第216話 とある貴族視点


 ――アレクセイ・フォール伯爵視点――


 俺の名前はアレクセイ・フォール。

 この芸術というぬるま湯に肩まで使ってしまった貧弱な国を建て直す為に、今大義の為に動いている男だ。

 レミアリアは軍事を蔑ろにし過ぎた。

 だからヨールデンを叩き潰さず、小国とはなったが今でも存在してしまっている。

 奴等さえいなければ、エルドール大陸は我が国が独占出来ていたんだ。変な情けを掛けずに徹底的に潰せばよかったものを。

 大陸の覇権を握るチャンスすら棒に振り、尚芸術やら音楽やらに力を注ぐ。

 現国王であるドールマンには完全に呆れてしまい、元から薄かった忠誠心は完全に消え失せた。

 いや、むしろ俺こそが奴に代わって王冠を頂く資格があるとすら思っている。


 俺はこの国を強くしたい。

 強くして、他の国から舐められない、むしろ恐れられる強国として存在させたい。

 これは愛国故の思いなのだ。

 

 さて、現在俺は飢饉を人為的に引き起こして三つの貴族を取り込んだ。

 方法は単純、外国へ行く商人を装って領地内の食料を買い占める。その後は徹底的に行商人を襲って食料が一切入ってこないようにする。

 他領地へ食料を購入しに私兵を行かせるものなら、彼らには永遠に眠ってもらってどうしても食料を補給できない状態にしたのだ。

 そして約三週間そのような状態を作った後、俺が満を持して食料を持って支援しに来る。

 餓えた領民は我先にと飯にありつく。

 自分がその後死ぬ事も知らずにな。


 どういう原理かは知らんが、人は空腹すぎると食事をすると死ぬらしい。

 俺が趣味の拷問をしている時に、偶然見つけたものだったのだ。

 拷問をしている人間に食事を与えなかった場合、どれ位生きられるかを見たかったのだ。

 俺の領民一人を適当に誘拐し、早速実験。

 すると意外な事に、二週間は生きているではないか。

 俺はそいつの根性に敬意を払い、とびっきりの食事を与えた。

 奴はそれはそれは感涙に浸りながら食事をしていたさ。

 しかし奴は死んだ。

 試しにまた領民一人を拐って同様の事をした。

 やっぱり死んだ。

 俺は人間の体はそういう風に出来ているのだと判断し、以前から計画していたクーデターを実行する事にした。

 まずは兵力に力を注いでいるアルディア子爵家、ファーレンス男爵家、ガルディス子爵家の兵力をそのまま頂く。

 俺の私兵は四千五百程所有しているが、王都に攻め込むには少なすぎた。

 だからこの三家を飢餓状態にして、支援するふりをして領民を毒もなく根こそぎ殺す。

 恐らく奴等は兵力を削ぐ訳にはいかないから、領民より私兵を優先する筈だ。私兵達は飢餓状態にはなっていないだろうと推測した

 まぁ、俺の予想通りに動き、俺の支援に感謝したが領民はほぼ死亡。収入はゼロに近くなったのだ。

 そこでさらに資金援助を持ち掛ける代わりに、俺の傘下に加わらせた。

 領地がそのままゴーストタウンになってしまえば、爵位は没収。ただの平民となってしまうから奴等は俺の条件を飲んで資金援助を受けた。

 ちなみにこの援助資金は《武力派》から条件もなく支援を持ち掛けて来たので、有り難く使わせて貰った。

《武力派》が様々な戦争ビジネスを興しているのは知っている。正直胡散臭いが利用できるものは利用しようではないか。

 こうして俺は、莫大な資金援助に兵力も増え、食料も三家から根こそぎ奪って蓄えはある。着々とクーデターを起こす準備は整っていた。


 そして俺は今、自分の屋敷で悠々自適にとある報告を待っていた。

 報告とは、英雄と騒がれているハル・ウィードという若造の領地、ウェンブリーの偵察だ。

 個人の武も相当なものを持っていながらも、音楽に対しても他の追随を許さぬ程の才能を見せて成り上がった元平民だ。

 最近ようやく領地を開門したばかりだから、恐らく私兵もそんなに練度はない筈。

 ならば統率も取れていない筈だから、潰すなら今の内なのだ。

 ただし、ハル・ウィードとバンドに関わっているメンバーは生かして捕らえ、俺の元で資金源として働いて貰えばいい。

 所詮戦は兵力の数だ。いくら個人で武が優れているとはいえ、数は覆せない。


「くくくっ、俺が王冠を貫くのも時間の問題やもしれんな」


 王都リュッセルバニアには、兵士は一万とちょっとしかいない。

 後は貴族達の私兵を都度招集をかけるという、実に非効率な事をやっている。

 そんな事だと緊急時に満足に兵は集められない。これこそ俺が代わりに王になろうとした原因だ。

 何が芸術だ。懐が暖まっても、他国に牽制を掛けられやしない。

 国には強大な武力こそが必要なのだ。


 俺は赤ワインを一口飲み、陽気な気分に浸っていた。

 すると、部屋の扉が叩かれた。


「領主様、入っても宜しいでしょうか?」


 報告か。それにしてもやけに焦っているようだな。

 俺は入れと許可すると、偵察に出していた兵士が汗まみれで入室してきた。

 綺麗好きな俺としてはこやつの汗で床が汚れるのは非常に腹立たしいのだが、今はそれより報告だ。


「ご報告致します! 開門した音楽の街ウェンブリーを偵察してまいりましたところ、奴等、とんでもない事をしておりました!」


「とんでもない事? 詳しく話せ」


「はっ! 奴等は街の近くにある平地にて、ライジェル・グローリィとログナイト・カーリィ、そしてハル・ウィードの三家で軍事演習なるものを行っております!!」


「ぐ、軍事演習だぁ!?」


「は、はい! 何でも、有事の際は協力体制を取れるように戦を想定して、三家で連携を取れる訓練をしているのだそうで」


「何だと……?」


 軍事演習?

 そんな事は普通、貴族間でやらないぞ!

 しかも、グローリィ家とカーリィ家はその人望と名声で屈強な兵士が集まっていると聞いた。兵力だって相当なものだそうだ。

 そんな三家が組んだら、俺の今の兵力では足りない!

 数で潰すならば、もっと揃えなくてはいけないではないか!!


 ……畜生、計画に大幅な修正が必要だな。


「おい、貴様」


「はっ!」


「今からとある奴に手紙をしたためる。それを無事に、そして速く届けるのだ」


「はっ、我が命に代えましても!!」


 ふん、貴様の命なんかどうでもいい。

 本来は《武力派》にこれ以上力を借りるつもりはなかったのだが、仕方ない。

 奴等の商売の一つである《傭兵派遣》で、兵力を借りようではないか。

 そうすれば、奴等三家が一緒になったとしても叩き潰せるだろう。

 

 ハル・ウィードめ、平穏な時は延びたがこのままでは済まないと思え。

 絶対に、貴様を手に入れて、俺は貴様を踏み台に王冠を貫いてやる!

 俺こそが、王に相応しいのだと、証明してやるのだ!!


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