第113話 予定の詰まった一日 ――親友再会編5――


「――そうそう、ここでこう演奏してみてくれ」


「う、うん」


「ハルっち、私はこんな感じで演奏すればいいの?」


「どれどれ? ――――いいねいいね、そんな感じでいいぜ」


「私はこれでいいのか?」


「おう、オーグもそれでいいぞ。後は即興で好きにやっていいぞ」


「ハル、オレは?」


「お前は暴走するから、お任せで!」


「オレだけ扱いが酷くね!?」


 俺は一人一人にこういう風に演奏するように指導をした。

 皆下地が出来ているから、すんなりと思うように弾けている。


「んじゃぁ、今からいっせいので演奏を始めるぞ。準備はいいか?」


 皆が頷いて返事をした。

 レイスもミリアも、オーグも結構緊張している様子だ。

 レオン一人だけは、早く弾きたいって顔をしている。

 こいつはやっぱり人の前で演奏できる肝っ玉を持っているし、素晴らしい度胸もあるから、バンドマン向きだなってつくづく思う。


「いいか、俺のドラムの音をしっかり聞いて、リズムを合わせるんだぜ?」


 流石に皆は生まれて初めて見たドラムの下地がないから、俺が演奏する事になった。

 

「いくぞ! ワン、ツー、ワンツー……」


「ち、ちょっと待った!!」


 カウントを始めたらレイスからストップがかかった。


「なんだよぅ、レイス」


「ごめん、何だい? その《わん》とか《つー》とかって」


 おっと、素で前世の言葉を使ってしまった。

 こっちの言葉だと数字を表す言葉も無駄に長いから、カウントし辛いんだよなぁ。

 まぁいい、ここは俺の言葉に皆が合わせる方向でやってもらおうか。


「ああ、異世界の数字だ。字数が少なくてカウントしやすいからこっちを自然に使ってたわ」


 俺は音属性の魔法を通じて、異世界の音楽と共に言葉も覚えた設定にしてある。


「へぇ、確かに字数少ないね。わんっていうのは、一って意味かい?」


「そうそう。俺が《フォー》って言ったら、演奏開始だ。皆、いいか?」


「俺は大丈夫だよ」


 レイスは言葉で前世のカウント方法を肯定してくれて、他の皆も頷いた。

 よし、なら改めて再開だ!


「よっしゃ、行くぜ! ワン、ツー、ワンツースリーフォー!!」


 俺と皆が同時にそれぞれの演奏を始めた。

 レオンがリードギター、ミリアもギター、レイスがベースでオーグがシンセサイザー。

 演奏している曲は、アーバインの《葬送》を俺が即興アレンジを加えたやつだ。

 親友の死に対する悲しみを表現した曲だが、バンドアレンジだと表情がまた変わる。

 この曲はリューン、つまりフォークギター一本で演奏されていたから、単純に音の厚みが薄かった。

 それがバンドアレンジにすると――


「こ、これが……《葬送》?」


 レイスが演奏しつつも、驚いていた。


「何て言うか、悲しい気持ち一辺倒だった《葬送》に、泣いている光景が浮かぶっていうか」


 さすが感受性豊かなミリア。

 原曲の《葬送》は、死に対する悲しい気持ちを表現していた。

 だけど、魔道リューン、つまりこぶしや音を歪ませられるエレキギターだからこそ、悲しみの後に襲ってくる慟哭を表現できるんだ。


「しかし、この一体感は何とも表現しにくいが、素晴らしいな……」


 オーグは悦に入りながら演奏している。

 そうだ、これがバンドの醍醐味だ!

 一人で弾くんじゃない、皆が一体になって演奏する事で、音に厚みが増すだけじゃなくて不思議な高揚感も生まれてくるんだ。


「ははっ、オレ、これ気に入ったぜ!!」


 早速暴走一歩手前になっていやがるぜ、レオン。

 でもレオンとエレキギターは本気で相性がいいみたいだ。

 軽くアームの使い方を教えただけで、魔道リューンをギュインギュイン鳴かせている。

 うん、こいつはメインギターで全然問題ないな。


「よっしゃ、スピードアップするぜ!!」


「「「えっ?」」」


 俺のスピードアップ宣言に、レイスとミリア、オーグが軽く驚いていた。

 

