第13話 ドラゴン撃破!


 さぁ、ウィード親子の共同戦線だ!

 俺は右手にナイフを持って構え、父さんは剣を構えて立っている。

 父さんの失った左腕からは血が止まる様子がない。

 こりゃ、この攻撃で仕留めないといけねぇな。

 だがな、俺はもう油断しない。

 確実にこいつを戦闘不能にして、その後に命を奪う算段は出来ている。

 いくらトカゲ野郎でも、絶対にこれが効くはず!


「父さん、今から一切音が聞こえなくなるから、驚くなよ?」


「……お前の魔法でドデカイ音を鳴らすつもりか?」


「正解! 多分あいつはひっくり返る位悶えるから、トドメはよろしく!」


「任された!」


 ドラゴンが俺達に向かって咆哮するが、遅いんだよ。

 もう遮音してあるから、お前の声なんざ聞こえねぇ。

 俺はサウンドボール二つを、奴の耳と思われる首の付け根辺りにある空洞に吸着させる。

 さぁ、遠慮なく行くぜ!


「必殺、《聴覚細胞殺し》!」


 イメージした音は、戦車の主砲の音。

 人間でも耳栓をしないと、聴力を持っていかれるって位の音だ。

 それを、耳元の超至近距離でお見舞いしてやった。

 地球でのトカゲは鼓膜がなく、骨振動で聴覚細胞に伝えると聞いた事がある。

 ならば、衝撃すら走る程のデカイ音を響かせるとどうなるか?

 三半規管があるなら、回転性(世の中が回るような)めまい、吐き気、頭痛が同時に襲ってくるはず。

 なかったとしても聴覚細胞と脳へダメージを与えられる。

 何も異常が起きない訳がねぇ!!


 ガオォォォォォンッ!!


 人間の内臓すらも震わせる程の空気振動だ、直接音をぶち当てられた奴がまともにいられる訳がなかった。

 完全に足は止まり、千鳥足になる。

 恐らくめまいが起きてるな、そのまま仰向けに倒れる。

 そして頭を何度か振っている。頭痛か?

 次に黄色い吐瀉物を吐いた。吐き気も起きてる。

 狙い通りだな!

 

 俺は遮音を解除して、父さんに叫んだ。


「父さん、今だ!」


「……おう!」


 父さんはドラゴンの頭の所で跳躍。

 空中で剣を下にかざし、全体重を乗せた状態でドラゴンの顎を突き刺した。

 ズブリと剣が深く刺さっている。

 位置からして、刃が脳を貫いたと思う。

 ドラゴンはビクンッビクンッと体を何度か震わせた後、そのまま絶命した。


「「はぁ、はぁ、はぁ」」


 俺と父さんは、息絶え絶えだった。

 そりゃそうだ、俺はまだ五歳のガキでこんな過酷な鬼ごっこをしたんだ。体力はもう絞りカスしかない。

 父さんは血が足りなくなってきているんだろう。顔が白くなってきている。

 俺は体力の限界で震える足を何とか立たせ、自分の服を破って父さんに近づいた。


「はぁ、簡単な、応急処置……だけど、やらないよりマシ……だろ」


 俺は左腕の付け根をキツく縛り、出血を抑えた。

 完全には抑えられないけど、やるとやらないでは目に見えて出血量が違う。

 

「お前……本当にどっからそんな処置を覚えてきたんだ」


「図書、館」


 前世の記憶からです、なんて言える訳がない!

 だから図書館からの知識って事にしておいた。


「さぁハル、俺も……もうちょっとで動けなくなる……。動けなくなる前に、帰るぞ」


「……うん」


「覚悟しろよ、思いっきり叱ってやる」


「えっと、自分で言っておいて何なんですが、お手柔らかに……」


 俺達は精一杯歩いて帰路に着いた。

 早く帰りたかったけど、歩くので精一杯だった。

 父さんはどんどん血が足りなくなってきたからか、足がふらついている。

 でもお互いに助け合う余裕はなかったから、口でお互いを励まし合って何とか家に着いた。

 母さんは父さんの姿を見て青ざめていたけど、すぐに持ち直して村から回復魔法を使える人を呼んできた。

 その人は細胞を操作して断面を皮膚で覆って止血してくれた。痛みもなくなったようで、俺は心の底から安心できた。


 さぁ、俺が叱られる番だな……。

 確かに自分から言い出した事だけど、いざ直面するとちょっとストレスを感じる。

 まずは母さんが近づいて来る。

 あぁ、こりゃビンタされそうだなぁ……。

 お願いお願い、力は入れないで!

 ぶたれると思ったら、母さんは俺を抱き締めてくれた。


「ハル……よかった! 無事で本当によかった!」


「……え?」


 叱るどころか、泣いて俺の無事を喜んでくれた。

 何で、何で怒らないんだ?

 俺のせいで父さんの左腕がなくなっちまったんだぞ?

 俺は混乱する。

 でも、何だろう。胸がすごく痛かった。

 こんなにも母さんの事を心配させてたんだなって思ったら、息をするのも苦しい位胸が痛かった。

 

「……心配かけてごめん、母さん」


 俺は確かに中身四十歳でこの人達より年上かもしれない。

 でも、俺の中でこの人達は尊敬出来る両親だと思っている。

 大事な両親をこんなに心配させたんだ、平気でいられる訳がなかった。

 俺は母さんを抱き締め返し、その心地良い温もりを感じた。

 あぁ、これが母親の体温なんだな。

 俺は自然と涙が出てきた。


「さて、次は俺の番だな」


「うっ……」


 次は父さんか……。

 一番厳しそうなんだよな。

 

「とりあえず、よくドラゴンとあそこまでやりあったな!」


「うぇ!?」


 いきなり褒められてびっくりして、変な声が出た。

 父さんは俺の頭をくしゃくしゃさせながら、褒めてくれたんだ。


「お前はやっぱ天才だ! レイニードラゴンに一撃を加えられる五歳はそうそういない!」

 

 はっはっはっと豪快に笑う父さん。

 えっ、俺怒られないの?


