第65話 ゴブリンの王様
――ロナウド視点――
あの《月光教》の信者に化けていたゴブリン達は、ついにローブを脱いでその醜悪な姿を晒した。
恐らく、今から学校に侵入して好き勝手やるんだろうな。
さてさて、数は…………約五十位か。もっといそうな気がするが。
しかしあのゴブリン達の中に、一匹だけ気になる存在がいる。
普通革製であっても鎧等身に付けないゴブリンだが、一匹だけ装着している個体がいる。
「まさか、ホブゴブリンか?」
稀に知能が高いゴブリンが生まれる。
俺達はその個体に対して《ホブゴブリン》と命名している。
指揮を取っていたらホブゴブリン、俺達の言葉を理解して話したらゴブリンジェネラルとなる。
こいつはどっちだ? ジェネラルだったら知能が高いから、この戦いは厄介になるぞ。
まぁいい、どちらなのかは――
「先手を打てばわかるよな!」
俺は地面を力強く蹴って、リーダー格のゴブリンに斬りかかる!
すると奴はすっと俺の方を向いて、手に持っていた棍棒で俺の攻撃を受け止めた。
まるで、俺が攻撃してくるのを読んでいたかのように。
「貴様、オレ達ノ邪魔、スル敵カ?」
「ちっ、ジェネラルかよ!!」
「ジェネラル? 貴様ラ人間ガオレ達ヲ勝手ニソウ、呼ンデイルダケダロ?」
「しかも頭がかなりいい個体かよ!!」
俺は一度ゴブリンジェネラルから距離を取る。
こいつはかなり深く思考出来て、恐らく作戦とかも指示出せる奴だ。
たかがゴブリン程度だったら容易く討伐出来たが、こいつ一匹いるだけで無茶苦茶面倒になる。
「1番カラ12番ハ、ソノ人間ヲ殺セ。アトノ全員ハ、建物ヘ向カッテ好キ勝手ヤレ」
こんな風に、いっぱしに作戦を立てて攻撃してくる。
しかもご丁寧に、ゴブリンそれぞれに番号分けして、しかも的確に役割を与えやがった。
奴が言った1番から12番が俺に向かってきた。そして残りのゴブリン達は俺の横を通り抜けようとしていた。
「行かせるかよ!」
正面の向かってきているゴブリン達より、学校へ行こうとしている奴等を優先して叩かないと、とんでもない被害が出る!
だから先に俺の左右を抜けようとした奴等を対処しようとした瞬間、棍棒が俺目掛けて投擲されてきた。
俺は仰け反って飛んできた棍棒を回避した。
くっ、向かおうとしたタイミングで見事に足を止められてしまった。
「オ前、魔力、感ジナイ。タダノ剣士ダナ。足止メハ容易」
ムカつく位に頭が働くじゃないか、このジェネラルは……。
確かに俺は魔法は一切使えない。俺が五歳の時に、学校で魔法解放の儀を行ったんだが、見事に水晶球は無反応だった。
魔法適正は一切無くて相当落ち込んでいたが、たまたま扱った剣が俺にぴったりだったんだ。
それから当時の先生とひたすら剣の稽古をつけてもらった。先生は剣術に秀でていて、俺は卒業するまでかなりお世話になった。
しかしその先生は、剣術だけが優秀ではなかったんだ。
先生は数々の戦場を渡り歩いて来た歴戦の傭兵で、そこで戦って生き残る術を磨き上げてきた。
俺も在学中に先生の戦闘術を全て学び取り、血ヘドを吐く程厳しい訓練をしてきた。
そして卒業前に先生と命懸けの決闘を行い、辛うじて勝った。
つまりだ。
俺は、ただの剣士じゃない!
「運が良かったのか悪かったのか、準備万端で外出して良かったぜ」
《武力派》がキナ臭い行動を王都で行っていると聞いた時から、何が起きてもいいように常に本気の装備をして外出している。
まさかそんな事は起きないだろうと思っていた矢先にこれだ。
俺の中では、このゴブリン達は《武力派》が養殖した奴等だと確信していた。
こいつらが単独で《月光教》の信者に成り済ますという知恵を絞り出せる訳がないから、誰かが手引きしたのは間違いない。
そうなると、俺の中では《武力派》がこいつらを放ったとしか考えられない。
話は逸れたな。
さて、今の俺は左手がないから、この戦闘は少し骨が折れそうだ。
まぁ関係ない。
右手があれば、何とか乗り切れる!
俺は剣を地面に突き刺し、着ているロングコートの内側からとある物を二つ取り出し、俺の左右から抜けようとしているゴブリン達の集団より少し前の地面にそれを投げた。
これが、魔法が使えない傭兵達が愛用している、隠し玉だ!
