第76話 王家の秘密


 飛び降りている最中、学校入り口付近で《武力派》の奴等と兵士達が戦っていた。

 人数的にも戦況的にも兵士側が優勢だった。

《武力派》の人数は残り少なく、その生き残り以外は全てその場で討伐されたみたいだな。

 まぁ戦いに餓えていたようだし、奴等の最期としては本望だったんじゃないかな。

 俺は地面に着地した後、《ブースト》による身体強化を活かして全速力で校庭を駆け抜ける。そして学校の塀をジャンプして飛び越えた。


「ハル!!」


「父さん!?」


 着地をした所に、父さんがいた。

 どうして父さんがここに?


「よかった、無事だったんだな」


「おう、余裕だぜ。ってか、父さんはどうしたのさ?」


「実はな、芸術学校がゴブリン達に襲われてな。偶然居合わせた俺が全部排除してきたんだ。でな、もしかしたら《武力派》が同時にお前の学校にも攻撃を仕掛けてるんじゃないかって思って助けに来たんだ」


「そっか、まぁこっちはなんとかなったけど、それよりもっと問題なのがあるんだ。父さんも一緒に来てくれ」


「どういう問題だ?」


「今は少しでも時間が惜しいから、走りながら話す!」


「わかった」


 俺は城へ全力疾走しながら、ヨハンとの戦闘後に聞き出した情報を伝えた。

 ってか、父さんは普通に《ブースト》で強化している俺に余裕で着いてきている……。

 父さん、いくら魔法が使えないからって言っても、どんだけ鍛えたらそんな身体能力を得られるんですか。


「ちっ、相変わらず連中が考える事は、本当厭らしいな」


「ま、そういう訳でとにかく助け出さないと、戦争大好き第二王子が王様になっちまうぜ!」


「だな。それだけは阻止しないといけない! ハルは遠慮なく《ブレインシェイカー》で暗殺者を殺してくれ!」


「了解!」


 親が子供に敵を殺せと指示するのもどうかと思うが、状況が状況だし仕方ないな。

 俺は父さんの指示に従う。


 俺達が全力疾走して約三分程で城門に到着したが、門番の兵士が二名倒れていた。

 父さんが急いで駆け寄ってみると、呼吸はあるようで、どうやら麻痺毒を打ち込まれたようだ。

 こういうのって殺した方が手っ取り早いんじゃないかと思うのだが、父さん曰く人を斬るより麻痺させた方が体力を温存出来るからとの事。

 確かに、人を斬ったり殺すのってのは、意外に力がいるからな。一人一人排除するってなると、王様を暗殺する前にスタミナ切れを起こしてしまう可能性がある。

 俺だって今何人も斬ってきたから、正直座って休みたい位だ。

 つまり麻痺毒ってのは、最小限の体力消費で相手を行動不能に出来る手段なんだとさ。


「早く陛下の所に行かなければ! 奴等がもう襲っているかもしれない!!」


 俺達は門番の兵士さんをそのままにして、疲労した体に鞭を打ってさらに走る。

 とりあえず俺達は玉座に向かったのだが、そこに陛下達はいなかった。


「父さん、王様達いねぇ!!」


「となったら、恐らく寝室かもしれん!!」


「何でさ!?」


「陛下の寝室は執務室と兼用になっているし、殿下達の部屋に繋がっている通路があると聞く! とにかくそこへ向かうぞ!!」


 どうやら王様は相当仕事熱心らしく、すぐに寝られるように、起きたらすぐ仕事出来るように寝室と兼用にしたようだ。

 俺、王様だけにはなりたくないわ……。


「ったく、今日は武術トライアスロンやってる気分だぜ……」


「とら……? まぁいい、行くぞ!」


 通路を駆け抜ける俺達。

 道中で所々兵士さんが倒れていた。全員息はあるようだ。

 しかしまぁ、いくら警備が手薄になったからって、こうも兵士がやられるなんて情けないんじゃないかな、流石に……。


「ちっ、俺も兵士を訓練しててわかったけど、この国の兵士がどれだけ平和ボケしてるかよくわかった。これはもっとしごいてやらないとな……くくくっ」


 どうやら父さんも同じ事を考えていたようだ。

 しかし、笑顔がドス黒いぜよ、お父様……。

 

 通路の角を曲がった所で、城に入って初めて死体と遭遇した。

 一人は黒装束を身に纏った、あからさまに暗殺者だとわかる奴。首にロングソードが刺さっていて、それが原因で死んだようだ。

 その向かい側には、同様に首元にナイフが刺さっている兵士が、壁に寄りかかって座るような形で死んでいた。

 しっかりと王様を守るという義務を果たした、見事な殉職だと父さんは呟いた。


「兵士はな、何がなんでも王族を守らなきゃいけない。王族を討たれたら、自分の家族にも危険が及ぶからな。王を守るのは家族を守れるのと同じだから、皆命を投げ出しても守るんだ」


