第218話 ログナイト VS レイ 最初の一合


 この試合に、開始の合図はなかった。

 最初に攻撃を仕掛けたのはログナイトのじいさん。

 あんなでっけぇ剣を持っているのに、凄まじい速さでレイに突進していく。

 じいさんは何か強化魔法を使ったんだろうか?

 俺が知っている限りだと、強化魔法は風属性の《ブースト》位だ。

 音属性っていうユニーク魔法のせいで、他の属性魔法については全く勉強してなかったわ。

 さて、レイはどう出る?


「しゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 じいさんは奇声を上げて大剣を振り下ろす。

 レイは反応しない。避けるつもりもないようだ。


「レイちゃん!?」


「レイさん!?」


 リリルとアーリアが悲鳴を上げる。

 むしろリリルは回復魔法の準備をする程、レイは全く動かない。

 何を考えている、レイ?


 俺はレイの行動を考えていると、レイはそのまま脳天から真っ二つに斬られてしまった。観客からも悲鳴が上がる。

 ぶった斬った剣は勢い余って地面に深く突き刺さる。

 マジで斬られたのか!?

 いや、斬られたレイの姿が揺らめいて消滅した。

 残像か?


「……む!?」


 じいさんは大剣を地面に食い込ませたまま前方に飛ぶ。

 すると細身の剣が突然現れて、空を斬った。

 徐々に空気が歪んでいき、レイが姿を現した。


「ちっ」


 レイが小さく舌打ちする。

 完璧に虚をついた一撃だったが、ログナイトのじいさんは見事回避に成功した。

 恐らく勘なんだろうけど、この世界の平均寿命をぶっちぎって生き長らえているじいさんが勘で気付いたとしても、レイのあの攻撃を避けるのは相当難しい筈。

 生涯現役とか言っていたが、ありゃマジみたいだな……。


 さて、初手はお互い様子を見ずに全力で振るった。

 次からどう動くだろうか?

 俺も見てて、じいさんと戦いたくなってきたぜ!

 やっぱり男ってのは、どうしても強さに憧れるからなぁ。

 このじいさんも間違いなく越えたい壁であるわけで。

 勝てるかわからんけど、絶対に勝ちたいと思ってる。

 いずれ、絶対挑戦してやる!













 ――ログナイト視点――


 正直、冷や汗が止まらなかった。

 ハルの坊主の奥さんが相手と聞いていて若干拍子抜けしておったが、面を合わせるとなかなかどうして、十二歳という若さに合わない殺気を秘めていたんじゃ。

 儂はこの相手は油断してはならぬと判断し、最初から全力で叩き斬る事にした。

 特訓の末習得した無詠唱での《ブースト》を密かに掛け、速攻を仕掛ける。

 だが、奥さんは一切避ける動作をする事なく、そのまま儂に斬られてしまった。

 しかし手には人間を斬った感触は伝わらずに、我が大剣は地面に勢い余って突き刺さってしまった。

 すると、斬った人間が蜃気楼のように揺らめいてゆっくりと消えていったのじゃ。


(しまった、罠か!)


 無防備な状態で何処からか斬りかかろうとしているのじゃろう。

 儂は五感全てを活用し、気配を探る。

 すると、一瞬背後から殺気が感じ取れた。


「む!?」


 ほぼ直感じゃった。

 この場にいると背中を斬り裂かれると思った儂は、前方に飛び、突き刺さった剣を次いでに引き抜いた。

 殺気を感じた方に振り向いてみると、そこには細身の剣を振り抜いていた奥さんがいた。

 どんなからくりで背後に回ったかはわからぬ。

 恐らく光属性魔法の何かしらを使ったんじゃろうが、儂の知識にこんな魔法があった記憶がない。

 つまり、これはオリジナル魔法なのじゃろう。

 全く、ハルの坊主の奥さん達はぽんぽこオリジナル魔法を作りよる。

 

 通常、オリジナル魔法を作る際は、どのように言葉に魔力を込め、どのように世の理に接続するかを考えた上で詠唱を作り上げなければいけない。

 どのように世の理に接続できる詠唱を見つけるか、それが一番苦労するのじゃからオリジナル魔法とは非常に敷居が高い。

 じゃが、目の前の娘は無詠唱でやってのけた。

 魔術師としても、相当高いレベルにいる事が伺える。

 それに剣技もあの一振りを見るだけでそんじょそこらの剣士より遥かな高みにいるのは理解できた。


 まさに、天才じゃ。

 まだ伸び代がある天才が、儂と対峙している。

 ――死ぬかもしれん。

 儂の頭の中にこの言葉がよぎった瞬間、冷や汗が吹き出た。

 そう、あの一撃は負かす為の斬撃ではない、儂を殺す為の斬撃じゃった。


(こりゃ、下手するとハルの坊主と敵対せざるを得ないかもしれんな)


 あくまで向こうは遊びではない。

 手を抜いたら儂の命が終わってしまう。

 残念じゃが、まだ儂は死ぬつもりはない。まだやりたい事が沢山あるんじゃ。

 奥さんを殺したら、ハルの坊主が敵になってしまう。しかし自分の命と奴を敵に回す事を天秤に掛けたら、やはり自分の命が優先じゃ。

 新婚早々で悪いが、こちらも遠慮なくいかせてもらう。


 この奥さん――いや、レイ・ウィード。

 まさしく儂にとっては好敵手じゃ。

 久々に、儂の全力を出せる相手がいる。


 全身の筋肉が脈打つ。

 年老いた意識が、若返っていくのを感じる。

 思考がどんどん冴え渡っていく。

 心が、踊る!!


「はは、ははははははっ!!」


 楽しい、楽しい!

 相手の性別なんてもう関係ない!

 この勝負、誰に何と言われようが関係ない。

 全力で、勝たせて貰うぞ!!


 この瞬間、儂の体に閉じ籠っていた殺気が、一気に溢れ出したのを感じた。

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