「イエーイ、どんとこい!!」


 ハイになっているレオンはノリノリである。

 俺はドラムを叩くスピードを早くする。

 今まではスローテンポなバラードだったが、早くする事でロックサウンドの出来上がりだ。

 皆が必死になって俺のテンポについてくる。そして案の定レオンが暴走した。

 教えてもいないライトタップ奏法を屈指してアレンジを加え始めたんだ。


「やっべ、オレ今チョーやっべ!」


 うん、頭がハッピーになっていて、結構ヤバイね。

 何か変なクスリをキメたんじゃないかって位、表情が蕩けているよ……。

 ごめんな、レオン。親友でも流石に引くわ。

 

 でも、ああ。いいなぁ、すごく心地いい。

 前世ではこうやって演奏できる友達っていなかったなぁ。

 皆、俺の習得スピードに付いていけず、音楽から離れちゃったんだ。

 だから一人で黙々と作曲をして、ネットにアップをし続けた。まぁおかげで業界のお偉いさんの目に止まってプロ作曲家デビューした訳なんだが。

 まさかこの異世界で、バンドを体験できるなんて思わなかったぜ。

 こんな風に出来るのも、音楽に真剣に向き合っていて、心を許せる友人だからこそなんだろうな。

 本当にありがとうな、俺の無茶を聞いてくれて。

 大好きだぜ、最高の親友達!

 

 俺達は夜遅くまで演奏し続けた。

 あまりにも楽しくて、皆で騒ぎながら時間も忘れて弾きまくった。

 流石に帰らないといけないようで、解散となった。

 週に一度は俺の家で集まって、練習するという事になった。


 帰り際にミリアには課題を出しておいた。


「ミリア、練習として、リューンを演奏しながら歌えるようにしとけよ」


「ふえっ!? それ、結構難しくない?」


「俺は出来る。やれば出来る! 頑張れ頑張れ!!」


「無駄に暑苦しい!」


 ミリアが面倒そうな顔をしていたけど、目はイキイキとしていた。

 こいつ、多分もっと音楽に関しては上手くなるぞ。

 意外とこのバンド、すごいことになるかもしれない。

 皆が今後の事についてわいわいと言いながら帰宅していく姿を見送りながら、胸の中のワクワク感を抑えるのに必死だった。


「っはぁぁぁぁっ、しっかし疲れたわぁ!」


 俺は自室に戻ってベッドに倒れ込んだ。

 本当に予定をぎゅうぎゅうに詰め込み過ぎたから、結構精神的にも肉体的にも疲労が溜まってたりする。

 家庭教師は明後日からスタートで、明日は一日予定が空いている。

 何しようかなぁ?


「……レイとリリルは、どうしてるだろうな」


 ふと、愛しい二人の笑顔が思い浮かんだ。

 はぁぁぁぁぁ、手紙も出さないとか本当に辛いんですけど!

 今からでも村に帰って、二人の温もりを俺の体に刻み込みたい。

 それ位に愛しいと思っているんだ。

 

 だけど、レイとリリルは俺と添い遂げる為に、二年俺と会わないで自分を磨くと言っていた。

 俺自身はそんな大した事をしているつもりはないんだが、第三者視点から見たら相当な事をしているらしい。

 前世で俺に音楽仲間が出来なかった理由も、今になって考えてみたらそういう所から来ているのかもしれないな。

 でも、俺に食らいつこうとしてくれる二人の女の子がいてくれる。

 こんな俺を愛してくれて、さらに尽くしてくれる王女様もいる。

 俺と音楽の喜びを共に感じてくれる親友達もいる。

 俺は今、十分前世より幸せだと、恵まれたと感じているんだ。


 だから、改めて誓おう。


「俺は、全力で生き抜いて、今度こそ納得して死んでみせるってな!」


 前世のような気が付いたら死んでいたっていうのではなく、全てやりきった形で人生を終えたい。

 全力で足掻いて泥まみれになってでも生き抜いて、笑って死のうじゃないか。

 二度目の人生を、思いっきり満喫してやる!!

 俺はそう誓うと瞼が徐々に重くなっていくのを感じた。

 うん、今日の俺はめっちゃ頑張った。

 そのまま目を瞑って、意識を手放した。

 おやすみなさい。

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