 もちろん、そんな覚悟もない奴もいるけどな、と父さんは小さな声で補足した。

 まぁ残された家族だって、死に対する大義名分はほしいと思う。じゃないと、悲しみにうちひしがれるしな。

 確かに平和ボケしている兵士達だけど、命を懸けてまで職務を全うしたこの兵士さんは男としてもすごいと思う。

 俺もずっと、大事な人を命を懸けて守る男でい続けたいと、心から思った。

 俺は心の中で冥福を祈りつつ、先を急いだ。


「そこの部屋が陛下の執務室兼寝室だ!」


 人二人が横に並んでも余裕で通れる程の大きくて豪華な装飾を施されている扉の向こうが、執務室兼寝室だ。

 恐らくここに王様がいる。

 その証拠に、扉の両サイドに兵士さん二人の死体が横たわっていた。

 ドアノブを持って開けようとしたが、びくともしない。

 内側から施錠されちまっているようだ。


「ハル、ぶっ飛ばせ」


「アイアイサー! さぁぶっ飛びやがれ、《ソニックブーム》!!」


 轟音と共に生まれる衝撃波によって、豪華な扉は施錠ごと破壊される。

 作りが頑丈だったから、扉はそこまで遠くには吹っ飛ばなかったけど、これで問題なく入れるって訳だ。


 俺達親子が部屋に入ると、王様と金髪のイケメンが黒装束の男二人に襲われていた!

 王様は派手な装飾がされている剣で何とか黒装束のナイフを受け止めていて、金髪イケメンは右肩を負傷しながらも左手で相手の手首を掴んでナイフが刺さらないように踏ん張っている。


「ハル、お前は陛下を! 俺はジェイド殿下を助ける!」


 あの金髪イケメンも王子か!

 という事は、あれが命を狙われている第一王子って事か。


「ふっ!」


 父さんはジェイド殿下を襲っている黒装束と一瞬で距離を詰め、気合いと共に剣を振り上げた。

 その剣閃は白銀の一閃で、黒装束を縦に真っ二つに斬り裂いた。

 対して俺は、王様を襲っている黒装束の頭目掛けてサウンドボールを発射。

 敵の脳みそ中心にサウンドボールが吸着したのを確認した後、俺は《ブレインシェイカー》を発動させた。

 相手は「ぺきゃひっ!?」と変な声を上げて脳みそを粉々に破壊される。そしてその場に倒れて絶命した。


「陛下、怪我はないっすか!?」


 黒装束を始末した後、俺は王様に駆け寄った。


「大丈夫だ! それより、もう一人の暗殺者がアーリアの部屋へ向かったのだ! 頼む、アーリアを助けてくれ!!」


「っ! わかりました!! 父さん、姫様の所に行こう!!」


「いや、俺は殿下に応急処置をするから、先にお前が行け! すぐに追い付く!!」


「あいよ!」


 姫様の部屋の場所は、一度行ったから覚えている。

 本来今日が演奏する日だったんだがなぁ。

 本当、悉く俺の邪魔をしてくれるぜ、《武力派》はよ!

 走っている途中でついに《ブースト》が切れてしまい、全身がだるくなる。

 だからといって休んでいられない!

 姫様から依頼を受けた演奏は、まだ一度も披露していないんだ。

 それに俺の音楽を気に入ってくれたんだ、死なせたくない!!

 俺は疲労で悲鳴を上げる身体に全力で鞭を打ち、姫様の部屋へ走った。


「くっそ、八歳児に何てハードなトライアスロンさせやがる……。もう《武力派》はフルボッコ確定だぜ、全く……」


 ようやくの思いで姫様の部屋の前に到着した。

 もう、俺も限界だ……。

 これで終わりにしてほしいよ、マジで。

 部屋の扉を開けようとしたら、部屋の中から高笑いする男の声がした。

 まさか、姫様はもう殺された!?

 俺は《ソニックブーム》で扉を破壊して、部屋に飛び込んだ。


「姫様、無事か!?」」


 部屋の中で、黒装束の男が姫様の両手を拘束したまま、まるで狂ったように笑っていた。


「ハハハハハハハハハハッ!! まさか、まさか! 王族から《虹色の魔眼》が生まれてくるなんてな!! くくく、俺達が手を下す必要もない!!」


 虹色の、魔眼?

 俺は姫様の目を見てみた。

 ん?

 姫様の瞳の色が、一色ではなくて角度によって様々な色に変わっている。

 珍しい瞳の色だった。

 でも、これが魔眼?


「そ、そんな……。アーリア姫様が、《虹色の魔眼》なんて……」


「ついに、ついにばれてしまった……」


 後からやってきた父さんと王様が、二人して悲観している。


 そして――


「い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! わたくしの眼を、見ないでぇぇぇぇぇぇっ!!」


 姫様の悲痛な声が響き渡った。

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