第8話 お買い物は楽しいなー(棒

 め、目を閉じて何をしようってんだあ。いや、普通に考えて俺の体が元に戻るように頑張ってくれるんだと思うんだけどさ。

 クロのあのトロンとした表情を見てると、よこしまな考えが浮かんでしまう。

 

「クロ、俺を治療してくれるのかな?」

「そうです……ですが、見られていると……その、閉じて欲しいでござる」

「分かった」


 うん。俺の考えに間違えは無かったようだ。「疑ってごめんな、クロ」と俺は心の中で彼女へ謝罪し目を閉じる。

 ってええ、ほっぺにザラザラした舌が這う感触が。そうなのだ、首が動いたり口が開いたりすることから想像がつくとおり、顔だけはまともな感覚が残っている。

 うおお、まぶたをお。

 

「ちょ、クロ……くすぐったい」

「もう少しでござる」


 本当にこれ治療なのか!? クロの声色が蕩けてるんだが! こ、興奮してしまうじゃねえか、だが首から下は全く動かねえ。

 く、唇に舌がああ。そのまま押し開いて中に入って……ちょ、ちょっと待って、やっぱり俺が動けないのをいいことに普段モフモフされた意趣返しをしようってんじゃ?

 

「んっ、んっ……はあああ」


 クロから甘い吐息が漏れ、彼女の顔が俺から少し離れる。

 お、おおお、体に感覚が戻ってきた。

 

「クロ、ありがとう。治療の何かをしてくれたのかな?」

「そ、そうです。ゆうちゃん殿、元気に。ハアハア」

「あ、あああああ」


 クロのおもちやプルンプルンの押し付けられた太もも……もう全身が俺に密着しているからそらもう。


「す、すぐどくからああ」

「ハアハア……ゆうちゃん殿、ま、まさかこのまま吾輩を! あっ、あん、いけませぬ、いけませぬぞおお」

「ちょ、待てえ、言ってることとやってることが全然違うだろお。こらああ、押し付けてくるなあ」

「ゆうちゃん殿、大胆です。吾輩、もう……」

「だからああ!」


 ゴロンとクロを転がすと、慌てて体を起こす俺。咲さんたちがやってくれたのか、このエロ猫が脱がせたのか分からないけど、裸になる必要があったのか?

 顔をペロペロするだけなら……要らないよな。

 しかし、ちゃんと体が動くようになったことは事実だ。

 

「クロ、ありがとな」


 俺はクロの銀色の毛皮で覆われた猫耳をナデナデすると、彼女は耳をペタンと寝かし気持ち良さそうに目を細めた。


「ゆうちゃん殿ぉ、気持ちいいです……」


 俺の胸に頬をスリスリしながら、もっと撫でて―とせがんでくるクロの頭をナデナデして、サラサラの銀髪へ指を通す。

 

「クロ、さっきのチューは何だったんだろ?」

「あれは、魔法でござる。バインド状態だったゆうちゃん殿の状態異常を治療したのですぞ」

「なるほど。クロは治療の魔法が使えるのか。すごいな!」

「吾輩、治療と強化の魔法が使えるのです」

「おおおお、魔法かあ。それは男心をくすぐるぜ」

「くすぐりたいのですか? ゆうちゃん殿……吾輩どちらかというと、ゆうちゃん殿へ……」


 あ、ダメだ。変なスイッチ押してしまった! クロがそのままハアハアと悶え始めてあっちの世界へ行ってしまったんで、俺は彼女を放置して部屋を出る。

 

 ◆◆◆

 

 クロはゲームで言うとヒールとバフが使える僧侶みたいなもんかな。あー、俺も魔法を使ってみたい。他のみんなも魔法使えたりするのかなあ?

 後で聞いてみよっと。

 

 ロビーに到着すると、マリーと目があい彼女が俺へと駆けてきた。

 抱きーっと俺の腰へタックルをかますマリーへ少しよろけながらも受け止める俺。

 

「ゆうちゃんー、よかったー」

「クロが治療してくれたんだよ。心配させてしまってごめんな」

「ううんー、ちゃんと見てなくてごめんー。ゆうちゃんー」


 俺は「大丈夫」といいながら、マリーの頭をそっと撫でる。

 そうしている間に、俺達の声を聞きつけたのか咲さんが走ってこちらに向かってくるのが目に入った。

 

「さ、咲さん、危ない!」

「え? きゃ!」


 急いでいたからか、咲さんは足元のでっぱりに足をひっかけてしまいドテーとうつ伏せに転んでしまった。

 

「大丈夫!? 咲さん」

「う、うん。何ともないわ」

「む、紫……」

「紫?」

「あ、いや、咲さん、首が少し」

「み、見ないでえ」


 どっちだ、どっちを見たらダメなんだと一瞬考えてしまうが、転がった首の方だろうなあ。

 恥ずかしさからか足をバタバタさせるもんだから、短いチェックのスカートが揺れて、ついでにお、お尻も揺れ……み、見るなあ。俺。

 俺が咲さんへ近寄ろうとすると、彼女は自分の手で頭を抱いて首を取り付けてしまった。うーん、残念。

 しかし、紫は俺の心のアルバムにしっかりと焼き付けておいたから大丈夫だ! 何が大丈夫なのか、俺にも分からん! 

