第55話 俺、正座する……


「えっと、リリルさんや、レイさんや?」


「「…………」」


(ひぃっ、鬼だ、鬼がおる!!)


 城から自室に戻ってきた時、部屋でリリルとレイが待っていてくれていた。

 そして、城での出来事を話した途端、さっきまで笑顔だった二人が、急に能面を着けたかのように表情を変化させた。

 怖い、怖すぎる!

 何で、何処に怒られる要素があった!?

 そして俺は何故固い床に正座しているんだよ!


「え、えっと……俺、何かしましたでしょうか?」


「……本当にわからないかい?」


「皆目検討つきません」


「……はぁ、この天然色男!」


「え? あ、ありがとう?」


「褒めてない!」


「ひぃっ!?」


 レイが激おこだよ!

 激おこどころじゃなく、ムカ着火インフェルノだよ!!


「ミリアちゃんの件といい、王女様の件といい……」


「り、リリルさんや?」


「さすがに、色んな女性にちょっかい出しすぎだと、私は思うの」


「ひぃっ!!」


 リリルの背後に、般若がいる!?

 わかった、この二人が怒ってる理由が。あのお姫様に気に入られて週に一回演奏しに行く事に嫉妬しているんだ!

 でも待って欲しい。

 俺はお姫様の顔すら見ていないし、会った時間だって約二十分程度だぜ? しかもお互い顔が確認できていないカーテン越し。そんなので流石にどんなちょろい女の子でも俺に惚れる訳がない!


「ハル君、他の女の子に手を出す為に、王都に来たの?」


「ち、違う! 断じて違う!! 俺は純粋に、音楽を学びに来ただけだって!!」


「……ごめん、今は信じられない」


「えぇぇぇぇぇぇぇ……」


 何て、何て理不尽な。

 相変わらず、能面被ったような無表情を貫く二人。

 女性経験がこの二人しかない俺にとって、初めての経験。どうやってこの二人をなだめればいいんだ!?

 くそっ、教えてくれよ、世のハーレム主人公達よ!!


 ん?

 そういや、前世で何処ぞの知恵袋で「怒った女性に対してどうすればいいか?」って質問を読んだ気がする。

 えっと、ベストアンサーは何だっけか。

 思い出した! 確か「ひたすら我慢して、罵倒を聞き続けましょう」だったな。

 ま、マジですか。

 俺の胃に穴が開きそうなんですけど。

 でも、それで二人の機嫌が治るならば、俺は耐えてみせる!!


 さぁ、言いたい事をたくさん言うんだ、二人共!!














 ――一時間後――


「「ぐすっ、ぐす……」」


 最後は二人が泣き始めて、ようやく俺に対する罵詈雑言責めは終了した。

 よ、よかったぁ……。このままもう少し受け続けていたら、俺は胃が完全溶解していたかもしれないぜ……。

 要約すると、こうだ。


・俺と離れてから、新しい女の子と恋人関係になっていないか不安だった。


・自分達の事を忘れているんじゃないか?


・とっても寂しかった。


・今日会えるのをとっても楽しみにしていたのに、別の女の子に惚れられていた事実を知って、かなりショックだった。


・俺は相当モテるんだから、自覚を持てこの野郎。


・王女様にまで手を出すなんて、節操なし。


 こういった内容をずっと聞き続けた訳ですよ。

 何かね、この二人に愛されてるなってのは実感出来たんだけど、結局は不安にさせちゃってたんだなぁ。

 これに関しては俺の力不足だよな、明らかに。

 もうちょっと手紙とかで安心させられたら良かったんだけどさ。

 くそっ、こういう時にスマホあるといいんだけど、そんなの作れそうにないしなぁ。

 とりあえず、今俺が出来るのは、これ位かな?


 俺は立ち上がる。

 正直正座しっぱなしで足が痺れているけど、今はそれを我慢しよう。

 俺はゆっくりと二人に近づいていき、そして抱き締めた。


「は、ハル?」


「……ハル君?」


「ごめんな、二人共。俺が不甲斐ないばかりに不安にさせちまったな」


 俺は二人の体温を感じて改めて思った。

 俺はレイとリリルを心から好きなんだ。ミリアやお姫様が俺の心に入る余地は一切ないんだ。

 だから俺は、この二人に許してもらえるまで、何度だって謝ろう。


「俺は、レイとリリルの事を常に想っていたんだよ。ずっと、お前達に会いたかったんだ」


「ほ、本当かい?」


 レイが涙ながらに俺に聞いてきた。


「ああ。お前達を忘れるなんて、絶対にありえないよ。だってこんなにも俺の事を想ってくれているし、俺だって傍にいれるのがすっげぇ嬉しいんだからさ」


「ハルぅ!」


 レイが俺を強く抱き締めてきた。

 まるで逃がさないようにしがみついているようだな。

 俺は、逃げないよ。


「ハル君、ハル君!!」


 リリルも俺を強く抱き締めてきた。

 あぁ、二人共とても愛しい。

 ずっとこうしていたい気分だ。


「……ハル」


「……ハル君」


 二人が目を閉じて唇を俺に向けている。

 キスを求められているな。

 俺はレイにキスをした後、リリルにもキスをする。

 二人はまだキスが足りないようだ。俺だって、全然物足りない。

 俺は二人を抱き締めながら、唇を求め合った。

 何でだろう、もうたくさんキスをしているのに、全く心が満たされない。キスをする度にもっと欲しているんだ。

 

「どうしよう、ハル。まだ物足りないよ……」


「は、ハル君……」


 二人も同様に足りないようだ。

 というか、エロい顔をしている。完全に雌の顔をしていやがるぜ!

 って、そんな冗談は置いておこう。

 ヤバイ、このままだと歯止めが聞かずに押し倒してしまいそうだ。

 でもこの二人の両親と決めた事があるんだ。結婚するまでは二人を純白のままでいさせる事って。

 そんなのわかる訳がないが、どうやら母という生き物は判断付くらしい。

 ならば俺は、その約束をしっかり守りたいんだ。


 俺は、リリルの首筋に俺の唇を当てる。

 そしてそのまま吸い付き、首筋に小さな赤い跡を残した。

 同様にレイにもその後を残す。

 所謂、キスマークってやつだな。


「は、ハル? な、何で首にそんな跡残したんだい?」


「え? え?」


「それはキスマークって言ってな。この女は俺の物だっていう証みたいなもんだよ」


 俺がキスマークの説明をすると、ちょっと恥ずかしそうにしながらも跡を付けた部分を、指で嬉しそうになぞっていた。


「結婚したらさ、二人の全てをしっかり頂くから、それまではキスマークで我慢してくれ」


「ぼ、僕は別に、は、ハルとそういう事したいって思ってないぞ!」


「わわわ、私だって!」


 本当かよ?

 知っているぜ、俺は。

 ご両親から子作りの仕方を教わってから、とっても興味津々なのをね!

 そして、隙があればこの俺と実践をしようとしている事もね!

 えっちぃ女の子達だなぁ、まっ、この二人なら大歓迎だけどな!


「な、何か悔しいから、お返しだ!」


「わ、私も!」


 俺もお返しに二人からキスマークを貰った。

 ちょっとくすぐったかったけど、二人からマーキングされたような感じがして、結構嬉しかったりする。


「ありがとうな、二人共!」


「うぅぅ、ハルのその余裕さがムカつく!」


「何か、悔しい!」


「はっはっは、俺は大人だからなぁ!」


 精神年齢四十三歳のおっさんだけどね!

 でも、サンキューな、二人共!

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