第32話(TS注意)コンビニと下着
軽トラックをコンビニの駐車場に停め、咲さんに手を繋がれてコンビニに入る。
居た! 予想通り奴がいる。
「いらっしゃいませ! 今日は4280円さんと一緒じゃないんですね」
コンビニの女性店員は俺のことを猫耳クロと間違えているんだろう。彼女は笑顔で俺に挨拶をして来た。
これには咲さんが不思議そうな顔をしていたが、ここへ留まるとまた変な事を吹き込んできそうだったから、彼女の手を引きドリンクコーナーへ。
「咲さん、どんなの飲むの?」
「ん、勇人くんと同じでいいよ」
そう言われては無難な物しか取れない小市民の俺は、お茶のペットボトルを手に取る。
行かなきゃいいのに、どうしても雑誌コーナーが気になって仕方がなかった俺は、つい魔のムフフコーナーへ。
うわあ。コスプレと制服モノがちゃんと置いてるよ! どんなコンビニなんだよここ。
「ん、勇人くん、どんなのがいいの?」
やっべー。咲さんが絡んでた来た!
「昨日、咲さんが持っていったようなのです......」
赤面しながら答えてしまう、俺も俺だ。
ふと視線を感じ女性店員を見ると、ニヤニヤこちらを見つめている。また変な妄想してやがるな。
「昨日のは私が貰っちゃったから、好きなの選んでいいよ」
うわー、うわー。これはマリーやクロの時以上に恥ずかしい。
あいつらはある意味普通の女子と接してる感覚で、ムフフ本を購入したわけではない。俺が女性店員の晒し者になるのが恥ずかしかったに過ぎない。
しかしこれは、未成年の男子が年上の綺麗なお姉さんの前でムフフ本を買ってあげるシチュエーションに近いのだ。
こ、この羞恥プレイは恥ずかしい!咲さんが分かってないのがよけい恥ずかしいー!
ちくしょう。このコンビニは絶対呪われてる。
「じ、自分で買いますからほっといて下さいー!」
「そうなの?じゃあ、待ってるね」
待たなくていいって! 言葉の裏を分かってくれよ! 今買わないって分かるでしょ? 分かるよね?
ヤケになった俺は適当にムフフ雑誌と誤魔化しにもならないけど、普通の情報誌をいくつか取ってレジに向かう。
じーっと咲さんが見てるから真っ赤になって雑誌をレジに出す。
「羞恥プレイ、あのお姉さんやるわね」
女性店員が呟くが、聞こえてる。聞こえてるよ!
「お会計お願いします」
「この雑誌は未成年の方にお売りできません。お姉さん呼んで下さいね」
うおおお。見た目が猫耳クロなこと忘れてた!この見た目だと未成年にしか見えないよな。
俺が困ってることが分かった咲さんが、レジまで来て追加で飲み物と女性誌をレジに置く。
「このチョコどうですか?本日新発売なんですよ」
店員の勧めに咲さんは、チロルチョコを二つ会計に加える。
「ありがとうございます。4280円になります」
このクソ店員があ! 金額調整しやがったな! 俺が怒りにフツフツと燃えているが、咲さんはもちろん4280円が何のことか分かってない。ついでに自分が羞恥プレイしたことも把握していない......
◇◇◇◇◇
「勇人くん、チョコ美味しい?」
軽トラックでさっき買ったチロルチョコをほうばる俺に、咲さんは笑顔で聞いてくる。
「うん、変わった味だけど美味しい」
杏味らしい。少し酸味があるがチョコの甘さと合っている。
甘くなった口内をお茶で流し一息つくとやっと気持ちが落ち着いて来た。
長い道のりだったけど、ようやくショッピングセンターに到着すると、さっそく咲さんに手を繋がれてお店巡りだ。
微妙に手を繋がれてるのが恥ずかしかったけど、今の俺は仮の姿、どう見られても問題ないと割り切れば気にならなくなる。
「勇人くんもせっかくだから一つくらい服買お?」
「いや、一週間だし」
「使わなくなったら、マリーにでもあげればいいじゃない」
「あ、確かにマリーと体格同じくらいだから無駄にはならないか」
「うんうん」
これが間違いの元となるとは思いもしなかった......
俺はどんなのがいいか分からないから咲さんに任せていると、彼女は超ミニのデニムスカートとダボっとした白のニットセーターに、先っぽに丸いアクセントがついた毛糸のニット帽子を選んできた。
うん、普通に可愛いと思うけど、俺が着るの?
いや着せる為に買ったんだよな。
「勇人くんー、後は下着選ぼ」
「いや、下着は見えないですし」
嫌がる俺の手を引いた咲さんは、下着とソックスなどが置いてある店に入る。
「こんにちはー」
咲さんは慣れた様子で若い女性店員に挨拶している。常連なのかな?
「いらっしゃいませ。今日は可愛らしいお客様をお連れですね」
店員さんはにっこり俺に挨拶をしてくれる。
「今日は彼女の下着と、さっき買ったスカートに合うレッグウェアを選んで欲しいの」
「かしこまりました。胸のサイズ測りますので奥に」
促されて更衣室に入ったが、胸のサイズとか計測する必要ないよね? 胸無いし。
「では、測りますので上を脱いでください」
待てえ! 脱ぐの? 本当に? よく分からんけど。今ワンピースだから脱ぐと下はパンツ一枚っすよ。
俺が意を決して脱ぐと、パンツ一枚だったことに店員さんは少し驚くも、さすがプロ。動揺をすぐしまい込み俺の胸のサイズを測る。
「AA65です」
そんなもの見たら分かるわ! AAって聞いたことないな。何それ?
聞くのも嫌だから放置だ。
「ありがとうございます」
「キャミソールと下着をお持ちしますね」
「はい。色も形もお任せします」
咲さんからお任せと言って貰ってるが、一応俺からも言っておく。
暫し待つと店員さんがやって来て、ブラとキャミソールを手渡してくれた。
「あ、あの。つけたこと無くて」
は、恥ずかしいぞお。何でこんな思いしなきゃならんのだ。
店員さんにブラを着けてもらうと、少し胸のサイズがパワーアップした気がする! そう、ブラにはパットが入っているからだ。
本来は寄せて入れるらしいが、寄せるものが無いのだ。仕方ない。
上からキャミソールを着て、更衣室の全身鏡を見ると、少し胸が出てる。
すげー、パットすげー。
俺の表情を見て、店員さんは微笑み。
「ご満足いただけましたか?」
「は、はい」
途端に恥ずかしくなってしまう。ウキウキしてるの見られた。胸で喜んでいたのは事実だが、微笑ましい顔で見られたものだから、顔が赤くなる。
結局この後、咲さんから買った衣類を渡されここで全部着替えることとなった。こんな長時間占領していていいのかなあと思ったりしたんだけど、店員さんは大丈夫と言ってくれた。
ついでと言っては何だけど、タグを切るハサミも貸してくれたんだ。かなり親切な店だと俺は少しだけ感動した。
着替え終わると、咲さんと俺が並んで店員さんに写真を撮ってもらう。写真撮ったら後に残るじゃないか! 俺の黒歴史が......しかし咲さんの手前言い出せなかった。
だって咲さん、とっても嬉しそうなんだもの。
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