第146話 芸術王国流文化侵略ノススメ ――魅了――
今現在、ミリアが歌を歌っている。
演奏している曲は、日本語で言うなら《痛いの×2、とんでけー☆》って名前だ。
えっ、俺が考えたのかって?
残念ながら違うんだな。
作曲は俺なんだが、ミリアが「私、作詞やりたーい!」って言ってきたから任せたら、「こんなふざけた感じになっちゃってごめんなさい」と涙ながらにこの詞を提示してきたんだ。
よく言ってド直球。悪く言って語彙力がないこの歌詞なんだが、俺はガッツポーズした。
だってさ、下手なアイドルより可愛いミリアがこれを歌ったら、容姿とベストマッチし過ぎてて絶対に面白いって思ったんだよ!
実際に子供達も超ノリノリだし、その親御さん達も子供と一緒にノッてくれている。
ミリアの容姿に惚れ込んだ観客なんて、アイドルオタクに目覚めちまったようだしな。
「ふ、ふざけた歌詞なのに、何でこんなに胸がときめくんだ……」
「ミリアちゃん、可愛いなぁ!」
観客からは大筋こんな声が聞こえる。
そりゃな、元気一杯に全身を使って躍りながら笑顔で歌っているんだ、可愛い子の笑顔は破壊力抜群だった。
ちなみに歌詞の内容は、「転んだり怖い魔物に襲われて痛くなったら呪文を唱えるんだよ。『痛いの痛いの、とんでけー!』」だ。
子供ウケしやすいし、本当に直球でシンプルで分かりやすい。むしろ聴きやすいんじゃないかな。
そんな観客の反応が楽しくて、演奏している俺達も自然と笑顔になっちまってるけど。
さて、ミリア作詞の《痛いの×2、とんでけー☆》は盛況の内に終了。
ミリアメインボーカルの二曲目を演奏し始める。
曲名は《恋焦がれ》だ。
ミリアに「私も格好良いの歌いたいーっ!!」とねだられた結果、仕方なく俺が作詞作曲した曲だったりする。
今まで演奏した曲はへヴィーサウンド中心だったが、やや音を軽くしてしっとりとした曲調に仕上げた。
胸に秘めた想いを伝えようとする前に、想い人は遠くへ言ってしまった。ただ一つ、絶対戻ってくると約束をして。
この約束を守っている内に想いはどんどん膨れ上がっていき、その辛さを口に漏らしているというのが、この曲の内容だ。
歌い始める前に、ミリアはツインテールをほどく。
うえっ? 俺そんな演出頼んでないんだけど!
すると、髪を下ろしたミリアが俺の方をちらっと見て、小さく笑う。
うっわっ、何か急に大人びて俺がドキッとしちゃったよ。
でもあいつ、絶対何か企んでやがるな?
ちなみに、マイクもアーリアが開発してくれた魔道具だ。
残念ながらこの世界は、音に関する魔道具は一切なかった。だからこれもお願いして作ってもらっていたんだ。
アーリアの奴、本当に楽しそうに作るんだもんな、あいつはこういう開発に向いているのかもしれない。
ミリアがマイクに手を添える。
彼女が息を吸う音が、しんとした会場にも聞こえる。
曲の出だしは、ミリアのアカペラからだ。
さっきの曲とは全く違うジャンルになり、ミリアの綺麗で可愛い歌声は、ちょっと低めにすると一気に悲壮感が高まる。
そして何より、ミリアは曲に感情移入出来る人種で、曲に合わせて表情を作る。
《恋焦がれ》に関しても、悲しそうな表情をして歌っている。
さっきまでの元気な彼女と違う一面を見た観客は、息を吸う事すら忘れて観入っている。
俺達も彼女の声を消さないように、静かに演奏を始める。
想い人を待つのが辛いというのが曲調でも分かるように、静かに、静かに音を奏でる。
すると、ちょっとした異変が起こる。
ミリアが歌っている歌詞が違っているんだ。
(はっ? 俺こんな作詞してねぇんだけど!)
そう思った瞬間、さっきミリアが俺の方を向いて小さく笑った姿を思い出した。
まさか、ミリアの奴、即興で替え歌にしてやがるのか?
想い人を待つ歌ではなく、恋に破れて悲しんでいる女の子の歌になったんだ。
大人びている年下の男の子に気が付いたら恋をして、一緒に過ごしていく内に気持ちは大きくなっていく。
でもその相手にはすでに恋人はいる。
とても辛くて涙して、それでも想いは構わずに膨れ上がっていく。
とうとう想いを伝えるが、告白を断られて振られてしまうという内容。
……あれ? なーんか、身に覚えがあるんだが。
レイスが俺をじっと見ている。
あっ、やっぱりか。
俺がミリアを振った時の内容だよな、これ。
何かね、ちょっとドラム叩きながら気まずく思っちゃってるんですけど……。
歌詞の一つ一つが全部身に覚えがある事ばかりで、尚且つその時のミリアの心情を今、歌で教えて貰っている訳で……。
あのね、ちょっと俺にもダメージ来るんで、やめてもらえませんかね?
