第42話 へっぽこパーティ、初戦闘!


 俺達は、ついにダンジョンへ足を踏み入れた。

 男の子の夢がついに叶ってワクワクしてしまうけど、俺は頑張ってそれを抑えている。

 油断していると、あっという間に殺されてしまう事もありそうだしな。

 だから俺は気を引き締めて、安全に目的を達成しようと緊張感を持って挑んでいる訳なんだが……。


「ふっふん♪ ダンジョンダンジョン、楽しみだぁ♪」


 ミリアはオリジナルの歌を歌って上機嫌だ。

 

 ……


「あぁ、まるで物語の大魔導師になった気分だよ」


 身長の倍はあると思う杖を見ながら、そんな事を呟くレイス。

 

 …………


「これで無事に達成したら、オレはまた女の子にモテちゃうよ!」


 随分と革製の服を着込んで別の意味で気合いが入った服装で、女の子とイチャイチャしているのを想像していそうなレオン。


 ………………


「ふふふ、バイトスパイダーの糸さえ揃えば、ピアノの開発は大きく前進だ!」


 非戦闘員だからなのだろうか、目を閉じてピアノが完成した事を想像しているように思えるオーグ。


 ……………………



 



 だぁぁぁぁぁぁっ!!

 もうダメだ、我慢ならねぇ!

 コイツらにこの際はっきり言おうじゃねぇか!!


 俺は外部に声が漏れないように、俺達パーティの周囲半径五十メートルに、巨大なサウンドボールを生成した。

 まぁサウンドボール達をくっつけて、巨大化させた訳だ。それに《外部に漏れないように遮音》と指示を出した。

 よし、これで俺達の話し声は外に漏れなくなった。


「おっまえら、ここはダンジョンだろうが!! ピクニックじゃねぇんだよぉぉぉ!!」


「そんな大声出すと、魔物沸いちゃうよハルっち?」


「俺の魔法で音周りに聞こえないように遮断してるっての!!」


 ミリアに指摘された。

 さっきまで歌っていた張本人が、どの口が言っていやがる……。


「いいではないか、ハル。ここは国軍が間引いているはずだ。そうなると対した魔物の数はいない。つまり安心という事なのだ」


「まぁオーグが言いたい事はわかるが、油断は出来ねぇだろ?」


 多分皆がここまでピクニック気分なのは、一週間前に国軍が間引きしたという事実があるからだろうな。

 でも俺はそれを当てにしていない。

 何故なら、魔物はどの種類でも繁殖力が強い。

 しかもダンジョンだと、ダンジョン自身が魔物を生成するらしい。

 どういう原理かは全くわかっていないし、文明が遥かに進んでいた前世の記憶を持っている俺でも、これに関しては全くわからない。

 そういうものなんだなって、俺は割り切っている。


「ハルが言いたい事はわかるよ。ダンジョンが魔物を生成したらそこから爆発的に繁殖していると考えているんだよね?」


 レイスが黒渕眼鏡の位置を指で直しながら言った。

 その通りだから頷いた。


「大丈夫大丈夫♪ 魔物を生成するのはまず危険度が低い魔物からなんだって。バイトスパイダーはダンジョンでは一番危険度が低い魔物だし、そんな繁殖能力もないから大丈夫なんだって」


 ヘラヘラしながらレオンが言った。

 う~ん、そういうものなんかなぁ?

 まぁ、俺一人位気を引き締めてダンジョンに挑んでもいいよな。

 決めた、やはり俺は気を抜かずに進んでいこう!


 さて、ダンジョン内部を説明しよう!

 簡単に言ったら、ただの洞窟だ。

 地上の明かりが一切届かない、天然の洞窟だ。

 今俺達は、オーグが唯一使える光属性の魔法、《ライト》で俺達の周囲を明かりで照らしてくれている。

 そのおかげでわかったんだけど、このダンジョンの壁は青色をしていた。

 空よりも濃い目の青だな。

 左右の壁の間隔は、大人三人が並列しても通れる位なんだけど、天井は大人がジャンプしたらぶつける位に低い。

 環境音も一切なく、ただ不気味と俺達の話し声と足音しか聞こえなかった。


 俺はサウンドボールを使って、俺達の先に魔物がいないかどうかを調べてもらっている。

 どうやってかって?

 そりゃサウンドボールに《集音》と《術者へ音を伝達》という指示を与えているから、先の音が手に取るようにわかる。

 だが、今のところ何の音を拾っていない。

 うん、今のところ安全だな。

 今のところはな!


 隊列は事前に打ち合わせた通りに俺が最前列で、後は俺の後ろを付いてきている。

 レイスはしっかり背後を背後を確認しているようだな。


 ん?

