第68話 ミュージックプレイヤー


「ははは、たぎるな!!」


「本当、本当に来ないで!! てめぇは生理的に無理!!」


 アレを勃てて剣を振り回してくるこの変態のせいで、怒りが収まって嫌悪感しか出てこないんですが!

 俺はそれを何とか抑えつつ、二刀で攻撃を受け流している。

 本当、もう嫌なんですけど。帰りたいんですけど!


「楽しい、楽しいぞ!! その歳ですでに受け流しが出来るとは、まさに天才! まさに絶好の獲物!!」


「もうヤダこいつ! 本気でキモくて泣きそうなんだけど!!」


「お前だって楽しいだろう? 剣とは殺し合って初めて活きるものなんだ!! こんなに興奮できるんだ!!」


「こんな命のやり取りで勃起しているてめぇとは違って、俺は殺し合いじゃ興奮できねぇよ! 興奮するなら女の子の裸が健全な男の子だろうがよ!!」


「はっ、そんなのは仮初めの快楽に過ぎん。真の快楽とは死闘の末に生き残る事だ! 女の裸で興奮するなんぞ、俗物がする事だ!!」


「本当、もう勘弁してください、帰らせてください……」


 こんなやり取りをしつつ、アーバインの広い部屋で激しい攻防戦が繰り広げられていた。

 そんな俺達を見て、アーバインは、


「とてつもない戦いなのに、話している事はお互いの性癖暴露大会……」


 とぼそっと呟いていたのを、俺のサウンドボールが拾った。

 うん、否定できないよ。


 現在俺は、アーバインの部屋に五十個程のサウンドボールを浮遊させ、《サウンドマイク》を発動させていた。

 この変態野郎は、所々視線でフェイントを仕掛けてきては自分の斬撃から注意をそらし、俺の視角外から攻撃してくる。

 通常ならそれをやられてしまうと斬られて死んでしまうが、《サウンドマイク》で斬撃の音を拾って、すんでの所で回避していた。

 ただの変態だったら速攻で叩き斬っていたんだが、さすがバトルジャンキー。戦闘技術はかなりのものだ。

 父さんと比べても遜色がないと言える。

 しかし、俺の二刀流にはかろうじて対応出来ているといった感じで、対処に相当苦戦しているようだった。

 まぁ俺の斬撃は二つの剣が同時に襲ってくる。対処する順番を間違えた瞬間、斬られちまうからな。

 例えば、変態野郎の首目掛けて斬撃を放つ瞬間に、もう片方の剣で腹部を狙う。すると相手は剣で受け止めるか回避するかの二択を迫られる。

 ほぼ同時攻撃だから大抵は後ろに下がって避けるが、俺はさらに追いかけて引き続き斬撃を繰り出す。

 すると相手としては、もう防御して凌ぐしかないんだ。

 これが剣士が理想とし、夢想したが、実現できなかった二刀流だ。

 俺は幸いにもピアノのおかげで、両手それぞれ別々の行動をさせる事に慣れていたし、左手での剣の特訓も活きてきたんだろう、対して二刀流を産み出すのに苦労はしなかった。


「くっ、ふふふふ……。まさにお前の二刀流は我ら剣士の理想を体現したものだ! 素晴らしい。素晴らしすぎて興奮する!!」


「頼むからてめぇ、もう口閉じてろよ!!」


 こいつ、わざと俺の戦意を削ぎ落とそうとしてねぇか?

 何とかして、この変態野郎の言動に気を取られないようにしないとな。

 まぁいつも通り音楽を流せばいいんだけど、一曲終わった後テンション下がるんだよなぁ。

 これ、何とかしたいんだよな。

 こういう時に、CDプレイヤーとかがあるといいんだけどなぁ……。


 ん?

 CDプレイヤー?


「お前、戦闘中に別の事を考えるな! 興醒めするだろう!」


 ああ、もう! 今俺は考え事してるんだよ。いちいちうるせぇな!