ミリアの悲しそうな表情と歌詞に共感したのか、女性の観客達がすすり泣いている。
何かさ、これ前世でも見た事あるような気がするなぁ。
お願いだから共感しないでくれ。まるで俺が酷い男のようじゃないか!
……複数の女と付き合ってる時点で酷いか。
そして、曲の最後にこのフレーズ。
「今だけでいいの。今だけでいいから、私を抱き締めて……。そしたら、明日には、友達に戻るから」
うん、言われたわ、ミリアに。
このフレーズを言われた瞬間、俺は「ぶっ!!」と吹いてしまった。
本当、とんだ不意打ちだぜ……。
見事歌いあげたミリアは、観客から拍手喝采を頂いた。
特に女性からは特大な拍手を贈られていた。
くっそぉ、してやられたわ。
次の曲ではボーカルがミリアからレオンに変わる。
その時に俺の方を向いたミリアが、小さく舌を出してウインクしてきた。
……ぜってぇ仕返ししてやる。
「待たせたな、子猫ちゃん達♪」
レオンがそう言った瞬間、会場は黄色い歓声で爆発した。
……素でそれ言う奴、初めて見たぞ。
でも、レオンの容姿のおかげか、女性のウケは半端なかった。
まぁチャラいけど、普通にカッコいいからね、レオン。
レオンが歌う曲のタイトルは、《
とにかくこいつには公然猥褻よろしくなエロい歌を歌ってもらいたかったんだよね。
試しに歌詞を見せてみたら、「えっ、これファンの子を誘って寝ていいって事?」と斜め上な解釈をされてしまった。
つまりノリノリで歌わせてくれと言われた程だ。
歌詞の内容は、『一回戦終了後に照らされた女性の乱れた裸体があんまりにも美しいから、今夜は寝かせないぜ♡』ってな感じ。
まぁ《ジャンヌ・ダルク》とかが歌いそうなエロい歌詞だが、レオンが歌うと逆に様になる。
最前列にいた女性に対して、熱視線を送りながらまるで誘っているかのように歌い、その子をメロメロにしてしまった。
女神様はと言うと、さっきまで楽しそうに跳ねていたのに、仏像のように無表情だった。
「私、やっぱりチャラい男は嫌いです」
頭の中に響いた女神様の声。
そこまでレオンを毛嫌いしなくてもいいじゃん……。
でも、女性の大半は随分とレオンに骨抜きにされたようで、皆表情がうっとりしていた。
レオンはこうやって女性を口説いているんだな。
続いて二曲目は、激しいロック調で《魅惑な月》だ。
実は裏設定で一曲目の続編っていう設定だ。
一晩中女を抱いたが、翌日になっても熱が冷めない。
月は三日月だったが、そのカーブが女体に見えてまた女性を抱く為に会いに行くって内容。
我ながらぶっ飛んだ曲を作ったなって思ったが、レオンにはぴったりだったりする。
これも女性達になかなかウケた。
びっくりする位ウケた。
「レオンさまぁぁぁぁぁっ、私を抱いてぇ!!」
って叫んでいる女性が結構いる。
その声に応えるように、歌いながらウインクするレオン。
さらにハートをキャッチされたようで、女性達の顔は蕩け切っている。
……ちとエロいな。
レオンがボーカルの時は、終始黄色い歓声が飛び交ったライブとなった。
レオンの出番が終わって引き下がる際、「愛しているよ、子猫ちゃん達」と投げキッスをしていた。
うん、チャラいってよりキザだ。
でも、非常にウケていた。
イケメンってズルいね……。
さぁ、最後二曲となった。
ラストを飾るのは、俺だ。
ドラムはレイスに任せ、ベースはレオン。そしてレオンが使っていたギターは俺が持った。
ふと、顔を上げて観客達を見る。
さっきまではドラムだったから、皆とは一歩下がった所で見ていたが、前に出ると景色はガラリと変わってくる。
観客の視線が、俺に一点に集まったんだ。
……ははっ、やっべぇ。
何かめっちゃくちゃテンションが上がってきやがる!
身体がゾクゾクする。
胸から熱いものが込み上げてきて、今すぐ大声にして吐き出したい気分だ。
もうさ、早く歌いたいんだよ。
前世では出来なかったバンドによるライブってのを、この異世界で味わっている。
本当に、最高の異世界ライフだぜ。
「行くぜ、親友達」
『おうっ!』
俺達は、フィナーレに向けて音を奏で始めた。
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