「魔道具、音声発動! 《エクスプロージョン・トラップ》!!」
魔道具。
王都等都会の店が扱っている、魔術師がとある鉱石に魔法を流し込み、音声起動させる代物だ。
魔法適正がない戦闘職や冒険者、傭兵の為に産み出された道具で、ダンジョン攻略や戦争で生存率を高める為に購入している者が多い。
当時の俺を面倒見てくれた先生は、特に魔道具の知識に関して言えば幅広くて、俺は徹底的に魔道具の使用方法を叩き込んでくれた。
種類によっては高価な物もあるからなかなかホイホイ入手できない代物だが、俺は現在王都非常勤特別指南役という役職を得ているので、給金の他に俺からのお願いとして罠系の魔道具を貰ったんだ。
今使用したのは、火属性魔法の上級にあたる《エクスプロージョン》が込められた魔道具だ。
この魔道具の面白いところは、「魔道具、音声発動。《魔道具名》」を言う事で音声起動させるのが通常なのだが、踏んだ瞬間に発動させる事が出来る。
今回は音声起動だが、色んな場面で使用できるから俺が愛用している逸品だ。
……一個60000ジルする高価なやつなんだけどな。
さて、この《エクスプロージョン・トラップ》は、そこそこ爆発範囲が広い魔道具だ。
俺はその被害を受けないように、音声起動させた瞬間に地面に突き刺した剣を引き抜き、真正面のゴブリン達に立ち向かった。
そして直後、二つの爆発音が鳴り響いた。
「ナン、ダト!?」
ゴブリンジェネラルが驚愕している。
どうやら魔道具の存在を知らなかったようだな。
俺が対峙しているゴブリン達も、突然の轟音に足を止めた。
俺も振り返ってみると、学校へ向かおうとしていたゴブリン達がほぼ爆発の餌食となり、壊滅状態だった。
大半のゴブリンは爆死していたが、辛うじて生き残った奴ですら四肢の一部が欠損している等の重症だった。
あっぶね、俺に向かってくるゴブリン集団に対処しなかったら、俺も巻き添え喰らってたぞ。
これが俺の本来の戦い方。
ハルにも見せていない、敵の殲滅だけを考えた、正々堂々とは全く無縁の本格的実戦用!
最近は大抵剣だけで対応できていたから、魔道具は本当久々に使ったわ。
とりあえず、建物に向かう予定だったゴブリン達はほぼ排除出来たし、俺は正面の敵を優先しようか!
「さぁ、俺とやりあおうぜ……ゴブリン達!」
あぁ、たぎるな……。
訓練とか授業じゃない。これは、殺し合いだ。
俺と相手、どちらかの技量が少なければ死ぬ。
そんな、一歩間違えれば命を落とす、まさにギリギリの綱渡り状態。
久しくこの感覚から遠ざかっていたから、たぎって仕方ない!
あぁ、口元が笑っているのがわかる。
楽しくて仕方ない……。
だからさ、学校を襲うとかそんな冷めるような事はしないでさ――――
「俺と、命を懸けろ!!」
俺は剣を水平に薙いだ。
俺の剣は一匹のゴブリンの首に当たり、骨をも断って頭を切り落とす。
切断面からは噴水を思わせる程の赤い血を撒き散らし、崩れ落ちるかのように倒れた。
「ギ、ギィィィィィッ!!」
仲間がやられて動揺したのか、棍棒を振り回しながら一匹のゴブリンが突っ込んできた。
甘い、そんなのは余所見してても回避は容易だぜ?
このゴブリンが放つ連撃と呼べない攻撃を小さい動作で全て回避し、残念賞として心臓に俺の剣を深く突き刺してやった。
心臓を刺したから、苦しさは少な目で死ねるだろうさ。
ふむ、ゴブリンジェネラルがいるから、このゴブリン達も特別かと思ったがそうでもなかった。
だがゴブリンジェネラルの方を見てみると、何かを考えている仕草をしている。
何かとっておきでも出すのか?
「おいおい、そこのジェネラルさんよ! 何か手があるんだったらさっさと出しな! じゃないと、可愛い部下がどんどん死んでいくぜ?」
ゴブリンジェネラルを挑発している最中に、ゴブリンが俺の背後から攻撃してくる気配を感じた。
俺はそのまま振り向かず、剣先を俺の脇腹の横から背後に向かって突いた。
「グギャッ!?」
剣先がゴブリンの何処かの部位に突き刺さった感触が、手に伝わった。
背後から襲うのはいいが、もうちょっと殺気を抑えないと悟られるぜ?
さて、ゴブリンジェネラルを含めて残り十匹となったゴブリン達だが、次はどう出てくる?
そうだ、後爆発で辛うじて生きているゴブリン達も、こいつらを片付けてからしっかり仕留めないとな。
生き残ったまま放置していたら、大変面倒な事になるし。
すると、ゴブリンジェネラルが、吼えた。
「ギィィィィィィィィィィッ!!」
何かとてつもなく空気が重く感じた。
あの咆哮に何か意味があるのか?
うん、あったようだな。
他のゴブリン達に変化が起きた。
奴等の体が筋肉で隆起し、全身から赤いオーラが漏れ出ている。
何だ? こんな事をジェネラルが出来るなんて、知らないぞ?
「オ前、サッキカラジェネラルト言ッテイルガ、間違エテイル」
「は? どういう事だ」
「俺ハ、オ前達ノ言葉デ言ウナラバ、王、ダ!」
「な!?」
ジェネラルじゃなくて王だと?
そんなの今まで聞いた事もない!!
ゴブリンの王様って事か? となると、先程の咆哮は突撃指令か何かか?
見た目的に明らかに強くなってそうだよなぁ……。
「サァ、大人シク、死ネ!!」
「嫌だね、俺は死ねないんだよ!」
今、妻の腹の中に子供がいるんだ。
その子をこの目でしっかり見たいんだよ!
ゴブリン如きに殺されてたまるか!!
「かかってこいよ、醜悪な魔物達! このロナウド・ウィードが成敗してやる!!」
内心、この戦いを楽しんでいるのは内緒だ。
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