青天の霹靂は静かに訪れる⁉

「はぁ~~・・・・・・どうしたら良いのでしょう」

バルコニーの鉄柵に顔を突っ伏し、私は懊悩していた。

鉄柵は春の優しい陽射しに照らされ、ほんのりと暖かい。

何処からか小鳥のさえずりが聞こえて来る。そよ風が顔を撫でてゆく。

気持ちいい。そう想い、私の顔から笑みが零れる。

「雨、大丈夫でしょうか・・・・・・」

私はぽつりとそう漏らす。あの後、雨はユウさんからの伝言を聞くなり、

部屋を飛び出して行った。その慌てぶりに、私は彼女を止めることが

出来なかった。パジャマ姿の雨の背中を、ぽかんと口を開けて見送る私。

雨は・・・・・・まだ帰って来ない。彼女が家を飛び出して、もうかれこれ

一時間以上経つ。これは・・・・・・捜しに出た方が良いのではないか。

私はそう考えるようになっていた。でも、

「あれほど血相を変えて出かけた、ということは・・・・・・」

当然、その目的がある。詰まり、何処かへと向かった可能性がある。

そうなると、私は雨を捜そうにも捜しようがない。

下界に“墜とされ”て二日―私はこの地域の事を殆ど何も知らない。

ましてや、雨が行きそうな所など、見当もつかない。

待つしか・・・・―私は自分でそう悟り、こうして独り街を眺めている。

ふと、以前にもこうして過ごしていた時間があったことを思い出した。

〈組合〉本部の塔の下に広がる景色を眺める、私という、独りの魔法少女。

唯一違う所を挙げるとすれば、空がくすんだ灰色ではなく、清々しい蒼色と

いう部分か。ざわざわする気持ちを鎮めるはずが、余計落ち着かない気持ちに

なってゆく。そんな私の姿を想い出し、何だか可笑しくなって、くすりと笑った。

「みなさん・・・・・・どうしているのでしょう・・・・・・」

私は空を見上げ、自分の居なくなった『世界』を想像してみた。エディお姉様やアリカお姉様は、元気に過ごしているのだろうか、他の魔法少女達は、今も〈奉仕〉に追われているのだろうか、〈組合〉に変わりはないか・・・・・・・・・・

そこまで考えると、私は深いため息を吐いた。

「私、他人の心配ばかりしているような・・・・・・」

自分の身の上はそっちのけにして。ちょっとは自分を心配しても良い筈なのに。

そういや昔、アリカお姉様に「マギコは自分よりも他人が可愛い」と、笑われた

事があったっけ・・・・・・

「他人が可愛い・・・・・かぁ・・・・・・」

鉄柵に突っ伏しながら、私は小さく囁いた。

その時、玄関の扉が開く音がした。振り返ると、雨が帰って来た。

「お、帰り・・・・・なさい」

なぜかぎこちなく挨拶する私に、雨は、

「・・・・・・・ただいま」

と言って上目遣いに頭を下げた。私はバルコニーから出て、丸テーブルに座った。

雨もそれに続いて、ちょこんとテーブルに正座する。

「マギコ」

座るや否や、雨が話を切り出してきた。

「はい?」

「雨・・・・・・学校行くことに、なった」

「・・・・・・・・・・えっ?」

「さっき、ユウのお母さんのところ、行ってきて・・・・・」

「そぉ・・・・ですか・・・・・」

突然の雨の告白に、私は喜ぶことも驚くことも、戸惑うことも出来ず、

ただただ、苦笑を浮かべていた。

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