第197話 お城でのライブ直前!


 さらに一週間が経った。

 何だかんだで辛うじてだけど、貴族科に慣れてきた。

 少し変化があった。

 学ぶ事が精一杯でクラスメイトと一切交流ができなかったんだけど、互いに余裕が持てたからなんだろうけど、ようやく交流を始めた。

 まだ自己紹介やお互いの家の特徴とか、そういった話しか出来ていないけど、少しずつ雑談が増えてきていた。


 そして今日は、お城でのライブの日!

 戦争があったせいでかなり延期になっちまったけど、ようやく開催出来るんだ。

 お城でのライブは前世で言うならば武道館のソロライブと同じ位名誉なんだそうだ。

 まぁ俺のツテでお城でライブが出来るんだけど、本来だったら名声や実績が伴っていないと開催が許可されないらしい。

 身内という贔屓目を抜いても、俺達のバンドは十分にそれに値するから王様親父も許可してくれたんだけどね。


「憧れのレミアリア城でのライブだよぉ、緊張するよぉ!!」


 忙しなく動いているミリア。

 元々城でコンサートをしたいって夢見てたからな、今日それが叶うんだ。

 だからと言って浮かれる訳ではなく、しくじれないというプレッシャーから、相当緊張しているようだ。


「ほら、座って深呼吸しよう。今そんなに動いていると、ライブ中にバテちゃうよ?」


「う、うん。ありがと、レイスっち」


 爽やかイケメンのレイスも緊張はしているが、椅子に座って何度もセットリスト演奏順を確認していた。

 そんなレイスを見て落ち着きを取り戻したミリアは、レイスの隣に座って同じように歌詞のチェックを始めた。

 うん、ミリアも少し持ち直したな。


「ああ、早く皆の黄色い声援を、この身に受けたい♪」


 うん、レオンはぶれてねぇわ。

 緊張すら微塵に感じず、むしろ楽しみで仕方無いらしい。

 元から目立つ事、特に女の子から注目される事が大好きだからな。

 

 オーグは本当に落ち着いていて、自分が扱う機材の最終チェックをしていた。

 前のライブで吹っ切れて、程よい緊張で済んでいるのだとか。

 そういう部分は本気で凄いって思うわ、こいつ。


 かくいう俺は、正直緊張している。

 前世も含めてこういうライブを経験したのは、前この異世界でやったライブ一回のみ。

 偉そうに色々言っているが、ライブ初心者なんだよ、俺は。

 その場その場のノリで演奏している感じなんだよ。

 でも、きっと大丈夫だ。

 俺なら……いや、俺達ならきっと大丈夫だ。


 昨日の夜に、ライブのリハーサルを行って万事問題なし。

 曲のクオリティも完璧に近い。

 それを本番でしっかり発揮できるかどうかだが、大丈夫だろう。

 今回のライブはお城でやるという事で、前々からカロルさんにとある舞台仕掛けを作って貰うように依頼していた。

 それらが出来たのが本当一昨日で、ギリギリ間に合ったんだよ。

 途中からアーリアも協力して、今回のライブはあちこちで様々な魔道具が用意されている。


 ちなみに、大体の仕掛けを考案したのはアーリアで、その協力料で結構な額の金を稼いだらしい。

 報酬の三割は自分のお小遣いとして懐に入れ、残りは領地運営に使って欲しいと渡された。

 当然突っぱねたんだけど、アーリアが「受け取ってくれないなら、わたくしとの夜伽は無しですわ」と言われてしまったので、渋々受け取った。

 嫌だよ、アーリアとエッチできないなんて死んでも嫌だ!


