第232話 ハル・ウィード侯爵の名裁き 3


 納得がいかない、納得なんてしてたまるか!

 俺は必死に抗議をするが、猿轡のせいで喋れない。


「どうした、アレクセイ・フォール。何か文句を言いたそうだな」


「んーーーーーーーっ!!」


「あっ、そうそう。てめぇはすぐに返済をサボりそうだったから、陛下から優秀な管理官を三名付ける事になった。紹介させてもらおう」


 すると、壇上してきたのは、三者三用の美人だった。

 一人は金色の髪を腰まで伸ばしたスレンダーな体躯の美女。

 二人目は晴天を思わせる空色のショートカット。しかし胸は豊満な女性。

 最後はつり目に眼鏡を着けているが、美しい顔立ちの美人。

 これが俺に就く管理官なのか?

 

「三人とも陛下が優秀と太鼓判を押す程の人材でな。てめぇら一族が早く負債を返せるようにアドバイスや指示をしてくれるぞ。どうだ、美人だからやる気が出てくるだろう?」


 そうだな、相当な美人だ。

 俺は金を返済する為に生かされる形となった。

 金は適当に返しつつ、この女達を力で従わせて侍らせよう。

 きっと最高の夜を過ごす事が出来るだろう。


「あっ、そうそう。彼女達はかなり強い。無論、てめぇよりな。手を出そうなんて考えるなよ? 一瞬で生き地獄を味わう事になるぜ?」


 三人の冷たい目線が俺に突き刺さった瞬間、体の震えが止まらなくなった。

 俺は、何をされたのだ?

 全身がガクガクと震えてしまっている。

 ただ視線を向けられただけなのに。


「ほらほら、三人とも。手加減はしてやってくれよ? んじゃ、軽く自己紹介でもしてくれ」

 

 ハル・ウィードが三人の美女に対して名乗るように促したが、眼鏡を掛けた美人が「いえ」と短く言って首を横に振った。


「ウィード侯爵様、大変申し訳御座いません。このような下衆に私達の名前を言われるだけで虫酸が走ってしまい死んでしまうかもしれません。どうか、名乗る事だけはご勘弁を」


「おぅおぅ、容赦ないな! そういう性格、嫌いじゃないぜ?」


「あ、ありがとうございます……」


 美人が顔を赤く染める。他の二人も同様だ。

 しかし、俺の言われようは酷かった。

 下衆と言われてしまった。

 文句を言ってやりたいが、言ったら何をされるかわからない。

 俺は身がすくんで何も言えなかった。


「アレクセイ、早速嫌われてるみたいだな。これから彼女達がてめぇの財産管理を全て受け持つ。豪遊なんて出来ると思うなよ、てめぇの金は最早てめぇの懐に自由に入らない。全て負債に充てられる事を忘れるな。あっ、返済が少しでも遅れた場合は、死なない程度に拷問だから注意しておけよ?」


 俺の財産が、全て管理されるだと?

 ふざけるな、俺の金は俺のものだ!

 何故他人に管理されなければならんのだ!

 しかも支払いが遅れたら拷問だと?

 納得してやるもんか!

 俺は必死に抗議の声を上げたが、その瞬間、ショートカットの美女に顔面を蹴られた。


「やかましいよ、下衆。ウィード侯爵様のお言葉をいちいち遮んないでくれる?」


 口内全体に痛みが広がる。

 歯が何本もかけたようで、口に固いものが複数もごろごろ転がっている。

 歯と頬の内側が激しくぶつかったようで、非常に痛い。

 俺はその場に倒れて悶絶するしかなかった。

 こいつら、俺を人間として見ていないのか!?

 くそっ、くそっ。


 くそったれがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!


 俺は起き上がって反撃しようとしたものの、予測されてしまったのかショートカットの女に頭を踏みつけられ、起き上がれない状態にされる。


「地面でも舐めててよ、害虫」


 どんどん、人としての尊厳を奪われているように感じてきた。

 屈辱だ、屈辱的過ぎて涙が出てきた。


「戦争に負けたてめぇに、自由は与えられない。罪も関係もない人達の命も奪った。てめぇはそれを生涯掛けて償え。そしてその負債は支払い終わるまで末代まで続く。まぁ、頑張れ」


 もう、俺の言葉は一切聞き入れてもらえない。

 きっと何を言っても無駄なんだろう。

 俺はただ涙を流しながら奴の言葉を聞くしかなかった。


「さて、この馬鹿に賛同した他の貴族共に聞く。選択肢は二つ、一つはそのまま処刑されるか、最後はアレクセイの返済を手伝うかのどちらかだ。さぁ、好きな方を選べ」


 究極の二択だった。

 それでも俺の傘下に入った貴族達は、後者を選んだ。

 負債返済を選んででも、自分の命は捨てたくなかったんだろう。

 誰もハル・ウィードに反抗しようとはしなかった。

 五兆の負債の内一兆は、参加の貴族達が等分して支払う事になった為、俺自身の負債は四兆に減った。

 それでもまだとんでもない額であるのは間違いない。

 負債の部分の話が確定した直後、


「よかったなぁ、アレクセイ。てめぇのお友達が負債を持ってくれて」


 見下したように笑うハル・ウィードの表情に、俺は悪魔が笑っているようにしか思えなかった。

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