第69話 《ミュージックプレイヤー》、本領発揮!
俺の両耳に流れた一曲目。
それは、《チルドレン・オブ・ボドム》の《ヘイトブリーダー》だ。
彼らの二枚目となるアルバムに収録されている、アルバムの名前をそのまま使った曲だ。
ファンの間でもこのアルバムが神アルバムだと言われている程、メロディック・デス・メタルのジャンルとしての完成度は非常に高く、今再生されている曲も例に漏れない。
攻撃的なギターに合わせて心地よくシンセサイザーがハモる。そして当時二十歳だったアレキシ・ライホのデスボイスが、俺の戦闘行動をより獰猛にさせていく。
ちなみにこのバンド名の直訳は《ボドムの子供達》なのだが、名前の元ネタとしては1960年のフィンランドで起きた未解決事件、《ボドム湖殺人事件》である。
あぁ、この狂おしい程好きなギターとシンセサイザーのハモりが、俺の身体を突き動かすぜ……!
「っ! その表情、まさに《猛る炎》だな!」
目の前の変態野郎が、父さんの二つ名を言う。
まるで見た事あるような口振りだな。
ま、今は関係ねぇな!
「はっはーっ!!」
俺は両方の剣を頭上から一気に振り下ろす。
自分の、八歳のガキの身体で出せる、精一杯の全力の力で。
変態野郎は俺の斬撃を剣で受け止めるが、思ったより威力があったのだろう、さっきまで気持ち悪い笑顔を浮かべていたのに表情が曇る。
「おらおらどうした! てめぇが望んだ戦いだぜ! 楽しもうじゃねぇの!!」
「くっ、さっきとは全く攻撃の太刀筋が違うっ!」
そりゃそうだろうよ!
この曲はまさに、俺を高揚させるものなんだからな!
故に攻撃も気持ちが昂って荒々しくなるもんだ!
「ははっ、だが荒々しくなったおかげで、俺もやりやすくなったぞ!」
「そいつはどうかな!?」
変態野郎は受け止めた俺の攻撃を弾こうとしていたから、パリィされる前に俺は奴の腹部にヤクザキックを繰り出す。
そして見事にクリーンヒット。後方に軽く吹き飛ばされた。
「がはっ! 蹴りだと? お前、それでも剣士か?」
「はっ、剣士が蹴りをしちゃいけねぇって誰が決めたよ!? いつ、誰が、何時何分何曜日、地球が何回回った時に言った!」
「ち、ちきゅう?」
「うっせぇ、答えられねぇなら、その口開く前に俺をどうにかしやがれ!!」
そこから俺は全力で攻撃を仕掛ける。
そして二刀流だから出来る、それぞれの剣での同時攻撃は、変態野郎を焦らせる程効果抜群だった。
胴体を水平に薙ごうとする左の剣と、頭を叩き割ろうとしている右の剣。同時に迫られたら焦るしかない。
奴は辛うじて回避するが、俺の剣先が奴の肌に小さく傷を作る。
俺も変態野郎を斬っていない事に満足していないから、さらに攻撃を繰り出す。
「くっ、対処しきれない!」
変態野郎が悔しそうに呟く。
ざまぁねぇな!
だけどな、俺はてめぇを斬れなくてフラストレーションが溜まりまくりなんだよ!
「さっさと俺に斬られろよ、変態野郎!!」
「さっきと様子が違う? お前、何をしたのだ? お前が呟いた《みゅーじっくぷれいやー》という何かか?」
「てめぇは知らなくていいんだよ! 死ねっ!!」
今の俺は曲のせいだろうか、こいつを殺したくて仕方ない。
攻撃がかなり大振りになっているのがわかるが、気持ちが昂って辞められない止まらない。
だからだろう、奴の鋭い目線が輝き、俺の攻撃に合わせて反撃しようとしていた。
やっべ、不味い!