 今回のライブはVIP席を用意した。

 一般客は皆ステージを取り囲むような席なんだけど、VIP席はそれらを見下ろせるんだ。

 この席は販売しておらず、俺達バンドメンバーが招待した人だけが入れる、特別な場所。

 だからそんなに席の数は多くなく、大体百人位しか座れない。


 俺は父さんと母さん、そして三人の嫁達のご家族を招待した。

 アーバインを招待したのだけど、最近あいつは体調がよろしくなくて寝たきり状態。行きたいとは言っていたが厳しそうだったので、後で特別な品を送る事にした。

 他のメンバーも自分の家族や友達を招待したようだ。

 そうだ、他にも俺は招待した人がいる。


「ハル・ウィード。この度はライブとやらに招待してくれてありがとう。貴族科を代表して御礼申し上げる」


 マーク先生とクラスメイト全員だ。

 どうしてもライブ前にお礼が言いたいという事で、舞台裏を通したんだ。

 マーク先生はいつも通りの無表情というか厳格そうな表情だけど、クラスメイト達は物珍しそうにきょろきょろ周りを見ていた。


「いえいえ、こちらこそ来て下さって有難う御座います」


 俺が頭を下げると、《親友達ディリーパード》メンバーが戦慄していた。


「ね、ねぇ、レイスっち。あのハルが、国王陛下にもとんでもない態度を取っているあのハルが、頭を下げてるよ!?」


「う、うん。そんなにあの人は凄い人なのか」


「今日のライブ、こりゃ失敗に終わるな……。何か良くない事が起きる」


「レオン、開始前に不吉な事を言うな……」


 好き勝手言ってくれてるなぁ、こいつら。

 するとマーク先生が俺の肩に手を置いた。


「貴様、普段からどういう態度を取っているのだ?」


「い、いやぁ。別に俺は普通に、自然体に接しているだけですよ?」


「……王族に自然体。下手すると不敬罪だからな?」


 深く溜め息を付いた後、城内アナウンスが流れる。


『後十五分で《親友達ディリーパード》の第二回目のライブを行います。ご来場頂いているお客様は、お手洗い等を早めに済ませた上で着席してお待ちください』


 おっ、もうそんな時間か。

 マーク先生とクラスメイト達もアナウンスを聴くと、俺に軽く会釈をしてVIP席に戻っていった。

 

 ちなみに今回のライブの客層は、約七割が移民でその他が王都にいる国民と貴族という事だ。

 あまりの人気で抽選となったんだけど、応募が何と三十万以上!

 予想外過ぎて急遽王都の公園という公園、広場という広場を借りてそこを別会場とした。

 映像を写し出す魔道具を使って、ライブ映像をリアルタイムで楽しめるという形にした。

 勿論チケットを購入した上で入場となっているので、ライブ映像が他から見えないように天幕で左右と後ろは隠してある。

 おかげでチケットは想定以上の売上となり、カロルさんは高笑いしていた。


 さぁ、俺達も準備をしよう。

 俺が皆に視線をやると、皆も立ち上がって俺に近付いてきた。


「今日、歌手達の夢の場所であるお城で、俺達がライブをやる事が出来た。これも皆の協力のおかげだ、本当にありがとうな」


 俺は《親友達ディリーパード》の皆に頭を下げた。

 するとミリアが俺の肩をポンポンと手で叩く。


「それは私達の言葉だよ、ハルっち! 普通に歌手やってたら、十年以上も掛かっちゃう道のりを、最短でここまで来ちゃったんだもん!」


「そうだよ、ハル。俺達は君の計画に乗ったおかげでこの場所に立てている。俺の実力だけじゃ立てない夢の舞台だよ」


 ミリア・レイスカップルが俺に微笑んでくれた。


「そうそう! オレがこんなに目立てるのは、ハルが舞台を用意してくれたおかげなんだぜ?」


「私もこのような形でライブに関わるとは、夢にも思っていなかった。私はただただ、ピアノを広めたかっただけだしな」


 レオンは俺の頭を軽く叩き、オーグは背中を強めに叩いてきた。

 確かに俺が考え付いたのを実施している事が大半だ。

 でも、それが出来ているのは、本当に皆が自主的に協力してくれているからなんだよ。

 しかも最近だと、自分で進んで作詞作曲にチャレンジしようとしている。

 演奏技術も皆向上してきているから、作曲した曲はさらにハイレベルな楽曲となってるんだ。

 今回このライブの為に作った曲の内二曲は、オーグとレオンが一曲ずつ書き下ろしたんだ。面白い曲になってて、俺は結構気に入っている。


 こんなにも皆が、《親友達ディリーパード》の為に動いてくれている。

 成功しない訳がない!


「なら、このライブも成功させて、伝説として後世まで語ってもらえる程にしてやろうぜ!!」


『おう!』


 俺達は肩を組んで円陣を作って気合いを入れた。

 大丈夫だ、間違いなく成功する。

 だって、こんなに素晴らしいメンバー達で作り上げた曲なんだからな!

 俺達はステージに向かって歩き始めた。

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