 百メートル先を進んでいるサウンドボールが、音を拾って俺に伝達してきた。

 カサカサ音が鳴っている……、バイトスパイダーか?

 しかも一匹だけじゃない、恐らく最低でも三匹はいるな。


「皆、ここから百ローレル(百メートルの事だな)先に、恐らくバイトスパイダーがいるぞ。戦闘の準備をしておけ」


「……ハルっちの魔法、便利だよね」


「オレもそう思う……」


 うん、俺もそう思う。

 超便利だし、俺にぴったりだな!


 そろそろバイトスパイダーがいる場所へ着く直前、レイスが俺の所まで来て話しかけてきた。


「ハル、このバイトスパイダーは俺達にやらせてほしい」


「レイス達に?」


「うん。恐らく君が入るととても簡単過ぎちゃうと思うんだ。実戦経験も積みたいから、やらせてくれないか?」


 まぁ確かに、バイトスパイダーとは戦った事はないが、多分俺なら討伐は出来ると思う。

 正直このメンバーだと不安が残るけど、本人達がやってみたいって言ってるから、やらせてみるのもいいか。

 いざとなったら俺が助けに入ればいいだけの話だしな。


「わかった、やってみなよ。本気で危なくなったら俺が助けに入るってのでいいか?」


「ありがとう、我儘言ってごめん」


「別にいいけど、何でまた突然?」


「えっ、あぁ……」


 ん? レイスが非常に言いにくそうで且つ少し挙動不審な行動をしているぞ。

 どうしたんだろうか、普段のレイスはこんな風にはならないんだけど。

 するとレイスが俺に耳打ちしてきた。


「その、ミリアが戦いたいって言ったら、他の皆もそれに乗ったんだ。お、俺としても、格好いいところを見せたいし……」


 はっは~~~~~~ん。

 初めて知ったけど、レイスはミリアに惚れている訳だな!?

 なるほどなるほど。

 子供の頃は、好きな子にとにかく格好いい所見せたくて、張り切って様々な事を頑張るよなぁ。

 大抵空回りで終わる訳だけど。

 しかし、今回は魔物という命のやり取りをする相手だ。もし上手くやれたらさぞかし格好いいだろうな!


 でも気が付かなかったわ、レイスがミリアに惚れてるの。

 学校では確かにいつもレイスとミリアがペアでいるなとは思っていたが、好きだったとはね。

 ミリアに関しては……多分今好きな人はいないっぽいかな?

 そんな素振りを見せた事がないし、愛想は男子生徒に満遍なく振り撒いているからな。


 では、微力ながらこのおっさんが、しっかりとお手伝いしましょう!


「いいぜ、頑張ってアピールしろよ? それと、後で男性陣集まって恋バナしようぜ!!」


「う……するのかい?」


「おう!!」


「わ、わかったよ」


 むっふっふ~。

 これはダンジョン探索で一つの見物が出来たな!

 果たしてレイスは、ミリアに格好いい所を見せられるだろうか!?

 おっさんは、しっかり見守ってるぞ?


 そして、ついにバイトスパイダーがいると思われる場所に到着した。

 そこは広い空間となっていて、低い天井も一気に高くなっている。

 戦うスペースとしては、広くて十分だ。

 オーグは《ライト》の光を強めて、空間全体に明かりが行き渡るようにした。

 すると、そこにいたのは、成人男性の胴体と同じ大きさの蜘蛛が三匹いた。

 こいつが、バイトスパイダーだ。

 うん、タランチュラがそのまま大きくなった感じがして、正直気色悪い!!


「んじゃミリア達、戦いたいんだったよな? 俺はここで見物するから、自由に戦ってくれ」


「ありがとう、ハルっち!!」


「まっ、ヘマして大怪我はするなよ?」


「「「「は~い」」」」


 まだピクニック気分だよ。

 大丈夫か、こいつら!

 ……いや、ダメだな。

 確か魔物を討伐した事がないって言ってたっけ。

 となると、多分アレをやらかすかも。

 その時は俺が助けに入ろう。


「この戦闘は俺が指揮する! ミリアは後方でいつでも治療出来るように準備!」


「了解、レイスっち!」


「レオンは前線でバイトスパイダーを斬ってくれ! 可能な限り後方へ敵を行かせないで欲しい!」


「あいよ~♪」


「オーグは…………どうしよう?」


 レイスがリーダーとなり、的確にミリアとレオンに指示を出していたが、オーグの扱いに困っていた。

 やばい、オーグが涙目になっててちょっと笑える!

 日頃運動をサボっているツケが回ってきたんだ、受け入れるんだ、オーグ!

