第39話 担当編集から呼び出しを受けた
何やら結城編集からお呼び出しを受けたのだけど、やはり来たか。
確かに僕の作品のアンケート結果が、低空飛行しているのは確かだ。
これまで結城編集が頑張って僕の作品に手を入れてくれたんだけど、アンケート結果は鳴かず飛ばずだった。
バトル化も検討したんだよ。人気が無くなったらバトル化。
でもね、最初から人気の無い作品をバトル化してもダメなんだと結城編集にアドバイスを受けた。
途中カッとなって叶編集長の名前使ったりしたけど、今となっても反省はしていない。
お色気路線は必ず一つは必要だとはじめたこの作品だったけど、なかなか難しいものだよなあ。
そんなことを考えていると、朧出版に到着した。
僕はため息を吐き出して、エレベーターに乗り十階のボタンを押した。
もちろん、エレベーターは「うおおお」なんて叫ばないし、赤色でもない。
「お待たせしました。結城さん」
俺が到着すると、結城さんは渋い顔でパソコンを操作していた。
結城さんは三十代半ばの男で、中背痩せ型、黒い髪をオールバックにしてメガネをかけた仕事が出来そうな雰囲気がする人だ。雰囲気じゃなく実際できる人だと俺は思ってる。
ありがたいことに、これまで何度も俺の作品に手を入れてくれてたんだよ。
「すまない、うみくん」
「う、打ち切りですか?」
「あ、ああ」
金槌で頭を打たれたような気分だった。僕はお酒を飲めないから、お酒で悔しさを紛らわすことが出来ないけど、今夜は何か豪華なものでも食べよう。
「結城さん、これまでありがとうございました......」
「力及ばすですまなかった。次回作で復讐しよう。俺も出来る限り協力する。連載を勝ち取ろう!」
「結城さん......」
僕はうつむき、彼の言葉に涙が出そうになる。
「ちなみに、僕の後ろはどんな作品なんですか?」
「ふう先生の、異世界温泉でポロリだ」
「......」
被ってねえか! い、いや確かにふう先生の絵は僕と違って可愛らしくて萌え萌え出来るだろう。しかし......いくら何でも。
「主人公は勇、デュラハンのヒロインと、バンパイアのヒロインがメインで、エロ役にワーキャットが出る」
「......ええー」
「でだな、異世界とは銘打ってるが、ほぼ現実世界だ」
「それって」
「ああ、君の作品の丸パクリだよ」
「なんてことだ! でもそれで人気出るんですか?」
「正直、人気は出ると思う。君の作品、キャラクターに関しては優秀なんだよ」
「そうですか、ふう先生なら固定ファンもいますしね」
「君には原案協力としてクレジットする」
「やっぱり、僕の絵は良くなかったんでしょうか」
「俺は君の絵で受けると思ってたんだよなー。ホラーコメディと銘打ってたからさ。でも、読者が求めたのは萌えだっただけだよ」
「萌えない僕の絵じゃあ」
「まあ、次回作で頑張ろう」
「はい。ふう先生にもよろしくお伝え下さい」
僕は結城編集との会議を終え、帰路につく。
やはり僕の絵では受けなかったのか。世間ではやはり可愛い絵が受けるのか。
でも、僕は僕の美学を貫きたい。そうしてこその漫画家じゃないのか?
ほとばしる筋肉と筋肉の戦い、熱いいや暑苦しいまでの濃い描写。リアリテイのある顔。緻密な背景描写。
それが僕の作風だ。
女性キャラクターももちろんリアリテイを重視して描写する。
首が取れた咲さんの胴体とか、恐怖を与えるよう苦労してことさらリアルに描いたんだ。
もちろん、マリーの口から滴る血も。
そんなリアリテイ溢れるヒロイン達が勇人に絡んで行くんだ。
ほら、ホラーだろ?
そして笑いを誘う。
まあいい、ふう先生が描き直せば可愛いキャラクター達が勇人を取り囲む、ハートフルなホラーコメディになるだろう。
僕はこの作品を愛している。僕が絵を描くより良くなるならそれでも良いか。
まだこの作品は死んでいない。
勇人が何故魔族美女を引き付けるのか、咲さんはどんな魔族なのかなどなど。明かされる秘密もまだまだある。
俺たちの戦いはこれからだ!
次回よりふう先生の絵でお楽しみ下さい。
第一部
劇画漫画家うみ編
完
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