 

 この後、咲さんへ体の無事を伝えた俺は、夕食を食べて就寝した。

 

――翌朝

 軽トラックを運転して咲さんとマリーと一緒に走ること一時間。ようやく、大型衣料量販店「すもむら」へ到着した。

 目的のアイテムは彼女らの制服。温泉宿に相応しく、かつ彼女らの可愛さを引き立てるものがいいなあ。ついでに、俺の服とか下着も買ってしまおう。

 あと、あれだ。クロの服。いつも裸だから困るのだ……彼女に聞いたら「吾輩、服は着ないです」とか言ってるし……ずっと猫ならそれでもいいんだけど、猫耳に変化するからねえ。

 

 田舎らしくだたっぴろい駐車場へ軽トラと停車させた俺は、車のドアを開き外へ降りる。

 

「んー、行こうーゆうちゃんー」


 すると、すぐにマリーが俺の左腕にしがみつき、上目遣いで俺を見つめる、見つめる? 目、目が、あ、赤だけど光ってない。よかった。


「マリー、目が光ってないな」

「うんー、褒めて―」


 多少触っても平気になったのかな? マリーは見た目こそ人間そのものだから問題がないけど、人間に触れると目が赤くなり、そのまま放っておくと目が光って「お食事」したくなってしまうのだ。


「長時間触れても、大丈夫になったのか? マリー」  

「ううんー、ゆうちゃんだからだよー」


 マリーの言葉に心が揺れるが、俺の感じていることと彼女が思っていることはまるで違うことは分かってる。分かってるんだけど、「俺だから」って言われるとドキっとするもんなんだよ。


「目が光らないのはいいことだから……まあ、いいや……」

「おー」

「し、しかしだな、マリー。外でそんなにくっつかれると恥ずかしいというか何というか」

「そうだねー、外で吸いたくなったら困っちゃうねー」


 マリーは納得したように頷くと、俺から手を離す。

 そんなこんなで、咲さんに手を引かれながら「すもむら」の店内へと入っていく。

 

 店員さんに着物や和風の制服などが置いているコーナーを聞いて、どれどれと物色していると……あ、これがいいかなと思うのがあった!

 それは、二部式着物ってやつで上は着物なんだけど下は袴になっていてとても動きやすそうだ。マリーがパタパタやっても下着が見えることがないし、これならお色気ハプニングになっちゃうことはないだろうから、その点でも優れものだと思う。

 サイズはS、M、Lの三種類しかないので、特に試着してもらわなくてもだいたいのサイズで選べそうだな。


「咲さん、マリー、好みの浴衣を選んでくれ」

「うん」

「ほーい」


 俺は咲さんとマリーが二部式着物を選んでいる間にせっかくだからクロの二部式着物も選ぶことにした。三人揃ってロビーのカウンターの前で並ぶと絵になると思うんだよな。

 俺は彼女らの姿を想像し、口元がほころびながらも物色する。うん、クロにはこれでいいか。彼女は銀髪ロングに褐色肌だから、明るい色の方がいいかなと思った。だから、白地にひまわり柄を選ぶ。

 きっと肌色と着物の白が映えていい感じになるはずだ!

 

 ええと、咲さんとマリーはっと……咲さんは青と紺色の矢絣やがすり柄の浴衣だ。縦に柄がつく青、紺、白のコントラストが良いと思う。とこどどころに小さな花柄が入っているのが可愛らしい。

 一方マリーはというと、薄いピンク色の下地に麻の葉柄だな。麻の葉が紫色で描かれており彼女らしい色使いだ。 

 

「どうかな? 勇人くん?」

「うん、バッチリだと思う。マリーはそのままでいいとして……咲さん、ワンポイントを入れない?」


 俺はフロストローズというピンク色のバラのレリーフが先についたかんざしを手に取り、咲さんに見せる。


「えっと、髪の毛が長くなっている方の根元にこれをつけてみたらどうだろう?」

「うん! ありがとう、勇人くん!」


 よし、これで温泉宿で着る制服は揃ったぜ。後は……俺の下着と衣類を見て来るか。

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