 こいつ、魔法戦技は何かしらの理由を付けてサボってる。

 それじゃ戦闘技術だって身に付かないし、ただのお荷物だ。


「ごめん、ハル。オーグはどうしよう?」


 ついにレイスはギブアップして俺に振ってきた。

 なら、無難な役割を与えるか。


「おいオーグ、お前はレイスとミリアをしっかり守れ。その剣は飾りじゃねぇだろ?」


「当たり前だ! 私を誰だと思っている!!」


「運動音痴のオーグだろ。とりあえず、与えられた役割を果たせよ?」


「くっ……。今度から魔法戦技もしっかり受ける事にしよう」


 うん、ちょっと遅いとは思うけど、まあいいや。

 それぞれの役割が決まった所で、レイスは杖を構えて宣言した。


「俺が魔法を撃ったら戦闘開始だ!」


「「「了解!」」」


 レイスが小声で詠唱を始めた。

 大きな声で詠唱すると、相手にどんな魔法を撃つかばれてしまう。

 言語を話さない魔物でも、俺達の言葉を理解できる個体もいる為、相手に聞こえないように詠唱するのが、この世界の魔術師の基礎中の基礎だ。


「詠唱完了! 行くぞ、《ファイア・ニードル》!」


 《ファイア・ニードル》は、《ファイア・ボール》と同様の火属性の初級魔法。

 火の針を撃ち込んでもし当たったら、体を貫通せずに体内に残る。そして内部を数秒間熱するというなかなかえげつない魔法だ。

 使い方によっては中級にも相当するらしく、術者のセンスが問われる。

 多分今回レイスがこの魔法をチョイスした理由は、《ファイア・ボール》だと当たったらバイトスパイダーが爆発四散するだろう。

 そうなったら糸を採取出来なくなる。

 なら爆発力がほとんどない《ファイア・ニードル》で仕留め、戦闘終了後に採取しようという事だろうな。


 レイスが放った魔法は、バイトスパイダーの一匹に向かっていったが、まるで気付いていたかのようにバイトスパイダーはバックステップをして回避する。

 回避と同時に、三匹のバイトスパイダーは何気に速い速度でレイス達に向かっていく。


「レオン、俺は次の魔法を詠唱するから、注意を引き付けて欲しい!」


「任せておけ!」


 レオンは一番先頭にいるバイトスパイダーに対して上段から一気に剣を振り下ろす。

 だが、このバイトスパイダーはまたバックステップを取り、レオンとの距離を取った。

 レオンも距離を離させまいと追撃するが、別のバイトスパイダーがレオンの横から糸を吐いてきた。


「はっ!? しまっ――」


 気付いた時には遅く、糸がレオンの胴体に命中する――

 と思ったが、何とあのオーグがいつの間にか前線まで走ってきていて、レオンを庇って自分から糸へ当たりに行った!


「うあっ!!」


「オーグ!?」


 オーグの身体に糸が絡み付き、腕毎自由を奪われてしまう。

 まさかオーグがレオンを庇うなんて、俺も驚いたわ!


「行け、レオン! 私は戦闘では役に立たないから、こんな事しか出来ない!! だから、早く!!」


「オーグ……。オレはお前の死を無駄にしない!」


「私はまだ死んでいない!!」


 レオンは先程自分が逃がしたバイトスパイダーに斬りかかる。

 回避されては噛み付かれそうになるが、レオンは辛うじてそれを回避する。

 対して、レオンを庇ったオーグは、糸を放ってきたバイトスパイダーにじりじりと距離を詰められている。

 何とか距離を取ろうとするが、転倒してしまって粘着力が強い糸が地面に張り付き、身動きが取れなくなってしまう。


「く、来るなぁぁぁ!!」


 ってか、レイスは何してるんだよ!

 レイスを見てみると、オーグを助けようか、それともレイスに向かってきている三匹目を倒そうか迷っている。

 オーグを助けたら、三匹目に後衛組が攻撃されてしまう。

 かと言って三匹目を処理したら、オーグが危険だ。

 きっと、そこで迷っているんだろう。

 普通ならここでレオンがさっさと今の敵を討伐して援護に向かうべきなのだが、大苦戦中だ。援護は望めない。


 俺は、ギリギリまで手は出さない。

 それがあいつらが望んだ事だし、魔物の怖さを知る調度いい機会だと思ったからだ。

 こいつら、何か知らないが魔物を軽く見ている節がある。

 だったら徹底的に魔物は怖い存在である事を、身を以て知った方がいい。


 本音を言えば今すぐ助けに行きたいけど、まだ何とか出来ると思う。

 俺はもうちょっと見守る事にした。


 さて、この状況をどう打開するかな、レイスは。




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