第110話 予定の詰まった一日 ――親友再会編2――


 この世界では、指輪を着けるというのは婚約済みという意味なんだそうだ。

 前世だと付き合ってても指輪とか着けてるから、「あ、恋人いるのかな」程度だったんだが、こっちの世界の方が意味合いは重い。

 もちろん結婚の意思がなかったら指輪を着けなくてもいいし、断ってもいい。

 つまり、ミリアが今薬指に着けたって事は、両者共に結婚を前提に付き合っているって事だ。


 ってかさ、早いだろお前達!

 まぁでも十二歳で成人で結婚も出来るし、この世界の子供は皆成長が早いから、妥当……なのか?

 どうしても前世の常識と照らし合わせてしまうから、色々突っ込みたい所ではあるが、まぁこの世界がオッケーならオッケーなんだろうね。

 こういう時が本当に前世の記憶持ちの弊害だなぁって思っちまうな。


 とりあえず、指輪の事をいじるか!


「ってかさ、もう婚約してるのかよ! 気が早えぇな」


「んふふ、いいでしょ!


「う、羨ましくないんだからね!!」


 くそぅ、いじろうと思ったら満面の笑みで返してきやがったから、逆に羨ましくなっちまったじゃねぇかよ!


「レイスっちがね、指輪をくれて結婚しようって言ってくれたの。私もまだ早いなぁって思ってたんだけど、言われてみたらすっごく嬉しくて、こちらこそお願いしますって返事してた!」


「随分幸せそうな事で」


「そういうハルっちは?」


「……えっと」


 やっぱ聞いてくるかぁ……。

 まぁこいつには包み隠さず話しても大丈夫だな。

 俺はレイとリリルが花嫁修行の為に成人まで俺と距離を取った事、そこにつけこんだようにアーリアに猛烈アタックを掛けられている事を伝える。


「……あんた、それ世の男全てを敵に回す発言だよ?」


「……やっぱり?」


「そうだよ! ハルっちの隣に今後いる為に頑張っている可愛い二人の女の子に、あの男子共の憧れであるアーリア姫様からも惚れられてるって、普通ありえないからね?」


「へぇ、アーリアってそんなにモテてるんだ!」


 それは知らなかった。

 まぁまるで人形のような容姿をしているからなぁ。

 

「そもそもハルっちと付き合える女なんて、本当数少ないからね?」


「……父さんからも言われたな、それ」


 よく考えてみたら、王族と繋がりがあって、音楽業界で超有名な貴族とも仲が良い一般人ってなかなかいないよな。

 でもさ、会いたいんだよ。

 どうしようもなく寂しいんだよ!

 レイとリリルにめっちゃくちゃ会いたいんだって!


「……はぁ、寂しいぜ」


「えっと、頑張れ」


 くそっ、リア充に励まされると精神的ダメージデカいんですけど……。

 下手するとのろけてきそうだから、話題を切り替えるか。


「他の奴等は?」


「多分もうちょっとでここに着くんじゃない? オーグっち以外は音楽家の先生の元で色々学んでるみたいなんだよね」


「まぁ王都には色んな音楽家がいるしなぁ」


「結構いい刺激になってるみたいだよ? 後、先生達がピアノに挑戦してるけど苦戦してるみたい」


「ああ……」


 やっぱ、難しかったか。

 後でオーグやアーバインと一緒にピアノを普及させる手を考えないとな。


「ちなみにミリアは?」


「私はハルっちが紹介してくれた食堂で、頑張って歌ってるよ!」


「そっか、頑張ってるじゃん!」


「頑張ってるよ! 最初めちゃくちゃブーブー言われて泣いたんだからね!」


 相変わらず、あそこの客はただの歌には厳しいな。

 でも今でも歌っていられるって事は、ミリアは受け入れられているって事だな。

 うん、いい感じに仕上がったんじゃないかな。


 しばらくミリアと雑談をしていると、噴水に歩いてくる三人組の人影が確認できた。

 よく目を凝らしてみると、大人っぽくなったオーグとレオン、そして…………レイス?

 何故疑問系かって?

 だってさ、坊っちゃんみたいな感じだったレイスが、垢抜けたっていうか何て言うか……。

 七三分けは俺が音楽学校にいた時に止めていたけど、しっかり髪をセットしている。眼鏡に関してもちょっとフレームがお洒落になっていて、爽やかなイケメンになっていた。

 いやぁ、しばらく会わない内に随分と変わったなぁ、レイス。

 そしてレオンはさらにチャラくなった!

 金髪を肩まで長く伸ばし、前髪は中央で大きく分けている。

 身長も随分とまぁ伸びていて、細身だから手足が余計長く見える。着ている服もレザー系の黒ジャケットとジーンズだから、より一層ヴィジュアル系のバンドマンの見た目になった。でも女性受けは良さそうだよな。

 最後にオーグは、そこまで容姿は変わっていないが少し体躯が逞しくなったように思える。

 そして着ている服は貴族らしく高貴なロングコートを身に付けていた。

 でも落ち着いた雰囲気のオーグにとても似合っていて、嫌な印象は全くない。

 すげぇな、三者三様のイケメン揃いって感じで、輝かしいオーラが見えるようだぜ。

 

 俺はあそこまでイケメンじゃないから、少し羨ましいぜ……。


「やぁ、ハル。久しぶり。随分と大人っぽくなったね」


「ありがとよ! レイスこそかなり垢抜けたな! ミリアと婚約したからか?」


「あっ、もう話聞いたんだ。まぁ、おかげさまで」


「頑張ったんだな」


「うん、何度か吐いた位頑張ったよ」


 吐いたんだ……。

 気弱なレイスにしては、ガチで頑張ったんだね。

 お父さん、ちょっと涙が出てきたよ。


「よっす、ハル♪ 何かさらに自信に満ち溢れている気がするよ♪」


「レオンこそ、さらにチャラくなったなぁ! 俺としてはありがたいけど」


「ありがたいんだ! お気に召してくれたみたいで良かったぜ♪」


 レオンがウインクしてくる。

 それは女の子に向けてくれ。

 男のウインクはもういらないっての。


「久しぶりだな、我が友よ。もう引っ越しは終わったのか?」


「堅っ苦しいな、オーグ。昨日引っ越し終わらせたところだ。食事が終わったら案内するぜ」


「うむ。色々語りたいからな。今日集まった全員の近況報告をしようじゃないか」


「ああ、楽しみにしてる!」


 オーグは自分が貴族である事を誇りに持っているのか、相変わらずの堅苦しい口調だった。

 でも自然と様になっていて、違和感もないし鼻に付くような感じでもないから全然いいんだけどな。


 全員集まって皆に軽く挨拶をした後、オーグが先頭に立って食事会の会場へと案内してくれた。

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