と思った瞬間、《ヘイトブリーダー》が丁度終わったと同時に、俺の昂る気持ちもクールダウンした所で攻撃を中断した。
そして変態野郎の渾身の反撃は、俺が直前で攻撃を止めたせいで空を切る。
あっぶね、後一歩踏み出していたら、俺の自慢のイケメン顔が水平に真っ二つだったぜ。
次に俺の耳に入ってきたのは、《ミスティカル》というラッパーが発表した《ミスティカル・フィーバー》だ。
この曲は俺の大好きなアクション俳優である《ジェット・リー》が主演の《キス・オブ・ザ・ドラゴン》のラストバトルで流れた曲だ。
まるで叫んでいるようなミスティカルのラップと、静か且つ壮大なバックミュージックは、曲調として合わないように思われたがそうでもなく、不思議な調和を俺達に提供してくれる。
そこで思い浮かぶのが、やはりジェット・リーと、そのラストバトルに立ちはだかる敵である、シエル・ラファエリとの激しい攻防だ。
緊迫した攻防のやり取りが、鮮明にイメージとして思い浮かぶ。
俺は、そのイメージに従って、構えを取る。
「……雰囲気が、変わった?」
「……」
戦いに無駄な言葉は必要ないな。
俺は戦闘の構えを崩さないまま、手招きした。
戦いで性的興奮を覚える変態野郎の口角が、獰猛に釣り上がる。
「いいだろう、その挑発に乗っかってやろう!」
全く、よくそこまで無駄口叩けるな。
俺はてめぇが口を開いている間、ずっと全ての挙動に集中しているというのに。
「はぁっ!」
変態野郎が上段から剣を振り下ろした。
ああ、バッチリ見えているさ。
俺はそれを左の剣で受け止めた直後、右の剣で奴の喉目掛けて突く。しかし奴はすぐに自分の剣を引っ込めて俺の突きを受け流す。
だが俺も受け流されるのは百も承知。
すぐに左の剣でさらに突きを放つ。狙う箇所は再び喉だ。
当然それも弾かれる。
さらに俺は右の剣で奴の喉を狙う。
流石に三連続の突きに焦ったのか、大きく後退する。
逃がすわけがない。俺は後退した奴の後を追うように距離を詰め、攻撃を仕掛けようとする。
しかし変態野郎は俺の動きに合わせ、突きを放ってくる。それも俺は折り込み済みだ。
右の剣で奴の突きを防ぎ、左の剣で斬撃を放つ。
「くっ、今度は攻防一体の剣か! お前、どれだけ攻撃の型を持っている?」
辛うじて回避に成功した奴は、驚愕の表情で俺に言った。
答えてやるならば、その曲に合わせた数、とでも言っておこうか。
「……」
まぁ答えるつもりはないから、さらに手招きしてやった。
奴の表情が、少し苛立ちが出てきているな。
そうだ、その調子だ。
その調子でイラついてくれ。そうすれば、攻撃が当たりやすくなる。
変態野郎はだんだん攻撃が荒くなってきた。
いや、俺の攻防一体の剣に対しての手段なんだろう。
俺の防御を力でねじ伏せようとしている。
しかし、俺の剣技はただ力で屈服するような柔な技じゃない。
奴は何度も力で叩き伏せようとするが、俺は柔らかく受け流す。
受け流した瞬間に、もう片方の剣で攻撃を繰り出す。
徐々に回避が難しくなってきたのか、奴の皮膚を薄く斬る回数が増えてきた。
まだ攻撃は深く入らない。
だが、両方の剣の先が、少しずつだが変態野郎の血で染まり始めていた。
しかも気持ち、だんだん深く斬れるようになってきている。
「何者だ……」
「ん?」
「お前は、ただの天才とかではすまない……。何者なのだ、お前はっ!」
何者と言われてもなぁ。
俺はハル・ウィードとしか答えられないんだが。
「剣士の理想型と言われる二刀流をその歳で極め、且つ複数の型を持った剣技を使ってくる……。そんな剣士、普通ではない」
普通じゃない、か。
まぁ確かに、俺は前世の記憶を持った、ガキの皮を被ったおっさんだからな。
人生経験の長さで言えば、この変態野郎よりかは数年は上だし、文明レベルで言えばこの世界より遥かに進んだ地球で暮らしていた訳だ。
「改めて問う。お前は、何者だ!!」
さっきまで戦いに喜んでいた奴の表情は、何処か恐怖しているようだ。
仕方ない、答えてやるか。
俺は《ミュージックプレイヤー》を一時停止し、構えを解いた。
「俺は、ハル・ウィード。《音》属性のユニーク魔法を操り、二刀流の使い手だ」
「音……? ユニーク魔法を、自在に使えているというのか?」
「ああ。この空間にもすでに俺が魔法を仕込んでいてな。全ての音を聞き取れるし、音に関する事だったら全て俺の思いのままだぜ?」
「……なるほど、《音の魔術師》か。お前の攻撃や性格が変わるのも、その魔法のおかげか?」
「まぁな。ちょろっと種明かしするなら、どうやら俺は音楽を聴く事でちょっと性格が変わるみたいなんだよな」
「……全く、俺は何という化け物と遭遇してしまったんだ」
「化け物? 失礼な! いたいけな八歳児のガキだぜ? っつか、何で俺が化け物なのさ」
「お前の歳で、ここまで一方的に大人を弄べる事自体が異常だと知ってほしい。俺の攻撃を凌ぎ、さらにはここまで俺を傷付けた。子供がこんな事出来る訳がないのだ」
「その程度の理由で俺を化け物って言うのか? ただ単に、てめぇの腕が俺より下だったってだけだろう? 俺を化け物扱いして、俺より格下っていう事実から逃げるんじゃねぇよ」
「……言ってくれるな。なら、命を賭けて越えさせてもらうぞ、《音の魔術師》ハル・ウィード!!」
「《音の魔術師》か、いいねその二つ名! なら、改めて名乗らせてもらうぜ」
俺は、改めて戦闘体制を取る。
「音楽を心から愛する《音の魔術師》、ハル・ウィード! あの世で女神様と来世の相談をしなっ!!」
ふむ、珍しく決まったぜ……。
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