第51話 レミアリア城到着、そして驚愕の事実!


 リリルの《ラブ・ヒーリング》の効果によって全快した俺は、担当した医者に驚愕されつつ退院手続きを済ませた。

 あまりにも特殊過ぎるオリジナル魔法だから、医者も《ラブ・ヒーリング》を覚えたいとは思わなかったようだな。

 嫌だよ、男に「ハル君、好きです」とか言われるの……。


「よし、手続きを済ませたし、これから陛下へ謁見しに行くぞ」


 父さんが真剣な表情で俺に言った。

 うーん、正直面倒なんだよなぁ。


「父さん、本当に俺も行かなきゃダメ?」


「来い。本人の口から詳しく説明した方がいいだろうしな」


「……久々に二人に会えたのに、おいてけぼりかよ」


「謁見が終わったら、好きにデートでもしろよ」


「へーい」


 俺と父さんは病院を出て、城に向かって歩き出した。

 急に謁見が決まった事で、せっかく会えた超大事な恋人二人と離れる事になった。

 レイとリリルは、ゴールドウェイ家と懇意にしている宿屋で泊まるらしく、そこに行って待ってもらう事になった。

 俺はせっかく会いに来てくれたのに父さんと出掛ける事に対して謝ったら――


「いいよ、それはハルじゃないと出来ない事なんだから。戻ってきたらいっぱい話をしようね」


「ちょっと寂しいけど、レイちゃんと二人で待ってるね」


 と、笑顔を見せて俺を見送ってくれた。

 くっそぅ! 何で綺麗で可愛いレイとリリルを置いていって、玉座に偉そうにふんぞり返ってるおっさんに会いに行かなきゃなんねぇんだよ!

 あぁ、せっかく会えたのにな……。


「お前なぁ、普通陛下に謁見出来ると聞いたら、緊張するか喜ぶかのどちらかなんだけどな」


「はんっ! そんなおっさんより俺は、大事な恋人を取るぜ!」


「おっさんって……。今の国王陛下は賢王として世界に名を知らしめてる方なんだぞ? 国民からは憧れの的だぞ?」


「音楽と恋人と家族と仲間と先生方以外、どうでもいい!!」


「……ブレないな」


 父さんが諦めたようにため息を付いた。

 だって、どうせそんな雲の上の人と接点を結べる訳がないんだしさ。

 後は王様と接点を結んだとしても、厄介事しか降りて来なさそうだから、俺にとって利点はあまりないように思うんだよな。

 

 そんな事を考えていたら、ふと、ミリアの事を思い浮かんだ。

 ……あれはどう考えても俺に惚れてるよなぁ。

 俺としては、今リリルとレイ以外考えられないんだよ。

 となると、すっげぇ辛いけど、断るしかない。

 でもミリア本人は、音楽仲間として接してくれている以上、俺からは言わないでおこうかな。

 もし告白された時になったら、真剣に俺の気持ちを伝えようと思う。


「……はぁ」


「そんなに陛下に謁見するのが嫌なのかよ……」


 このため息は違うんだよ、父さん……。

 モテる男って、何気に辛いね。

 前世では本当に恨めしい存在だったが、容姿が素晴らしい両親の遺伝子を受け継いでイケメンになった俺は、この異世界で逆にモテる男になった訳だが、告白を断る度に胸がとても痛くなる。

 これを恨めしいって思うかもしれないけど、結構シンドいんだからな!?


 病院から歩いて約十分の距離に、王都中央に大きく構えている城がある。

 それこそ、王都リュッセルバニアの象徴でもあり、芸術王国レミアリアが誇る賢王が居を構える王城、《レミアリア城》だ。

 基本的に白い壁がメインとなっているが、そこにワンアクセントとして金色が使われている。

 金色って、使いすぎるとただ鬱陶しいだけで、意外とセンスが問われる色なんだけど、流石芸術王国の城。

 白を際立たせる程度に使われている程度なんだ。

 俺は正直あまり金色は好きじゃないけど、こういう使われ方だったら全然いいね!

 しっかし、本当すげぇわ!

 だってさ、城が目の前にあるんだぜ? 俺はファンタジー小説のような世界でまさに生きているから、そういうのが好きな俺にとっては感動出来る!

 こりゃテンションがマジでアゲアゲですよ!!


「さっ、着いたぞ」


 父さんの声で我に返った。

 おおっ、いつの間にか城門前に着いていたぞ。

 あまりにも城を凝視していたせいで、着いた事すら気がつかなかったわ!


 俺は父さんの後を着いていく。

 城門に近づいていくと、城門を警備する衛兵さん二人が俺たちに気付いた。

 そして、顎が外れそうな位に口を開いて驚いている。

 なんだ、どうした?