「だが、今後は俺が許可するまで一人で森に入るのは禁止だ」


 ですよね!


「う、うん」


「それと、多分お前の事だから飛び級狙ってるだろ? それも禁止だ」


「えっ、何で!!」


 飛び級を禁止されたよ!

 マジで理由わからないから説明して、パパン!!


「お前の大きなミスは、そのユニーク魔法で天狗になった事だな。確かにお前は天才だけど、少しは協調性を学校で学んでこい」


「えぇぇぇ?」


「それとな、皆とバカやって遊べるのは、学生の間だけだ。もっとたくさん友達を作って、たくさん遊べ。卒業したら、お前がやりたいようにやってもいいからさ。まぁ今回の罰って事で」


「……うん、わかった」


 罰って言われたら、もう何も言えないじゃん。

 父さんの左腕はなくなった。それは俺の戒めになると思う。

 命のやり取りを甘く見すぎていた事、上には上がいるとわかっていなかった事。

 今回はたまたま勝てたんだ、きっと俺の魔法が通じないケースだって出てくる。

 なら、学校でもしっかり知識を蓄えて、戦闘の腕も上げていこう。

 飛び級はしたかったけど、仕方ないな!


「……父さん」


「なんだ、ハル」


「俺、もう戦いでは絶対に傲らない。油断もしない。もう二度とこんな事態にならないようにする。本当にごめんなさい」


「……ふっ、いいさ。たかが左腕だけで済んだんだ。俺には右腕があれば十分だし、大事な息子が助かったんだ。これ以上ねだるものはない!」


「父さん……」


 あぁ、本当にこの二人が両親でよかった。

 俺はこの世界に来て、初めて号泣した。

 両親の暖かさに触れ、こんなに心配してもらえて、本当に嬉しかったから。

 もう俺は、二度と両親を悲しませる事はしない!

 両親に抱き締められて泣く俺は、そう決心したんだ。















 それから二年が経った。

 俺は七歳になり、学校も三年生へ昇級していた。

 リリルとレイも問題なく同じ学年になった。

 

 大きな変化としては、俺の身長が結構伸びた事かな。

 クラスで二番目位の大きさだ。

 筋肉も付き始めて、七歳ながらに細マッチョ状態だ!

 顔立ちに関しては、目付きは父さんに似てて、顔の作りは母さんからの遺伝が濃く出ている。将来結構イケメンになると俺は睨んでいる。

 素敵な両親から良いところを引き継いで、俺は順風満帆だ!


 リリルに関しては、女の子っぽさが出てきた。

 この世界の女の子は成長が早くて、リリルもその一人だ。

 もうさ、胸の膨らみがあるんだよ!

 クラスの中で一番その膨らみが目立ってる!

 それにさ、ちょっと丸みを帯びていたのに引き締まってきて、将来間違いなく美人さんになるであろう顔立ちになってきている。

 そばかすがあるけど、それでも可愛い。そしてあんまり意識してなかったけど、緑色の目が宝石みたいで綺麗なんだよね!

 目を凝視すると、恥ずかしいのか下を向いてしまうのも可愛い!

 最近はほとんどの時間、俺の隣にいる。もうね、俺への好意がバレバレなのです!

 ……これで違ったら超ショックだけど。


 レイは、何だろう。

 女っぽくなってる。

 何で!?

 声があからさまに高くなっているんだよ。

 綺麗な、澄んだ声だ。歌わせてぇ!

 茶髪の長い髪をポニーテールにしているんだけど、ますます女に見える。

 うなじが、なんか色っぽい。

 お前、本当に七歳か!? 年齢詐欺ってねぇか!?

 だから最近、こいつは本当に男なのかを疑ってしまってる。

 何か妙に俺を見る視線に熱があるからさ。

 男だったらショックだよ、そして俺はノンケだ!!


 さて、今日の一発目の授業は《魔法戦技》だ。

 多分俺が一番変化した部分を披露出来る、最適の授業だろうな。

 俺はあの時のミスのおかげで、戦闘に関しては大きく成長した!

 もう絶対に油断はしない。

 相手が格下であろうが、何が起こるかわからないのが戦闘だ。

 俺は今、魔法戦技の授業で一番厳しい特訓をしていた。


「ハル君、頑張ってぇぇっ!」


 リリルが声を張って応援してくれる。

 可愛らしくて、力がみなぎってくるぜ!


「ハル、頑張るんだよ!!」


 レイも応援してくれた。

 やっべ、最近女として見ちゃってるから、力がみなぎってくる。

 お願いしますお願いします、レイは男じゃありませんように!


 では今の状況を説明しよう。

 俺は上級生十二人に囲まれています。

 しかも「魔法を打ち込むぜ」と言わんばかりに、全員から掌を向けられている。

 そう、これが今の俺の特訓、対複数人戦闘!

 より実戦的且つ、盗賊などの集団で襲ってくるのを想定した特訓だ。

 俺はタイマンでは先生を含めた全員に勝つ事が出来たので、自分から進んでこの特訓をしたいとお願いしたんだ。

 

 俺は目を閉じ、自分の心臓の音を聞く。

 ……あぁ、落ち着くな。

 俺の攻撃的な感情、そして傲りがなくなっていき、そして冷静な俺になる。

 一切油断しない、俺の戦闘モードだ。


「さぁ、いつでもどうぞ」


 俺は、木剣を構えて戦闘体勢を取った。

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