第36話 俺の大事な人達からの手紙、そして――


 音楽学校で勉強し始めてから、一週間が経過した。

 レイス、ミリア、レオンとはこの一週間でかなり仲良くなった。

 リューンの実技指導では、担任教師やクラスの皆が腰を抜かすほど、俺の演奏技術はぐんを抜いていたみたいだ。

 それから《勤勉派》の奴等からはアドバイスを求められ、他の授業では俺が《勤勉派》の皆から色々助けてもらっていた。

 

 この一週間でわかった事は、仲良くなった三人組の音楽技術を把握できた事だ。

 レイスはやっぱりクラスの中ではかなり演奏が上手い。

 恐らくアーバインを意識しているんだろう、所々あいつのような演奏方法や音の出し方をしていた。

 ミリアは、本当楽しそうに歌を歌っていた。

 リューンの演奏技術はまぁまぁだけど、透き通っていて声量が大きい、気持ちいい歌声だ。

 自分ではあまり歌は上手くないって思っているみたいだが、そんな事はない。ポップ系がとても合う歌声なんだ。

 そしてレオンは、すっごく面白かった。

 こいつはリューンをまるでエレキギターのように演奏しやがる。周りはバカにしていたけど、俺は俺の野望に理想的すぎてガッツポーズをした。

 間違いなくアームが付いているエレキギターを持たせたら、ギュインギュインと音を歪ませるだろうなぁ!


 さて、もう一つ報告がある。

 やっと、レイとリリルから手紙の返事が来たんだ!

 後、うちの両親からも来た!


 まずはレイから。


『親愛なるハルへ。

 王都では元気にやっているかな? 僕はそれなりに元気にやっているよ。でも、やっぱりハルがいないのがすごく寂しいな。

 リリルも僕と同じみたいで、下を向いてため息を漏らしているんだ。君の事を想っているみたいだよ?

 弟がよちよちだけど、歩けるようになり始めたんだ。とっても可愛くて、僕も両親もとっても可愛がっているよ。

 後は、やっぱりハルが心配していたように、君がいなくなった途端に色んな男子から声を掛けられたよ』


 ……ほほぅ。

 あいつら、相当死にたいらしいなぁ。

 まぁ贔屓目なしで、レイは大人っぽくて綺麗だからな。他の男もそりゃアタック掛けたくなるよな。

 レイは本当に色っぽい。

 何でこんな俺の事を好きになってくれたんだろうって思う位、美人なんだ。

 前世でも、こんなレベルの容姿をしている芸能人は滅多に見ない位だからな。

 ただし、あいつの剣の腕前は、うちの父さんでも驚いている程だ。あまりにも凄い腕前で、貴族の女としては貰い手はほとんどいないだろうだってさ。

 事実、レイの両親もその部分に頭を悩ませていたみたいで、俺という存在が現れるまでは剣術を禁止にしようとも考えていたそうだ。

 でも俺のおかげでその心配はなくなり、顔を合わせる度に「いつ我が家に婿に来てくれるんだね?」と言われる。

 ……何で俺がゴールドウェイ家に婿入りする事が確定しているんだろうか。

 さて、続きを読もう。


『でも安心して欲しい。ハル以外興味ないって言ったから。思いっきり凹んでたけどね』


 バッサリ切り捨てたな、レイ!!

 俺としては嬉しいが、ちょっと声を掛けた男が気の毒に思う。

 ま、いい気味だけど!


『美しいとか綺麗だって言われるけど、僕は、ハルから言って欲しいんだ。他の男子からじゃない、君の言葉が欲しいんだ。

 そう思うと、ハルにとっても会いたいよ。文章じゃなくて、声を聞きたいんだ。

 こんな僕は重い女かな? ハルに嫌われないかな?

 でもそれ位、ハルの事が好きなんだなって、離れてわかったよ。

 早く会いたいな。

 ハルも、僕と同じ気持ちだったらすごく嬉しいよ。

 じゃあ、この辺で。いつも一番星が君の頭上で輝いている事を祈って。


 レイ・ゴールドウェイ』


 最後の「いつも一番星が君の頭上で輝いている事を祈って」ってのは、今流行りの詩だっけかな?

 夢を追っている人に、一番輝いている星がその人の頭上で輝いていれば、夢は叶うっていう内容だ。

 ああくそっ!

