぁ、してもいい?」
「あの……それは……」
ちょっとだけ太目(多分、ちょっとだけ……のはず……いや違うかも)……結構、太目の私は、自分の体に自信がない。当然のことだが、彼の前で裸になる勇気なんてあるはずもなく……。
「ご、ごめん……。私まだ……」
彼から身を離して、うつむくと、
「ぷに子は、おっぱいもぷにぷにで気持ちいい」
そう言って、彼は遠慮なく私の胸に再び手を伸ばした。
え、えー! 今の会話でなぜこの展開に!?
「な、渚君……!」
突き進む渚君の前に、私はどうしようとアワアワしながら、思考を巡らせた。
し、下着、どんなの着けていたっけ。
あ、そう言えば、もしものことを考えて、可愛いのにしたはず。
えっと、えっと、毛の処理も、昨夜したよね。うん、念入りにしておいた。
っていうか、割と私、そうなってもいいように準備しているじゃないか。
とは言え、そもそもの体の準備が間に合っていない。こんな私のぷよぷよな体を見たら、渚君、幻滅するかも……。
彼と会うときは、いつも体型を隠せるふわっとしたワンピを着ているから、つまめるお腹のお肉や大きなお尻を見たら、きっと、嫌われちゃう。
付き合い始めてから始めたダイエットは一向に実を結ばず、今になって、食欲に負けてしまう自分の意思の弱さを呪う。まさか、こんなに早く、この時が来るとは……。
「あ、あの、渚君」
「ん?」
「電気消してもらってもいい?」
「えー。そしたら、ぷに子がよく見えないじゃん」
そんなの絶対やだと、子供のように首を振る渚君。
そ、そんなぁ……。
困り果てているうちに、気付けば彼に押し倒されて、彼は私の胸にパフっと顔を埋めた。
有り余る贅肉のお陰で、胸はGカップの私。そこだけは、唯一、見せられる個所かも。でもそれ以外は……。
「ワンピ脱いじゃおう」
そう言って、スカートにかけた彼の手を私は慌てて止めた。
「ふ、服着たままでして!」
「え?」
「あ……あの、このままで、お願い……」
体を見られたくなくて苦肉の策でそうお願いしたのだけど、彼は何だか嬉しそうに笑って、
「服着たままがいいの? もしかして、襲われたい願望ある?」
と聞いた。
「ちっ違っ!」
「あぁ、すげー、興奮してきた」
「ま、まって渚君、そ、そうじゃなくて、私、太っているから、好きな人の前で裸になるのが恥ずかしいの!」
慌てる私の言葉に、キョトンとした顔をする渚君。
「ぷに子は太ってないよ」
「太っているよ」
「これは、太っているって言うんじゃなくて、ぽっちゃりしているって言うの」
その差に何があるのだろうか……。
「僕はぷに子くらいぽっちゃりしている子が好き」
渚君はニコリと笑って、可愛らしくチュッとキスをした。
あぁ、やっぱり、男の人なのに、渚君って可愛いな。
「もしかして、ぷに子初めてだったりする?」
「うん……」
「マジで? そういう大事なことは、早く言いなよ……もしかして、キスも?」
「う、うん……男の人と付き合ったの、渚君が初めて……」
そう言うと、彼はパァッと顔を輝かせて、「嬉しいな」と言いながら私のことをきつく抱きしめた。
「じゃぁ、今日はめちゃめちゃ優しくするね」
そして、甘く囁いた後、彼は再び唇を重ねた。
◇◆◇
「花、大好きだよ」
エッチの最中、渚君は何度もそう言ってくれた。
いつも、ぷに子と私のことを愛称で呼ぶ、渚君。
最初、そう呼ばれた時は、太っていることを揶揄されているようで抵抗あったけど、彼が、「いっぱい愛情を込めているんだよ。だってこう呼べるのは僕だけでしょ」なんて言うから、いつの間にか、ぷに子と呼ばれることに愛着を感じていた。
だから、なんだか今更、名前で呼ばれるのは気恥ずかしい。
「お肌ツルツルだね」
彼とのエッチを無事終えて、ベッドで二人イチャイチャしていたら、私のわき腹から腰辺りを撫でながら、突然、渚君が言った。
改まってそんなことを言われたら、自分のぷよぷよの体を晒していることに、今更ながら恥ずかしくなって来て……。
「シャ、シャワー借りてもいいかな……」
彼の前から消えたくてそう言ったのに、「ダメ」と渚君は言って、私の隣に寝転がった。
「もう少し、そばにいて。ずっと我慢してきたんだから」
ずっと我慢してきた?
「時々、ぷに子が襟元の大きく開いた服着てくると、柔らかそうなおっぱいがチラリズムでさ。オフィスにいるのに、もうこのまま鷲掴みにしてしまえーって、変態になりそうな時があった」
私の胸を揉み揉みしながら、ため息をつく渚君。
そ、そんなこと思っていたんだ。
「この感触たまらないね。あと、ここも好き」
そう言って、今度は、二の腕のお肉を摘まんで、ニマニマしている。
渚君って……。
ま、まぁ、取りあえず、彼がぽっちゃりさんを好きなことは分かった。
よかった。
嫌われなくてよかった。
そんな彼との初体験後、実の結ばない無駄なダイエットもその日で終了し、私はそれはそれは幸せな日々を送っていた。
……のだが。
それから数ヶ月後――
全てを覆すように、私の幸せは崩れて行ったのだ。
ぽっちゃりさんが好きって言ったくせに。
ぷに子のほっぺたもおっぱいもぷにぷにで大好きって言っていたくせにぃぃっ!!!
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