第234話 公爵になったけど……事件です!


 俺はついに公爵へと上り詰めた。

 正直爵位なんてどうでもよかったんだけど、一度なったら一番上にまで上がりたい欲がふつふつと沸き上がり、密かに目指していたりする。

 王都の城に呼ばれ、城の中庭でこれまた豪勢に爵位を与えてくれて、しかも平民でも見れるように城を解放していた。

 何でもクーデターを食い止めた功績がでかかったのだとか。

 そこまでしてもらわなくてもよかったんだけど、有名税だという事で仕方なく受けた。

 公爵になった瞬間、拍手喝采が巻き起こり、様々な貴族から「自分の娘は如何でしょうか?」とお勧めされまくる。

 鬱陶しい事この上なかったのだが、久々に隊長さんやらニトスさんと話が出来たから楽しかったなぁ。

 隊長さんは、今城の兵をまとめる総隊長という立場にいるようだ。

 給料も上がったらしく、以前よりふっくらとしている気がした。

 ニトスさんと一緒に隊長さんをいじりまくったせいか、俺は痩せてやると宣言をしていた。

 まぁ現場より事務仕事の方が増えたみたいだし、とりあえず頑張ってほしい。


 そしてヨールデンとの戦争の際に軍師として、俺と一緒に戦ったニトスさん。

 職は軍師をまとめる長という事で前回と変わっていないものの、最近結婚したようだ。

 奥さんは何と、十七歳!

 日本じゃ犯罪レベルだ! ……まぁ十二歳で結婚している俺が言えた口じゃないな。

 この世界が十二歳で成人ってしているのが悪いのだ!

 決して俺が悪い訳じゃない!

 さて、この新婚ほやほやのニトスさん、盛大にのろけてくる。

 まさかこの人がこんなにのろけるとは思わなくて、思わず口から砂糖がマーライオンの如く出るのではないかと錯覚してしまった程だった。

 相当ラブラブなご様子で、最近は仕事を定時で切り上げて奥さんと一緒にいる時間を増やしているらしい。

 そして胸ポケットには、小さな絵がしまってある。

 これは奥さんとニトスさんが寄り添っている絵だ。

 模写絵師に小さな絵が可能か確認したら、特別料金で随分金を持っていかれたそうだが可能だとの事。

 仕事に嫌気が差した時、この絵を見て元気を補充しているのだとか。

 ふむ、でもいい事聞いたな。

 俺もちょっと頼んでみようかな、俺とレイ、リリル、アーリアが写っている絵を描いてもらって、遠征している時でも元気を補充できるようにさ。

 よし、帰ったら頼もう!


 そんな風に二人と会話を楽しんでいると、血相をかいてセバスチャンが俺に向かって走ってきていた。

 見た目は初老なんだけど、走るスピードはとんでもない。

 今の俺とほとんど大差ないんだ。

 それはさておいて、どうしたんだろう?


「だ、旦那様! 大変でございます!」


「ど、どうしたんだよ、セバスチャン」


 王様である親父の《影》として働いていたセバスチャン。

 ちょっとやそっとでは動揺しない彼が、こんなに焦っている。

 なにかあったのだろうか?


「り、リリル奥様が、産気づいているとの情報が入りました!!」


「な、なにぃ!?」


 うっそ、マジか!?

 予定より早い気がするぞ!

 そしたら、こんなパーティなんてどうでもいい!


「セバスチャン、準備はできてるんだろうな!?」


「はっ! 滞りなく!」


「うっし、俺も帰る! その準備を今すぐしてくれ!!」


「旦那様!? 今貴方のパーティですよ!!」


「妻より大事な事なんてあるかよ!! 帰るぞ!!」


 周囲の事なんて気にしない、大声でセバスチャンに指示を出す。

 俺とセバスチャンの会話を聞いていた周囲もざわつき始める。

 まさか、今度はパーティを蹴るのか? と。

 ニトスさんと隊長さんはまたかって表情をしている。

 そうだよ、まただよ!

 すると、王太子である兄貴が近寄ってきた。


「全く、ハルの為に用意したパーティなのに、どうするんだい?」


「わりぃ、後で穴埋めするよ! 親父にも伝えておいてくれ」


「仕方ないな。ただし、私の穴埋めは少々値が張るよ?」


「財政破綻しない範疇であれば、いくらでも!」


「うん、楽しみにしておこう」


 俺は全速力で中庭を抜けて城門まで走る。

 門前に置かれていた俺の馬車に急いで乗り込んで、セバスチャンに指示を出す。


「セバスチャン、俺の事は気にしないで全速力で戻ってくれ!」


「畏まりました! 後で怒らないで頂きますよう!」


「わーってる! 今は俺の事よりリリルの方が大事だ!」


「はっ!!」


 豪勢な馬車が、暴走気味で王都を駆け抜けてウェンブリーの街を目指した。

 当然ながらガクガク揺れる馬車に盛大に酔った俺は、計四回も嘔吐した。

 でもこれも愛しいリリルの為だ。

 とにかく早く着いてほしいという気持ちしかなかったんだ。


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