 レイにめっちゃ会いたくなったじゃねぇか!!

 レイは重くない、全然重くないしむしろ嬉しい!!

 その気持ちを全面に押し出した返事を書こう。もちろん、愛の言葉も乗せてね!

 本当にレイは、俺を精神的に支えてくれる女だよ。

 俺も、レイの気持ちに応えられる男にならなきゃな!


 次にリリルだな。


『ハル君へ。

 王都では風邪を引かずに元気にやっていますか? 私は、とりあえず元気です。

 ハル君が王都に行って三週間程経ちましたが、やっぱり私はハル君がいないのが慣れません。

 レイちゃんも同じみたいで、時々空を見ながらため息を付いています。私もため息を付いているみたいです。

 一応報告です。最近男子からとにかく声を掛けられて怖いです。特にアンディ君がすごくて、通りすがりに私の胸に触って来ました』


 …………あ?

 アンディ、貴様、俺のリリルに何してくれちゃってるんだ?

 俺だって、俺だって!! まだリリルにエッチな事は一切してねぇんだぞ!!

 本当は俺だって触りたいよ、触りたいよ!?

 あのぽよぽよした素敵なおっぱい触ってないんだぜ!?

 それなのに、それなのにぃぃぃぃっ!!

 

 アンディ、帰郷後に貴様を血祭りにする事にした。決定事項だ。

 貴様が泣いても、俺は殴るのを絶対に止めないからな。

 おっと、まだアンディ関係の続きがあるな。


『触った後、「やーい、リリルの太っちょ! 太っちょだから、胸もそんなにぽよぽよなんだよ!」って言われました。

 私は自分でもそんなに太ってないって思うのですが、ハル君から見て太ってますか?

 太っているなら、こんな胸いらないので、苦手だけどいっぱい運動をして痩せたいです』


 ああ、うん。

 アンディ、お前、あれだな。

 好きな子にちょっかいを出しているってやつだろ。素直になれなくて、意地悪してるっていうの。

 でもな、お前やり過ぎ!

 あからさまにリリル傷付いているじゃんか!

 リリルは太ってない、スレンダーで胸が大きめって感じだ。

 そして可愛い!

 返事には痩せなくても魅力的だよって、伝えておこう。


『後、来月学校が改修工事をするみたいで、一ヶ月の長期休みになるみたいです。

 今私とレイちゃんで王都へ行こうという話をしています。

 もう私達は、ハル君に会いたくて仕方ないんです。

 しっかりと旅行の計画を立てて、頑張って両親を説得しようとしています』


 えっ、マジ!?

 こっちに来るの!?

 うっそ、会えるんだ!!

 やっべぇ、めっちゃくちゃ嬉しいんだけど!!


『会ったらまたぎゅーってしてください。後キスっていうのももう一度してほしいです。

 それじゃあ、ハル君からのお返事待ってます。

 大好きです!

 リリル・バードウィル』


 うっわ……。

 まさかリリルからキスをねだられるなんてな……。

 一度と言わず、何度でもさせていただきますとも、はい!!

 本当、リリルには癒されるよ。

 俺の気持ちをありったけ乗せた文章で返事を書こう!


 さて、最後に両親だな。

 まずは父さんから。


『よう、ハル。お前の事だから問題なく向こうでやってると思う。

 だが一応聞いておこう。

 元気にやってるか?

 俺は学校の魔法戦技の教師をやっているおかげで、生活がかなり楽になってきている。

 おかげで母さんの負担を楽にしてやれている。

 近々学校が大掛かりな改修工事をやるのは、俺が教師をやった事で入学希望者が倍以上に膨れ上がって、今の建物じゃ全員入れないらしいからみたいだ。おかげで俺達教師の給料が結構増えて、俺を含めた皆は大喜びなんだけどな!

 まっ、俺は手紙は苦手だからそろそろ終わりにする』


 はええよ、父さん!

 でも、元気でやってそうだな。

 なるほどね、一ヶ月の改修工事の理由はそれか。

 父さんが客寄せパンダになったんだな。まぁ生活は楽になるからいいと思うぜ。

 しっかし、きったねぇ字だな!

