第37話 バーベキュー

 頭がスッキリ冴えているカッコイイ俺はマリーを捜し、俺が倒れた後どうなったか聞くことにした。

 マリーは既に胸が萎んでいつものツルペタに戻っていた。うっしーの牛乳はそこまでの効果時間は無かったようだ。


「マリー、あの後どうなったんだ?」


「んー。ゆうちゃん倒れたー、大変! 魔法で治療してー、連れて帰ったのー」


「骸骨くんにお礼言わないとな」


「ゆうちゃん連れて帰ったのはわたしだよー。褒めてー」


「どうやったんだ?背負えたのか?」


 マリーと俺の体格差を考えると、背負っても俺の足が床につきそうだけど。


「んー」


 マリーは少し悩んだ後、考えるのをやめたようで、俺の膝裏と背中に腕を置くと、俺を掬い上げた。


「こうやったのー」


 なるほど、姫抱きされていたわけか。気絶していたから恥ずかしく無いけど、今はもちろん恥ずかしい......


「分かったから、降ろしてくれ!」


「はあい」


 あっさり手を離してくれたマリーだけど、まだ何か言いたそうだ。


「どうした? マリー?」


「んー、ゆうちゃん、チュー好きなのー?」


 吹いた! いきなりどうしたんだ?


「咲さんともクロともチューしてたよね?」


「あ、ああ」


「人間って、仲が良い人とチューするんだよね。ゆうちゃん、わたしが嫌なのかな」


「い、いやそんなことは、無い......」


 何やらマリーの頭の中で盛大な勘違いがあるようだが。斜め上過ぎて突っ込めないぞ!

 チューしたと言っても、クロは不本意だし、咲さんは何かキスの意味が違う気がするんだよね。モゾモゾするし......


「んー、ほんとかなー」


 あからさまに暗い顔をするマリーに、俺は少しテンパってしまう。彼女のこんな顔滅多に見ないから。いつも天真爛漫で笑顔の彼女......ふさいだ顔は似合わないよ。


「血だって吸わせてあげてるじゃないか。な」


「うんー、ゆうちゃんの血を想像するだけで、もう天にも登った気分ー」


「目が光ってる! 落ち着け、落ち着くんだ」


 我慢出来なくなったマリーが飛びついて来るが、じっと俺の顔を見つめるだけだった。はて?


 気になってマリーを見ると、至近距離で目を瞑り、唇をんっと突き出している。仕方ない。本当にこういうところは子供だよなこいつ。

 仕方ないからちょこんと指先でマリーの唇に触れて離すと満足したようだ。

 よく考えてみると、うっしーの家でチューしたじゃないか! 牛乳の悪夢の時だよ!


「わーい」


「気絶した後連れて来て貰ったしな。そのお礼だよ」


 指だけどな。ははは。



◇◇◇◇◇


 露天風呂の外にテラスがあるので、炭と網を準備して、みんなでバーベキューをすることにしたんだけど、牛肉って熟成させるとか無かったっけ?


「ようやく、パーティが出来たね」


 咲さんは嬉しそうに、焼けた肉を俺にあーんしてくれる。隣でクソ猫がじーっと見つめているから食べ辛いことこの上ないけど、気にせず食べる。


 熱い!


 す、少しは冷ましてくれないとキツイな。網からあげてそのままかよ。


「美味しい?」


 咲さんが、首をこてんと傾けて上目遣いで聞いてくる。


「うまいよ!」


 マズイとか言えないだろ。こんな顔されたらさ。


「ゆうちゃんー、これも食べてー」


 マリーが箸に摘んでいるのは、厚さ十センチほどもあるサーロインステーキ。横幅も二十センチはある。

 しかも、生肉だ!


「食えるかー!せめて焼けよ!」


 渋々肉を焼こうとするマリーに、俺は待ったをかける。

 生肉なら......


「マリー、その肉クロにあげてくれ」


「吾輩、焼かないと食べれないです」


「猫なのに生肉食わないのかよ!」


「吾輩、猫では無いゆえ」


 生意気な猫だ。仕方なく分厚いサーロインは、網で焼かれることになった。


 一通り食べる頃、咲さんが隣に腰掛けて来て、俺にコーラを渡してくれる。

 あの酔っ払い事件以来、酒は咲さんが飲まないように注意しているのだ。下手したら酔った勢いで潰されかねん。

 いや、酒に潰れるという訳では無く、体がスプラッターになるってことだぜ。全くホラーだぜ。


「咲さん、ありがとう」


「ううん。結局ハロウィン出来なかったし、よかった」


「あ、ああ。中止のままだったよね」


「そうそう」


 俺と咲さんが和んでいると、バーベキューをしながらも競馬新聞を離さなかった親父さんが、ふと顔をあげる。


「そう言えば勇人君、明後日物産展がある」


「何です? それ?」


「飛騨高山の名産を集めて人を呼ぶ企画だ。商店街でやるのだ」


「それがうちと何が?」


 ものすごーく嫌な予感がするんだよなあ。親父さんが口を開くと、いつも無茶振りなんだよ。


「いや、最初はな地元飛騨高山ダンジョンで取れた牛肉でも出展しようと思ったのだが、さすがに赤牛は良く無いだろうと」


「そうっすね。人間だと採って来れないでしょうね......」


 人間だとせいぜい一階の巨大鶏までだろうなあ。猟銃で狩猟出来そうだけど、広場行くまでにいる爬虫類がネックだよなあ。数が多すぎるあいつら。


 これまでも不思議に思っていたけど、ダンジョンのモンスターって行くたびに復活してるんだよ。無限に拾って来れるのかいな?

 ま、まあダンジョンは理屈が通じないから気にしない方がいいのか?


「親父さん、ダンジョンのモンスターて毎回居ますよね。倒しても」


「ああ、ダンジョンには地球のエネルギーが流れているのだよ。人間も電気というエネルギーを使っているだろう」


「謎のエネルギーで復活してるんすね」


「そういうことだ。で、だね、物産展だが、我々は屋台を出す」


「えええええ。明後日ですよね? 何出すんですか?」


「鶏なら問題ないだろう。また焼き鳥だ!」


「ま、まあ地元と言えば地元っすよね。焼き鳥ならこの前の屋台ありますし」


「下ごしらえは任せ給え。頼むよ」


「あ、もう俺一人でいいっす」


 これに待ったをかけたのが、今までじーっと聞いていた三人だ!

 誰が行くかで彼女達はもめはじめたのだーー! 俺言ったよね。一人でいいって。


 親父さんは気にした様子もなく、「勇人君もモテるねえ」とか呑気に言ってるよ。


 お、親父さん。雰囲気がとてもとても険悪なんですけど。これほっといていいんですか?


「勇人くん!」

「ゆうちゃんーー」

「ゆうちゃん殿!」


 ぐおおおお。揃ってこっちを睨んで来るんじゃねえええ!


 に、逃げるか。

 俺は見なかった事にして、自室にダッシュしたのだった。後でえらい事になりそうだ! 知らん、もう知らんぞ。

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