 俺は俺の胴体目掛けて放たれた変態野郎の斬撃を、二刀で叩き落とした。

 ガキの俺でも、二刀同時で降り下ろせばかなりの威力が出る。相手の剣はあまりの衝撃に手を離れて地面に叩き付けられた。

 相手は驚きの表情をしつつ、いそいそと剣を拾って俺と距離を取った。

 よしよし、変に警戒しているから、今なら考え事が出来るぞ。


 CDプレイヤーで発想出来たぞ。

 俺のサウンドボールをCDプレイヤーにすればいい!

 でも前試したが、曲はサウンドボール一個につき、一曲しか登録できないんだよな。だから今まで一曲が終わったらサウンドボールに曲を入れる作業を瞬時にやっていたんだけど、どうにも面倒だった。

 だったら、曲を登録しているサウンドボール達を、大きめなサウンドボールの中に内包させられるんじゃないか?

 そして大きめなサウンドボールの指示は、《内包されたサウンドボールの曲を一曲ずつ再生》と《術者の任意で前の曲、次の曲へ移動させられる》。最後に《魔力の糸と直結した聴覚細胞へ直接音を流す》だ。

 最近魔法の腕が上がったのか、より具体的な指示をサウンドボールへ出せるようになった。

 これは試していないけど、できそうだな!


「ははは、待ちの剣術か! それもまた面白い!! この俺が切り崩してみせよう!!」


 だから、いちいち五月蝿い変態だな!

 考えがまとまりそうなんだから、ちょっと黙ってろ!

 俺は左手の剣を一度鞘にしまい、左掌を奴に向けてから《ソニックブーム》を発射した。

 マッハ1で射出された轟音を撒き散らすサウンドボールは、強い衝撃波を生み出し、変態野郎を吹き飛ばした。


「がはっ!? 無、詠唱で…………不可視の魔法だ、と? ……はははっ、最高だよ、お前っ」


 衝撃波で部屋の壁に叩き付けられた変態野郎は、咳しながらも喜んでいる。

 本当、黙ってて……。


 そういえば、俺はどうやら音楽を聴くと、性格とかも結構変わるようだ。

 その音楽の特徴に合わせて、俺自身がなりきっていると言った方が正しいかな?

 前世でも自分がイメージして作曲している時でも、結構その描写に飲み込まれてなりきっていたような気がするな。自分で思った以上に感受性が強いかもしれない。

 つまり、なりきりたいイメージに合った曲を登録して、戦闘中に自在に切り替えられるようになったら、相当トリッキーな戦いに持っていけるんじゃないか?

 なら、そうなるだろうなと思う曲をまず四曲選んで、そして飽きが来ないように別の曲でもう一セット作る。合計八曲を選べばいい訳か。

 あの変態野郎もよろよろと立ち上がろうとしているし、ちゃちゃっと選曲するか。

 力強くて獰猛なスタイルだったら、もうあの曲しかないな。そして優雅に柔らかなスタイルなら……あれかな。

 攻防のバランスが優れた感じで行くなら、あれから引っ張ってきてっと……。

 攻撃の隙を付いた反撃スタイルは…………難しいけど、これでいいかな?

 よし、思い付いた曲はそれぞれのサウンドボールに登録して、大きめのサウンドボールに内包っと! もちろんこのサウンドボールにも指示を付与。

 そして両耳にイヤホンを付けるイメージで、魔力の糸で大きめのサウンドボールと両耳の聴覚細胞を繋いで、よし完成!


「待たせたな、変態野郎。こっから俺の本気を見せてやる」


「ふ、ははははは! やっとお前も乗ってきたな、ロナウドの息子よ! 待ち遠しかったぞ!!」


「……マジでてめぇ気持ち悪いから、さっさと片付けてやるよ」


 うん、傲りでも何でもない。

 この魔法を使えば、こいつを倒すのは苦労しない。

 だってさ、父さんよりかは弱いし。


「行くぜ、《ミュージックプレイヤー》!」


 俺の両耳に、一曲目が再生された。

 剣を握る手に、力が入った。

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