 父さんらしくて好きだけどな。


『じゃあ最後に。そっちにも魔法戦技の授業があると思うから、一つ俺から課題を出そう。

 今後は相当強敵と遭遇しない限り、左手で戦え。そうだなぁ、右手と同じように扱えるようになれ。そして右手の練度を落とすな。

 どっちかの腕を失っても戦えるようにしておくんだ。それじゃ、頑張れ!』


 ちょっ、最後に難題を吹っ掛けてきやがった!

 左手でも剣を振るえるようにして、尚且つ右での剣の腕を落とすなとおっしゃる!

 マジかぁ……。

 でも、父さんも左腕があった時は、時と場合によっては左手で戦っていたらしいからなぁ。

 まぁ父さんの言う通りにしてみるか。

 今日から寮の庭で素振りでも始めてみよう!


 そして母さん。


『ハル、もう王都で暴れ回っているかな?』


 暴れている事前提かい!!


『私は、やっぱりハルがいなくてとても寂しいわ。だって、ハルがいたから賑やかだったんだから。

 父さんも何だかんだ寂しいみたいで、朝の剣の訓練だって、寂しそうに素振りをしているのよ?

 ハルと稽古してた時の方が生き生きしていたわ。

 でも、特にハルに関しては全く心配していないわ。だって、私とロナウドの子供だもの、障害なんて壊して突き進んでいると思うから。

 じゃあ最後に報告するわね。

 多分ハルが帰ってくる頃に、ハルの弟か妹が生まれるわよ』


 ……へ?

 マジで?

 俺に、兄弟出来るの!?

 えっ、エイプリルフールじゃねぇよな!?


『まだ父さんには内緒にしているけど、近々言うつもりよ。

 だから、お兄ちゃんらしく、向こうで立派になって戻っていらっしゃいね。

 それでは』


 うおぉぉぉぉ!!

 こりゃマジらしい!!

 えっ、父さんと母さんが結構頻繁にヤってたのは知ってたけど、まさか子供を仕込んじゃう程だとは思わなかった……。

 まぁ猟師だけだと、俺達三人だけで暮らしていくのがやっとで、俺が猟に参加してから少しだけ余裕が出てきた。

 最近は教師っていう実入りが良い仕事にありつけたから、二人目を作ったって感じかな?

 でも嬉しいなぁ。

 兄弟って密かに憧れてたからさ。

 前世では俺、一人っ子だったし。


 そっかぁ、俺、お兄ちゃんになるんだな。

 でもどっちなんだろう、弟なのか? 妹なのか?

 うあぁぁ、気になってしかたねぇ!!

 

 やっべ、軽くホームシックにかかりそうだわ……。

 こういう時、電話があればいいんだけどなぁ。

 残念ながら俺には、電話の仕組みを把握している程の知識がないから、恐らく実現できない。

 魔法の概念を取り入れようとしても、多分無理!


 ……こりゃ本当、この王都でガチで頑張らなきゃな。

 こんなに応援してくれる両親がいる。

 こんな俺を好いてくれる、最高の女の子が二人もいる。

 それに応えなきゃ、男じゃねぇな!

 絶対に、俺は最優秀留学生の称号を持って帰ろうじゃねぇか!!


「よっしゃ、気合いが入った! 頑張るぜ!!」


 そう意気込んだ瞬間、隣の部屋から聞き覚えのある音が鳴った。

 壁越しだから小さな音だったけど、俺は聞き逃さなかった。


 ちょっと待て。

 その音、どうやって鳴らしてる?

 この世界には、リューンしか楽器がないはず!

 

 試しにサウンドボールを隣の部屋へ放り投げる。

 サウンドボールは壁をすり抜け、隣の部屋の音を拾って、俺の聴覚細胞へ直接音を伝えてくれる。


 ――やっぱり、あの楽器の音だ。


 隣の部屋って誰だっけ?

 そういや、挨拶一切してなかったな。

 挨拶がてら、凸ってみるか!


 俺は自分の部屋を出て、隣の部屋のドアをノックした。

 ……返事がないな。

 ドアノブを回してみると、鍵がかかってない。

 よっしゃ、ノックはしたから突撃だ!


「ちわーっす! 隣の部屋のハル・ウィードです!! すっごい聞き覚えのある音が鳴ってたので来てみました!


「うわっ!! ……貴様は」


「えっ、マジ? イケメン貴族?」


 隣の部屋の住人は、初日俺に突っかかってきたイケメン貴族だった。

 そして、その手元にあったのは、サイズがかなり小さいピアノ、トイピアノだった。




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