「あ、貴方はロナウド・ウィード殿で御座いますか!?」


「はい。本日陛下から招集命令を受け、挨拶に伺わせて頂きました。今謁見は可能でしょうか?」


 うっわ、父さんの敬語にすごく違和感を覚える!


「はい! 陛下は貴方との謁見を非常に楽しみにしておられます! わ、私もお会いできて光栄で御座います!」


 衛兵さん二人が、父さんに敬礼する。

 えぇぇぇぇぇ、そんなに父さんは人気なのかよ!?

 ビックリするわ、マジで。



「それで、失礼ですが、後ろの子供は?」


「はい。これは私の息子でハルと言います。少し陛下に報告事がありまして、当事者である息子から直接陛下へ報告させようかと」


「なるほど、わかりました。宰相には今伝えておきますので、客間でお待ちください」


「有難う御座います。客間の場所はお変わりなく?」


「はい、変わっておりません! どうぞ、ごゆるりとおくつろぎ下さい!」


 すると城門が開き、父さんは衛兵さん達にお辞儀をして進んでいく。

 俺もその後に付いていく。いや、付いていくしか出来ないんだけどね……。

 そしてついに、城の中に入ったんだが。


「ほぇ~っ、すっげぇなぁ」


 間抜けな声しか出なかった。

 城の内部も白を基調にしたシンプルな内装だった。

 だが、シンプルってのはちょっとしたアクセントで豪華さも演出出来る。

 床に敷いてある絨毯は、赤をメインとして外枠に金をあしらったデザインだが、それが白と上手くマッチしている。

 だけど、俺が驚いたのは城の中にいる兵士さん達の鎧のデザインだった。

 皆、白銀を金の枠で強調しているデザインで、そりゃもう美しかった。

 立っているだけで、鎧のアンティークみたいな感じになっていて、流石は芸術王国、兵士さんも芸術の一つとしているように思えた。


「ほら、ぼけーっとしてないで、客間に向かうぞ」


「お、おう」


 いやぁ、しかし俺の父さんはやっぱすげぇ人だったんだな。

 すれ違った兵士さんが皆父さんに敬礼してんの!

 何か、自分の事のように誇らしく思うわ、本当に。


 父さんに連れられて入った部屋が、客間だった。

 客間って言ってもかなり豪華な作りとなっていて、どんな人間でも特別待遇を受けているような錯覚に陥るような内装だ。

 入り口近くにはメイドさんが一人いて、いつでもお願い事が出来るようになっている。

 ふかふかのソファーに豪華な装飾が施されているテーブルには、ワインとお菓子が用意されていた。

 うわぁ、至れり尽くせりだな。

 俺と父さんは向かい合う形でソファーに腰掛けた。


「いやぁ、改めて父さんって有名人なんだな」


「ははは、一応名は売れていると思っていたが、ここまでとは思わなかったわ」


「いやいや、兵士さん皆敬礼してるし、客間の場所も知ってるじゃんか! 何度も城に来てるんじゃねぇの?」


「ん~、昔一度だけだ。まだ母さんと出会ってない時にな」


 そうなんだ。

 でも、どういう内容で城に来たんだろう?

 しかも今回国王陛下の勅命で来たんだったよな。

 陛下から直接って、結構大事だと思うんだがなぁ……。

 

 俺はテーブルに置かれていたお菓子を摘まんで口に放り込むと、父さんに話し掛けられた。


「そういやハル、お前は十二歳になったらゴールドウェイ家に婿入りするのか?」


 この世界では、十二歳が成人という事になっており、結婚も出来る。

 どうやら父さんは、十二歳になったと同時にレイと結婚をすると思っていたらしいけど。

 何で婿入りが確定してるんだ?


「なぁ、何で婿入りが確定してるんさ! レイの両親からもいつ頃婿入りするんだって聞かれるしさ!」


「だって、リリルちゃんとも結婚するんだろう?」


「おう、当たり前じゃん!」


 基本的に俺達三人は、結婚を前提として付き合っている。

 しかもレイとリリルのご両親も、それについては納得してくれている。

 そういえば、リリルのご両親も、「リリルも貴族になるんだなぁ」とか呟いていたけど、何か関係しているのか?


「なぁハル、お前、もしかして知らないのか?」


「はぁ? 何がよ」


「重婚は、貴族限定の特権だぞ」


「…………へ?」


 ようやく、ようやくわかったぞ!

 レイのご両親との会話のズレ!

 俺はてっきり重婚は誰でも出来るって思っていた。

 でもそうじゃなくて、貴族特権だった!

 となると、残された道は俺がゴールドウェイ家に婿入りし、その後リリルを迎え入れるって順番になるって事か!!


「まっっっっっっっっじかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 俺は、頭を抱えて大声を出してしまった。

 マジですか……。


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